リオ。スペイン語で「川」を意味する。あやかった訳じゃないけれど、私、大澤(おおさわ)理央(りお)の人生はまるで川のようだ、と常々思っている。
 
 これまで私は、九つの小学校と三つの中学校へ通い、今は二つ目の高校へ通っている。酷い時は一年に一校では済まなかった。そんな状況では当然友達なんてできるはずもなく、私はいつも行く先々で名前ではなく、「転校生の子」と呼ばれていた。初めはそれが嫌で仕方無かった。でも、すぐに慣れた。というより、諦めがついた。私はずいぶんと物分かりの良い子供だったと思う。
 両親はとにかく、ひとところに落ち着くことのできない人達で、もはや引越しは趣味と化している。自由気ままに、暮らしたい場所で暮らす。PCとスマホさえあれば株の動きは見られるらしい。いつからか私は、引越し先へ移っても段ボールの荷解きをしなくなった。どうせすぐにまた引越すのだから、解いて片付けたところで時間と体力の無駄なのだ。
 
 二年前に入学した過疎地域の高校は、あっという間に廃校となった。それを機に移り住んだのは、海に近い小さな町。時折、潮のにおいが鼻をかすめるその町を、珍しく私は気に入った。だが、転入の挨拶も早々に、私の心が悲鳴を上げた。原因もわからないまま、ある日突然教室へ入ることができなくなった。ストレスだろう、と病院で言われた。
 どうせこの町にいられるのもあとわずかだ。友達も、青春も、私には縁が無い。こうして流れに身を任せて生きていくしかないのだ。流れに抗う気持ちなんて、私の中にはもう残っていなかった。
 高校三年生になっても、私は学校を休んでいた。この先待っているのは卒業だけだ。
 試験の時だけ、私は保健室に登校した。
 
 一学期を終え、両親はまた別の土地に移ることを決めた。それが、私の現在地だ。
 両親を恨んではいない。そういう星の元に生まれてしまった自分を、恨んでいる。私もまた、ひとところに留まれない大人になってしまうんだと思う、きっと。