俺は真由香の癌だという言葉に心臓が止まるような驚きを感じた。

「だって、看護師さん達が話していたもん、二十歳の患者さん、癌なんだって、最上先生も打ち手なくてインオペしたって」

「お前その患者が自分だと思ったのか」

最上はふっと笑い、呆れた表情を見せた。

「だって、他にいるの?」

「ああ、俺の医者としての人生で初めて手の施しようもない患者だった」

「私じゃない?」

「バーカ、お前はどんどん良くなるよ」

「本当?」

「当たり前だろ、俺の患者で何人も助からない患者がいたら、俺は医者を辞める」

真由香は安心したように手から力が抜けて、バランスを崩し、落ちそうになった。

「きゃっ」

最上は咄嗟に真由香の手を掴み、内側に引き寄せた。

しかし、足が外れて宙ぶらりんの体勢になった。

「助けて」

最上は体勢が悪かったため、上半身が柵の外側に落ちた。

「大我、俺を引き上げてくれ」

「分かった」
「せーの」

俺は最上を必死に引き上げた。