北沢と別れて家に到着する寸前で、どしゃ降りの雨にやられた。
ラッキーだけど北沢は濡れて気の毒だったな。そんなことを思って鍵を取り出して小さな一軒家の鍵穴に入れると手ごたえが違った。
開いてる?
玄関を開けると母親がドーンと立っていたから、想定外で「うわビックリ」と声を上げてしまった。
「スーパーのパートは?」
「早退した。大変だったんでしょう!早く説明して」
「説明って何?」
「教室に出た亡くなった子の話」
「そのまんまです。はい終了!てか何で知ってるんだよ」
情報早すぎだろ。
洗面所まで母親はつきとい、僕のそばから離れない。
「クラス母親LINEで回った」
「何だよそれー」
いつの間にそんなの作ってんだよ。こわっ。
「女の子のお母さんたちが【娘が泣きながら帰ってきたけど、今日の事知ってる?】って書いてた」
「はいはい」
「部屋から出なかったり、逆に親から離れなかったり。睡眠薬買いに行こうとしたり、友達とずーっと泣いていて大変になってて、青山さんが諸田先生に電話して説明を求めたけど、【感受性の強い敏感な年ごろです。クラスの仲間の死を認めたくなくて変な幻覚を集団で見ているので、明日専門家のカウンセリングを受けさせるよう、今会議をしてます】って言ってたって」
「はいはい」
思ったとーりの展開に呆れてしまう。僕は手を洗いタオルで拭く。
「呪い殺すとか言われたんでしょう」
手首を強く握られ、勘弁してくれよって振り払おうと思ったけど、鏡の向こうで泣きそうな顔をしているのを見つけて心が沈む。
「呪い殺すとは言われてないよ」
「そいつが俊太を呪い殺したら、お母さん……そいつを八つ裂きにして引き裂いて昨日研いだ包丁で刺し殺してやる!」
まじ怖い。
母親から殺すってワードを聞くとは世界終わった。
親にまで広がってるとは。
「気持ちはもらっとく。ちょっと休ませて、ご飯に起こして」
逃げるように階段を上がると、兄の部屋の前にたたまれた洗濯物が置いてあった。それを横目でみながら、僕は自分の部屋に入ってベッドにダイブした。