「あー、なんか最高だなぁ」
ちかちかと頭上に瞬き始めた一番星を見上げて彩夏がつぶやく。七海も同じように上を見上げてつぶやいた。
「そうだね、こんなとこに住めたら最高だね」
しばらくの沈黙ののち、彩夏がぽつりと七海に言う。
「ねえ、二人でさ、本当に住んじゃわない?ここに」
「ここって、この島に?」
「そう。お互いライターだしさ、ウェブ関係の仕事だったらここでもできると思うんだよね。せっかくならカフェとかもやりたいな。
私昨日島を見て回ったんだけどさ、そういうお店意外と少なくて、結構需要あると思うんだよね」
唐突な話ではあったが、それは七海にとってもとても魅力的な話に思えた。
今は東京で働いているけれど、それはよくよく考えてみるとなんとなく東京の大学に進学してそのままそこで就職をしたからであって、
改めて考えてみるとただの惰性でいまの自分の居場所を決めてしまっていたように思えてくるのだった。
「……うん、それもいいかも」
旅の勢いかもしれない。今日初めてであった相手と、見知らぬ土地で住み始める?
それは突拍子もないことのように思えたけれども、心の奥をじっと覗き込むと途方もなくわくわくしている自分がいた。
七海は改めて彩夏の方に向きなおり、彼女の眼をまっすぐ見つめて改めて言う。
「うん、それいいと思う。やろうよ」
そういうと彩夏は今日一番の笑顔を浮かべてパン、と勢いよく両手を打ち合わせた。
「おっけ、決まり!じゃあたった今から私たちは『夏の同盟』だね」
「夏の同盟?」
「昔見た本に書いてあったフレーズ。なんだか気に入っていて、ずっと使いたかったの」
「いい響きだね。じゃあ、私たちは夏の同盟ってことで」
「よし、夏の同盟に改めて乾杯!」
彩夏は勢いよく告げると、ビール缶を差し出してくる。七海もとっくに空にしてしまっているビール缶を差し出して、勢いよく打ち付けた。
夏の夜に結成された同盟を見守るかのように空には高らかに月が上っており、遠くからは歓声と音楽が祝福するかのように伝わってきた。