僕のような陰キャオタクにとって、学校生活は苦痛以外の何者でもない。
特に、見たくもない陽キャ・リア充共の姿を強制的に見させられる朝と夕方の「登下校イベント」は地獄だ。
やつらはまるで自分たちが世界の中心であるかのように振る舞っているくせに、中身のないスカスカのテンプレートみたいな会話しかしてない。
昨日観たドラマがつまらなかったとか、お目当ての女の子にLINEを既読スルーされたとか、今度の土曜日に恋人と映画を観に行くとか。
ああ、実にくだらない。
そんな話をして、一体何が楽しいんだろうか。
というか、こんなクソみたいな強制参加イベント一体誰が作ったんだ。これがゲームだったら、速攻でクソゲー認定されるぞ。
そもそも、登下校という行為自体が非効率的で時間の無駄だ。
僕の家から高校まで片道徒歩30分。
1日1時間、ひと月で約23時間。丸一日無駄にしている。
実家にいる父はテレワークとかいう制度を使って自宅で仕事をしているらしいし、授業もリモートでやるべきじゃないだろうか。
もしそうなったら、この無駄な時間を使ってイラストを描きまくれるのに。
「──それでね、この前ラムりんと買い物に行ったときなんだけど」
そんなふうに毎度のように早朝の強制クソイベントを呪いながら校門をくぐったとき、前を歩く女子たちの話し声が聞こえてきた。
「ま〜た『清野さんのファンなんです』って男が声をかけてきてさ」
清野さん。
その名前に反応した僕は、顔を上げて女子たちを見た。
もしかしてと思ったけど、やっぱり僕のクラスの陽キャ女子たちだった。
喋っている背が小さい女の子が乗富みどり。
その右隣にいる、ちょっとギャルっぽい女の子が三星夏恋。
そして──乗富の左にいる「ラムりん」と呼ばれた女の子が、学校一の美女と名高い清野《きよの》有朱《ありす》だ。
どうやら清野が街で男にナンパされたという話をしているらしい。
まったくもって、陽キャ共のつまらん話だ。
そんなクソみたいな話に興味は無いし、「昨日の件」があったので清野とは顔を合わせたくなかった。
だから、できるだけ近づきたくなかったんだけど、わざとらしく距離を取るのもなんだか負けたみたいで癪なので、気配を消したまますぐ後ろを歩くことにした。
「まぁ、私もファンなら仕方ないなって思ったの。でもその男、『これから一緒にカラオケ行かない?』とか言い出してさ。おいおい、お前ファンのくせにライン越えるんかいって思うじゃん? だから、あたしがラムりんの代わりに優しく断ろうと思ったわけ。したらラムりん、その男を自分でバッサリ斬り捨てちゃってさ」
「え? マ?」
ギャル三星の驚いたような声。
「ラムりん、チョクで言っちゃったの?」
「そ。塩対応で一蹴よ」
「ちょっとみどり、言いがかりはやめてよ」
おっとりとした清野の声が乗富たちの会話に割って入る。
「全然塩対応じゃなかったから。私はちゃんと優しい言葉で断ったでしょ」
「あ〜はいはい。確かに優しかったよ、口調だけはね。でも、『どこのどなたか知らないですけど、あなたには興味のかけらもないので、声をかけてこないでもらえます?』って、優しく言ったところで意味ないでしょ」
「意味なくない。だってマネージャの蒲田さんから言われてるのは『嫌だと思ったら角が立たないようにはっきりと断って』だもん。私の言葉に角は無かった」
「角は無いって、や、たしかに見た目は丸い感じするけど、どう考えても鉄球レベルじゃん。ナンパ野郎を撃退したいなら、投げつけるの生卵レベルで十分だから」
「……」
突然訪れる静寂。
どうしたんだろうと思ってちらっと清野を見たら、首をかしげていた。
「……どゆこと?」
「いや、まんまの意味だけど?」
「ていうか、みどりってさっきから『斬り捨てた』とか『鉄球投げた』とか何を言ってるの? 私は誰も斬ってないし、鉄球も投げてないよ? 初対面の人にそんなことしたら、怒られるじゃん」
「は?」
「え?」
ほわほわほわ〜。
後ろから聞いていてもわかるくらいに、清野からふわっとした空気が溢れ出している。
初対面であろうとなかろうと、そんなことしたら怒られるどころか捕まっちゃうと思うけど。
いや、ツッコミどころはそこじゃないんだけどさ。
「てか、斬ったとか投げたとかどうでもいいけど」
そんな清野の天然っぷりを見かねてか、三星が尋ねる。
「リアルにラムりんの事務所的に大丈夫なの? 推しにそんな対応されたらファン辞めますレベルだと思うけど」
「大丈夫。声をかけてきた男の人、すっごく感激してたから」
「え、推しに塩対応されたのに喜んでたの? 何それ怖い」
ドン引きした三星に、乗富が補足する。
「それがさ〜、その男『俺、清野さんに話しかけられたっ!』って喜んでたんだよね」
「あ〜、なるほど色眼鏡で見られちゃった系か。さすが芸能人だわ。何を言ってもポジティブに受け取られるって、無敵じゃん」
ケラケラと笑う三星。清野は乗富に「ほら、喜んでたんだから、どう考えても神対応じゃない」とドヤ顔をするが、呆れたような目を向けられていた。
三星が口にした「芸能人」という表現は、誇張でもなんでもない。
日本人とイギリス人のハーフである清野は高校生活の傍ら、モデルや女優といった芸能活動をしている文字通りの芸能人なのだ。
僕が調べた情報では、清野は中学時代に女性ファッション誌のオーディションに応募し、グランプリのひとりに選出されたらしい。
それから雑誌やファッションショーにモデルとして出演し、近々テレビドラマにも出演するとか。
実際、清野にはファンが多いし、学校でも彼女とお近づきになりたいと考える男子が、あの手この手で声をかけている。
その度に、天然系切り返し術で一蹴しているみたいだけど。
「……というか、どうでも良いだろそんなクソ情報」
つい、ボソッとひとりごちてしまった。
一応言っておくけど、ネットで清野ことを調べたのは彼女に興味があるとか、そういう下心があったからではない。
これは「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」というやつなのだ。
戦いにおいて、敵を知ることはとても重要なこと。
そう。陽キャどもの総大将的存在である清野とは、いつか拳で語り合わなければならない。それが僕のアイデンティティを確立するために必要なことで、避けては通れない必定の流れで──。
「……あ」
などど厨二っぽいことを悶々と考えながら昇降口に入ったとき、清野が僕のほうを振り向いた。
ばっちりと目が合ってしまった瞬間、ドキッと僕の心臓が跳ねる。
そんな僕を見て清野はかすかに頬を緩めると、ぱっと正面を向いた。
「……あ〜ゴメン、私ちょっとトイレ。みどりたちは先に教室行ってて?」
「りょ〜」
乗富たちは教室に向かい、清野はトイレがある逆方向に消えた。
それを見てホッと胸をなでおろす。
ああ、よかった。
一瞬目が合ったように思えたのは気のせいだったのか。
またあいつに絡まれたら大変なことになる。
昨日の出来事を思い出して軽く身震いをしてしまった僕は、気を取り直して靴を履き替えようとしたのだが──。
「どっじゃ〜ん」
妙な効果音と共に、清野が下駄箱の裏から現れた。両手を広げて肩をすくめた外国人の「分からない」ジェスチャーっぽいポーズで。
「……」
僕は靴を片手に固まってしまった。
改めて間近で見ると、清野はとてつもない美人だと思った。
色白の肌。
すっと通った鼻筋。
少し垂れ気味の大きな宝石のような目。
スカートから伸びるすらりと伸びた白い足。
そして、軽くウエーブがかった黒く長い髪は、鏡のようにつやめき輝いている。
着ているのは代わり映えのしない学校指定のブレザーのはずなのに、一流デザイナーが仕上げた衣装のように思えてしまう。
それも、清野の日本人離れした雰囲気が為せる技か。
「……あの〜、東小薗《ひがしこぞの》くん? できれば何か反応して欲しいんだけど」
無反応の僕を見て恥ずかしくなったのか、清野が少しだけ頬を赤く染めた。
僕はハッと我に返る。
「あ……ごごご、ごめん。ええっと、お、おおお、おはよう」
「うん、おはよ」
清野がススッと僕のすぐ横にきて、ひょいと顔を覗き込んでくる。
彼女の絹のような綺麗な髪が、サラッと肩から一房、落ちた。
「今日は早いんだね」
「そ、そうだね。き、きき、昨日は夜ふかししてないから」
「知ってる。だって、東小薗くんのツイッターに新作上がってなかったもん」
「……っ!?」
危うく下履きを落としそうになってしまった。
まさか清野、僕のツイッターを見てるのか!?
てか、どうやって調べた!?
まさか、情報を金で買ったとか!?
芸能人の清野ならあり得そうだから怖い。
「それで、新しいイラストはいつ上げる予定なの?」
「え? た、多分、明日くらい……かな」
「じゃあ今日の昼休みもマルチメディア室で描くんだ?」
「そ、そそ、そのつもり、だけど」
「そっか。イラスト上げたら教えてね」
「は、はい」
ふと、周囲からの視線を感じた。
他のクラスの女子たちが好奇の眼差しを僕たちに向けていた。
そういう反応をされて当然だろう。
方や芸能活動をしている学校のアイドル。方や中学生と間違われるくらいに背が小さく、存在感も皆無の陰キャオタクなのだ。
人前で僕なんかと話していたら、清野の価値が下がってしまう。
清野は僕の宿敵だが、そんなことで彼女を貶めるのは本望ではない。
陽キャの女王たる清野を正面きって倒してこそ、僕の未来があるのだ。
僕は努めて「清野が声をかけてきたのは日直の業務連絡です」的な空気を放ちながら、ササッと上履きに履き替えて足早に立ち去ることにした。
しかし、清野は僕の動きを読んでいたかのようにぴったりと横に付いてきていた。
流石にギョッと目を見張ってしまった。
「な、なな、何? まだ何か用……なの?」
「ん? 用事っていうか、ちょっと東小薗くんとお話したくて」
「おっ、お話? ぼぼ、僕と?」
「そ」
清野はそっと僕の耳元に顔を近づける。
「……私、やっぱり東小薗くんにシて欲しいんだよね」
「ぶふぉ」
その含みのあるセリフを耳元で囁かれた瞬間、キモい声で吹き出してしまった。
特に、見たくもない陽キャ・リア充共の姿を強制的に見させられる朝と夕方の「登下校イベント」は地獄だ。
やつらはまるで自分たちが世界の中心であるかのように振る舞っているくせに、中身のないスカスカのテンプレートみたいな会話しかしてない。
昨日観たドラマがつまらなかったとか、お目当ての女の子にLINEを既読スルーされたとか、今度の土曜日に恋人と映画を観に行くとか。
ああ、実にくだらない。
そんな話をして、一体何が楽しいんだろうか。
というか、こんなクソみたいな強制参加イベント一体誰が作ったんだ。これがゲームだったら、速攻でクソゲー認定されるぞ。
そもそも、登下校という行為自体が非効率的で時間の無駄だ。
僕の家から高校まで片道徒歩30分。
1日1時間、ひと月で約23時間。丸一日無駄にしている。
実家にいる父はテレワークとかいう制度を使って自宅で仕事をしているらしいし、授業もリモートでやるべきじゃないだろうか。
もしそうなったら、この無駄な時間を使ってイラストを描きまくれるのに。
「──それでね、この前ラムりんと買い物に行ったときなんだけど」
そんなふうに毎度のように早朝の強制クソイベントを呪いながら校門をくぐったとき、前を歩く女子たちの話し声が聞こえてきた。
「ま〜た『清野さんのファンなんです』って男が声をかけてきてさ」
清野さん。
その名前に反応した僕は、顔を上げて女子たちを見た。
もしかしてと思ったけど、やっぱり僕のクラスの陽キャ女子たちだった。
喋っている背が小さい女の子が乗富みどり。
その右隣にいる、ちょっとギャルっぽい女の子が三星夏恋。
そして──乗富の左にいる「ラムりん」と呼ばれた女の子が、学校一の美女と名高い清野《きよの》有朱《ありす》だ。
どうやら清野が街で男にナンパされたという話をしているらしい。
まったくもって、陽キャ共のつまらん話だ。
そんなクソみたいな話に興味は無いし、「昨日の件」があったので清野とは顔を合わせたくなかった。
だから、できるだけ近づきたくなかったんだけど、わざとらしく距離を取るのもなんだか負けたみたいで癪なので、気配を消したまますぐ後ろを歩くことにした。
「まぁ、私もファンなら仕方ないなって思ったの。でもその男、『これから一緒にカラオケ行かない?』とか言い出してさ。おいおい、お前ファンのくせにライン越えるんかいって思うじゃん? だから、あたしがラムりんの代わりに優しく断ろうと思ったわけ。したらラムりん、その男を自分でバッサリ斬り捨てちゃってさ」
「え? マ?」
ギャル三星の驚いたような声。
「ラムりん、チョクで言っちゃったの?」
「そ。塩対応で一蹴よ」
「ちょっとみどり、言いがかりはやめてよ」
おっとりとした清野の声が乗富たちの会話に割って入る。
「全然塩対応じゃなかったから。私はちゃんと優しい言葉で断ったでしょ」
「あ〜はいはい。確かに優しかったよ、口調だけはね。でも、『どこのどなたか知らないですけど、あなたには興味のかけらもないので、声をかけてこないでもらえます?』って、優しく言ったところで意味ないでしょ」
「意味なくない。だってマネージャの蒲田さんから言われてるのは『嫌だと思ったら角が立たないようにはっきりと断って』だもん。私の言葉に角は無かった」
「角は無いって、や、たしかに見た目は丸い感じするけど、どう考えても鉄球レベルじゃん。ナンパ野郎を撃退したいなら、投げつけるの生卵レベルで十分だから」
「……」
突然訪れる静寂。
どうしたんだろうと思ってちらっと清野を見たら、首をかしげていた。
「……どゆこと?」
「いや、まんまの意味だけど?」
「ていうか、みどりってさっきから『斬り捨てた』とか『鉄球投げた』とか何を言ってるの? 私は誰も斬ってないし、鉄球も投げてないよ? 初対面の人にそんなことしたら、怒られるじゃん」
「は?」
「え?」
ほわほわほわ〜。
後ろから聞いていてもわかるくらいに、清野からふわっとした空気が溢れ出している。
初対面であろうとなかろうと、そんなことしたら怒られるどころか捕まっちゃうと思うけど。
いや、ツッコミどころはそこじゃないんだけどさ。
「てか、斬ったとか投げたとかどうでもいいけど」
そんな清野の天然っぷりを見かねてか、三星が尋ねる。
「リアルにラムりんの事務所的に大丈夫なの? 推しにそんな対応されたらファン辞めますレベルだと思うけど」
「大丈夫。声をかけてきた男の人、すっごく感激してたから」
「え、推しに塩対応されたのに喜んでたの? 何それ怖い」
ドン引きした三星に、乗富が補足する。
「それがさ〜、その男『俺、清野さんに話しかけられたっ!』って喜んでたんだよね」
「あ〜、なるほど色眼鏡で見られちゃった系か。さすが芸能人だわ。何を言ってもポジティブに受け取られるって、無敵じゃん」
ケラケラと笑う三星。清野は乗富に「ほら、喜んでたんだから、どう考えても神対応じゃない」とドヤ顔をするが、呆れたような目を向けられていた。
三星が口にした「芸能人」という表現は、誇張でもなんでもない。
日本人とイギリス人のハーフである清野は高校生活の傍ら、モデルや女優といった芸能活動をしている文字通りの芸能人なのだ。
僕が調べた情報では、清野は中学時代に女性ファッション誌のオーディションに応募し、グランプリのひとりに選出されたらしい。
それから雑誌やファッションショーにモデルとして出演し、近々テレビドラマにも出演するとか。
実際、清野にはファンが多いし、学校でも彼女とお近づきになりたいと考える男子が、あの手この手で声をかけている。
その度に、天然系切り返し術で一蹴しているみたいだけど。
「……というか、どうでも良いだろそんなクソ情報」
つい、ボソッとひとりごちてしまった。
一応言っておくけど、ネットで清野ことを調べたのは彼女に興味があるとか、そういう下心があったからではない。
これは「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」というやつなのだ。
戦いにおいて、敵を知ることはとても重要なこと。
そう。陽キャどもの総大将的存在である清野とは、いつか拳で語り合わなければならない。それが僕のアイデンティティを確立するために必要なことで、避けては通れない必定の流れで──。
「……あ」
などど厨二っぽいことを悶々と考えながら昇降口に入ったとき、清野が僕のほうを振り向いた。
ばっちりと目が合ってしまった瞬間、ドキッと僕の心臓が跳ねる。
そんな僕を見て清野はかすかに頬を緩めると、ぱっと正面を向いた。
「……あ〜ゴメン、私ちょっとトイレ。みどりたちは先に教室行ってて?」
「りょ〜」
乗富たちは教室に向かい、清野はトイレがある逆方向に消えた。
それを見てホッと胸をなでおろす。
ああ、よかった。
一瞬目が合ったように思えたのは気のせいだったのか。
またあいつに絡まれたら大変なことになる。
昨日の出来事を思い出して軽く身震いをしてしまった僕は、気を取り直して靴を履き替えようとしたのだが──。
「どっじゃ〜ん」
妙な効果音と共に、清野が下駄箱の裏から現れた。両手を広げて肩をすくめた外国人の「分からない」ジェスチャーっぽいポーズで。
「……」
僕は靴を片手に固まってしまった。
改めて間近で見ると、清野はとてつもない美人だと思った。
色白の肌。
すっと通った鼻筋。
少し垂れ気味の大きな宝石のような目。
スカートから伸びるすらりと伸びた白い足。
そして、軽くウエーブがかった黒く長い髪は、鏡のようにつやめき輝いている。
着ているのは代わり映えのしない学校指定のブレザーのはずなのに、一流デザイナーが仕上げた衣装のように思えてしまう。
それも、清野の日本人離れした雰囲気が為せる技か。
「……あの〜、東小薗《ひがしこぞの》くん? できれば何か反応して欲しいんだけど」
無反応の僕を見て恥ずかしくなったのか、清野が少しだけ頬を赤く染めた。
僕はハッと我に返る。
「あ……ごごご、ごめん。ええっと、お、おおお、おはよう」
「うん、おはよ」
清野がススッと僕のすぐ横にきて、ひょいと顔を覗き込んでくる。
彼女の絹のような綺麗な髪が、サラッと肩から一房、落ちた。
「今日は早いんだね」
「そ、そうだね。き、きき、昨日は夜ふかししてないから」
「知ってる。だって、東小薗くんのツイッターに新作上がってなかったもん」
「……っ!?」
危うく下履きを落としそうになってしまった。
まさか清野、僕のツイッターを見てるのか!?
てか、どうやって調べた!?
まさか、情報を金で買ったとか!?
芸能人の清野ならあり得そうだから怖い。
「それで、新しいイラストはいつ上げる予定なの?」
「え? た、多分、明日くらい……かな」
「じゃあ今日の昼休みもマルチメディア室で描くんだ?」
「そ、そそ、そのつもり、だけど」
「そっか。イラスト上げたら教えてね」
「は、はい」
ふと、周囲からの視線を感じた。
他のクラスの女子たちが好奇の眼差しを僕たちに向けていた。
そういう反応をされて当然だろう。
方や芸能活動をしている学校のアイドル。方や中学生と間違われるくらいに背が小さく、存在感も皆無の陰キャオタクなのだ。
人前で僕なんかと話していたら、清野の価値が下がってしまう。
清野は僕の宿敵だが、そんなことで彼女を貶めるのは本望ではない。
陽キャの女王たる清野を正面きって倒してこそ、僕の未来があるのだ。
僕は努めて「清野が声をかけてきたのは日直の業務連絡です」的な空気を放ちながら、ササッと上履きに履き替えて足早に立ち去ることにした。
しかし、清野は僕の動きを読んでいたかのようにぴったりと横に付いてきていた。
流石にギョッと目を見張ってしまった。
「な、なな、何? まだ何か用……なの?」
「ん? 用事っていうか、ちょっと東小薗くんとお話したくて」
「おっ、お話? ぼぼ、僕と?」
「そ」
清野はそっと僕の耳元に顔を近づける。
「……私、やっぱり東小薗くんにシて欲しいんだよね」
「ぶふぉ」
その含みのあるセリフを耳元で囁かれた瞬間、キモい声で吹き出してしまった。