気がつけば冬が過ぎ、春になって、次の夏がやってきていた。
仕事もプライベートもぐちゃぐちゃな状態のまま、二人は今年も島で開催された野外フェスに参加していた。

今年もファインバインはフェスに参加しており、しかも去年よりも大きなメインと呼べるステージに立つ事になっていた。
彼らはこの一年で着実にステップアップしていた。対して二人はどうだろうか。必死になって準備を進めてはいたが、同じところをぐるぐる回っているようにも思えた。

昼過ぎからぽつぽつと降り出した雨は、ちょうど彼らの出番の前になっていよいよ本降りとなってきていた。
ステージ上をスタッフが慌ただしく駆け回る。この勢いだとステージが中止になるかもしれない。観客も固唾を飲んで見守っている。
機材にビニールがかけられ、対策は施されているが、強まる雨にステージ上までもしとどに濡れていた。

それでもバンドメンバーはステージに現れた。
吹き付ける雨に演奏前からぐっしょりとその身を濡らしながらも、力強く最初のフレーズをかき鳴らす。
彼らが最初の曲に選んだのは「螺旋」という曲だった。
まだ彼らが駆け出しの時、売り上げが思わしくなくレコード会社から次の曲が売れなければクビになると脅され
当時人気を博していた作曲家の歌を歌えと命令されていた。それをきっぱりと断って、クビを覚悟で作った歌がこの歌だった。


『僕らは螺旋。

螺旋をその身に抱えて、ぐるぐると回りながら、それでも進んでいく。

同じ場所にいるように見えたって、明日には違う景色を見ているんだ』

七海と彩夏は二人寄り添うようにステージの正面に並んで立っていた。
がむしゃらに伝わってくるその歌を雨に打たれるのも構わずにレインコートのフードを外し、まばたきも惜しいくらいに全身で噛みしめる様に受け取っていた。
そっと七海は彩夏の手を握る。戸惑ったように一度離れた後、彩夏はぎゅっと強く七海の手を握り返した。

彼らが一曲目を歌い終える頃には嘘のように雨は上がり、空には夏の太陽が再び顔を覗かせていた。