そうして初めて、彼女は自分が全身汗だくになって音楽に身を浸していたことに気がつく。
我に返るとこの短い時間で水分をかなり消費してしまったのか、少々足元がふらついていた。
あ、これちょっとまずいかも。
そう思った時にはくらりと体が傾いていた。妙に冷静な頭で地面が近づいてくるのを見つめる。

ぽすっ、という感触と共に地面に倒れ伏す途中で体の傾きが止まった。首を捻って見上げた視界には心配そうに七海を見つめる女性の顔があった。

「あの、大丈夫ですか?立てます?」

どうやら彼女が倒れそうになった七海をとっさに支えてくれたらしい。
彼女に支えてもらいながら、七海がどうにか体の軸を正常に立て直したところで首筋にひんやりとしたものが押し当てられた。
見ると、彼女が自分の首にかけていた保冷剤をくるんだタオルを七海の首にかけてくれていた。

「少し首元を冷やすといいですよ。あと、これ飲んでください」

持っていた保冷バッグに包まれたペットボトルを差し出してくる。
すいません、ありがとうございますと七海は彼女にお礼を言って、冷えたスポーツドリンクを喉に流し込んだ。
無意識に失われていた水分が補給されたことでようやく少し体調を取り戻す。ふらついていた足元も、どうにか歩けるくらいまでには回復していた。

「すいません、ちょっと汗をかきすぎたみたいで」

恐縮しながらお礼を述べる七海に対して、その女性は笑いながら、「もしかして、フェスは初めてですか?」と話しかける。

「はい。初めてなんですけど、ちょっと油断しちゃいましたね……」
「歩けそうですか?」
「大丈夫そうです。すいません、助けていただいて。もう自分のテントの所まで戻るので」
「あ、じゃあテントの所まで一緒に行きますよ」

申し訳ないと思いながらも七海は彼女についてきてもらうことにした。