オープン初日、フェスのタイミングと重なったことにより記念すべきその日の集客はまずまずだった。
慌ただしい一日を終えて片付けを済ませると、店をオープンさせたという実感がようやく二人にも湧いてきた。

日の沈む島々が見渡せるテラス席に出て、缶ビールを開ける。遠くから島風に乗って音楽が聞こえてくる。
今の時間からするとちょどファインバインの今年のステージかもしれない。彼らは既にメインステージのトリを飾るくらいの人気を獲得していた。
見に行けなかったのは残念だったが、いまこの場所で頑張ることが彼らへの恩返しのように思えた。

「お疲れ」「お疲れさま」

互いに声を掛け合い、缶を付き合わせて、一気に飲み干す。

「はー、美味しい」

思わず声を漏らした七海に、笑いながら彩夏が言う。

「すっかり七海もビール党になったね」
「2年前のフェスの時にハマってからかぁ。もうすっかり遠い日の事のようだわ」

あの日、夏の同盟を結んでから七海の日常は大きく変わった。まさか自分が島暮らしを始めるなんて思ってもいなかった。
そしてそれは実のところ彩夏も同じだった。

「あの時、七海がやろうって言ってくれなかったら、きっと私は口にしているだけで一生こんなことやっていなかったと思う。
七海が私の背中を押してくれたんだよ……ありがとうね」

思いもかけない殊勝な彩夏の言葉に、七海は驚いていたが、彼女の言っていることは本心だろうと思った。
彩夏は威勢のいいことを言う割には思慮に欠けるところがある。それはこの2年で七海にはよく分かっていた。
そしてそれは七海が補える点だった。ぶつかることももちろんあるが、奇跡のように二人の特性はかみ合っていた。
故に七海はこれからの事を考える。

「なーにしおらしいこと言ってんの。これからがきっと大変だよ」

笑いながら少し目を細めて七海が返す。照れ隠しも多分に含んでいたようにも思う。
実際大変なのはこれからだ。ライターの仕事も続けながらカフェの経営を続けていく事がどれだけ大変であるのかはまだ未知数だ。
二人はあくまでようやくスタート地点に立ったに過ぎない。

「これからもよろしくね」「もちろん」

そう言って再び乾杯する。上り始めた夏の月は、2年前と同じく、夏の同盟を祝福するかのように二人を照らしていた。