二人の打ち合わせ場所はリサーチも兼ねて都内のあちこちのカフェで行われていた。
いつの間にか季節は吐き出した息が白く曇るくらいまでに歩みを進めており、
今回の打ち合わせ場所に決めたカフェに向かう七海もマフラーを忘れたことに後悔の念を覚えていた。

今日のカフェはシンプルな内装で、2階はギャラリーも兼ねており、店内の壁にもアーティストの作品が展示してある。
七海はこういったコンセプトも悪くないかもと思いながら、一足先にコートを脱いで店内で彩夏を待っていた。
珍しく待ち合わせ時間に遅れて到着した彩夏の表情は冴えなかった。
不思議に思いながらも七海は準備してきた資料を取りだして話を始めようとするが、それを彩夏が遮って話を始めた。

「ねえ、やっぱりやめにしない」
「……は?」

彩夏が何を言っているのか、七海にはすぐには理解できなかった。
それがこの計画を指していることに思い至って取り出した資料をいったん片付けると彩夏をまっすぐ見つめて尋ねる。

「……何があったの」

なにか理由があることは七海にも分かった。
まだ短い付き合いではあるけれど、彩夏が気軽にそういうことを言う人間ではないことは七海も理解していた。
彩夏は唇を一度ぎゅっと引き結んで俯いた後、覗き込むように七海を見ながら話しだす。

「結婚を前提に付き合ってくれって言われたの」

聞いた瞬間、流石に七海も動きが固まる。想像以上にプライベートな問題だった。
彩夏の反応を見ながらおそるおそる尋ねる。

「それってプロポーズじゃん。いったい誰に言われたの?」

彩夏にそんな相手がいるとは全く聞いていなかった。

「私の今のメインの仕事を担当してくれてる編集者の人なんだけど、でも奥さんがいる人なんだよね……」
「はあ!?」