天才的ドクターの純愛、封印したはずの愛する気持ちを目覚めさせたのはさせたのは二十歳の彼女だった

「分かったよ、真由香は俺にヤキモチ妬いてくれているのか」

「当たり前でしょ、大我を大好きなんだから」

こんなに真っ直ぐに素直な気持ちをぶつけられたのは、はじめてのことで気分がよかった。

俺は真由香を抱きしめた、そして何度も何度も唇を重ねた。

しかし、そんな幸せは永くは続かなかった。

次の休みに俺と真由香はデートに出かけた。

「真由香、どこに行く?」

「ディズニーランドに行きたいな」

「ディズニーランド?」

「そう、いいでしょ、お願い」

俺は真由香のお願いにはいつも抵抗出来ない。

「よし、じゃあ出発だ」

ディズニーランドに着くと、真由香はテンションが上がったみたいに、俺の手を引っ張って動き回った。

俺は真由香の様子に違和感を感じた。

「真由香、呼吸苦しくない?」

「えっ、だ、大丈夫だよ」

「ちょっと脈測らせて」

「大丈夫、大我、最上先生と同じこと言わないで」

「最上は何を言ってたの?」

真由香はベンチに腰を下ろし、呼吸を整えていた。

「真由香、帰ろう、検査したほうがいいよ」

「いや、もう少し大我と一緒にいたい」

「だって、苦しそうだよ、病院行くぞ」

俺はタクシーで最上総合病院へ向かった。

看護師がストレッチャーで救急処置室に運んでくれた。

「最上先生お願いします」

最上がすぐにきた。

「真由香、どうしたんだ、何があった」

最上は真由香の急変に驚いていた。

そして俺を目視すると「大我、何があったんだ」と俺を睨みつけた。

「今日、休みだったからディズニーランドへ二人で出かけた」

「ディズニーランド?」

「俺の手を引っ張って、結構動き回って、そうしたら急に呼吸が苦しくなって……」

「お前は素人か、医者失格だな」

「ああ、自覚してる、真由香が我慢していることに気づいてやれなかった」

「ディズニーランドでデートしたのか」

俺は照れながら「ああ」と答えた。

「そうか」

「真由香はどんな状態なんだ」

「気管腫瘍切除の手術で相当臓器の機能が低下している」

「血液検査の数値もあまり良くない、入院した方がいいかもしれない」

「そうか」

「真由香も自覚あると思うぞ、一応俺から話すが、お前からの方が納得するんじゃないか」

「分かった」

真由香は最上から入院の話をされたが、首を縦に振ろうとはしなかったと、最上から聞かされた。

俺は真由香の病室へ向かった。

「真由香」

「大我、迎えにきてくれたの?早くマンションに帰ろう」

「最上先生から聞いただろう、真由香は入院することになった」

「いや、入院はしたくない」

「真由香、自覚あるだろう、呼吸が苦しくなったり、体力が落ちてきてるって」
真由香は俯いて頷いた。

でも真由香は顔を上げて俺に訴えた。

「大我と一日でも会えないのは耐えられないよ」

「毎日会いにくるから」

「本当?」

「ああ、本当だ」

そして真由香は入院することになった。

俺は仕事が終わると、真由香の病室を訪れ、そしてマンションに帰る。

マンションに戻ると、真由香と過ごしたのがたった数日なのに、一人はなんて静かでつまらないのだろうと感じた。

担当医は最上で、本来なら家族でもない俺は真由香の病状を聞くことは許されない。

これから先のことを考えると、不安しかない。

ある日、真由香の病室に行くと、真由香はお願いがあると俺に甘えてきた。

「大我、お願いがあるんだけど……」

「なんだ」

「私を大我の奥さんにして」

俺は目をパチクリして驚いた。

まさか、真由香にプロポーズされるとは思ってもみないことだった。

「急にどうしたんだ」
「急じゃないよ、大我に巡り合った日から考えていたことだよ」

「退院してからでいいんじゃないか」

「それじゃ駄目」

「どうして?」

なぜ、すぐに俺と結婚したいのか、真由香の考えが分からなかった。

「一日でも永く大我の奥さんになっていたいの」

「よし、分かった、お父さんに許しをもらいに行ってくるよ」

「本当?」

そして俺は真由香の父親の元に向かった。

「真由香の入院に関して全て任せっきりで申し訳ない」

「いえ、こちらこそ、事後承諾になってしまい、申し訳ありません」

「ところで、今日はなんの話かな」

俺は大きく深呼吸をして話し始めた。

「真由香さんとの結婚の許しを頂きに参りました」

「ほお、そうか、真由香をもらってくれるのか」

「私は真由香さんより十歳も年上で、最上総合病院にて雇われの身です、実家が日下部総合病院にも関わらず、継ぐ立場ではありません、大切な娘さんを預けるのにご不満はあろうかと存じますが、結婚のお許しを頂けたなら、必ず真由香さんを幸せに致します」

「わがまま娘をもらってくれるのに、不満などないよ、ただ……」

「なんでしょうか」

「日下部先生の人生設計で真由香との結婚はマイナスにはならないかな」

「とんでもありません、実は真由香さんにプロポーズされまして」

「なんと、我が娘ながらお恥ずかしい限りじゃ」

「いえ、自分が情けなくて、でもこれからの人生のパートナーとして、自分には真由香さんは必要かと確信致しました、もちろん、心から真由香さんを愛しております、ただ中々自分の気持ちを口にするのは苦手で……」

「こちらこそよろしくお願いします」

「ありがとうございます」

俺は真由香に報告すべく、病室に向かっていた。

「真由香、お父さんから結婚のお許しもらったよ」

「大我、真由香と結婚するのか」

そこには真由香の診察をしている最上が、ニヤッと笑い立っていた。

「よし、真由香、静かにしているんだぞ、病室でエッチしちゃ駄目だぞ」

「もう、最上先生は本当に下品なんだから、そんなことしません」

「そうか、おい大我、真由香を押し倒すなよ」

「そ、そんなことしないよ」

最上は真由香の頭をクシャクチャしながら「良かったな」そう言って病室を後にした。

「大我、お父様許してくれたの?」

「ああ、真由香をよろしく頼むって言われたよ」

「良かった」

「それじゃあ、これ提出してきてね」

そう言って差し出したのは婚姻届だった。

真由香はサイン済みで、あとは俺がサインするだけになっていた。

真由香はニッコリ微笑んで俺を見つめた。

「真由香にはいつも驚かされてばかりだよ」

「言ったでしょ、大我にはじめて会った時から決めていたって」

俺は躊躇せずに婚姻届にサインをし、役所に提出した。

俺と真由香は夫婦となった。

真由香は早く退院したくて仕方がなかった。

しかし、体調は中々回復の兆しが見えてこない。

俺は最上に真由香の病状を聞くため外科医局を訪れた。

「真由香はどうなんだ、俺は真由香の夫だ、はっきり言ってくれ」

「真由香は気管支拡張症だ」

「気管支拡張症?」

「ああ、気管腫瘍に伴って、症状が現れた、肺の一部にあるので、手術が一番いいと思うぞ」

「そうか、よろしく頼む」
俺は真由香に手術の話をするため、病室に向かった。

「真由香、どうだ体調は」

「大丈夫だよ、早く退院したいんだけど……」

「そうだな、実はもう一回手術が必要なんだ」

「どうして」

「後で最上が説明にくる、奴に任せておけば大丈夫だ」

「私はやっぱり癌なの、転移したからまた手術が必要なんでしょ」

「違うよ、そうじゃない」

「私がかわいそうだから、すぐ死んじゃうから、結婚してくれたの」

「そんなことはない、真由香を好きだからに決まっているだろう」

「最上先生も俺に治せない病気はないとか言って嘘ばっかり」

そこに最上がやってきた。

「おい、俺は嘘は言ってないぞ」

「最上」

「最上先生の嘘つき、私死んじゃうんでしょ」

「それだけ俺を罵倒する人間がそう簡単に死なねえよ、元気がある証拠だな」

「元気はあるけど……」

「真由香、お前が死んだら大我は他の女と再婚しちゃうぞ」

「おい、最上」

「そんなの嫌だよ」

真由香は泣き出した。

「最上、泣かせてどうするんだ」

「いいか、真由香、本人が生きるって強い意志を見せると、病気の方で退散するんだよ、俺が絶対にお前を助ける、確かにお前の病状は難しい、でもな、大丈夫だ、俺が担当医師でありがたいと思え」

真由香は頷いていた。

最上にはハラハラさせられる。

でも、これだけ医者として自信満々な態度を見せられると、患者は安心するかもしれない。

やっぱり患者が家族だと駄目だな。

「俺はもう退散するよ、二人だからってエッチするなよ」

「最上」

最上は病室を後にした。

「大我、ごめんなさい」

「大丈夫だよ、誰だって手術を二回受けるって聞いたら戸惑うよな」

「最上先生に任せればいいの?」

「ああ、大丈夫だよ」

俺は病室を後にした。

真由香の手術を一週間後に控えたある日、真由香に病室にくるように言われた。

「真由香、どうしたんだ」

「大我、一晩だけマンションに帰りたいの、外出許可出して貰えないかな」

「そうだな、最上に聞いてみるよ、何か持ってきたいものでもあるのか」

真由香は俺を手招きして耳元で囁いた。

「大我に抱いてほしい」

「えっ?」

「もう、やだな、そんなに驚くこと?」

「いや、驚くよ」

「だって、私と大我はキスだけだよ、大我は私を愛したくないの?」