天才的ドクターの純愛、封印したはずの愛する気持ちを目覚めさせたのはさせたのは二十歳の彼女だった

「俺はヤブ医者だな、真由香さんのそんな不安に気づいてあげられなくて」

「そんなことないよ、先生は名医だよ、先生と一緒にいる時、全く症状が出なくて、やっぱり私の思い過ごしだって思えたんだもん」

「そう言うの名医って言わないんだよ、真由香さんの病気に気づけないんだから、医者失格だ」

そして真由香さんは検査検査の毎日を送ることとなった。

検査の結果、気管腫瘍が見つかり、外科に移り、手術を受けることになった。

私は松本真由香、父の願いでお見合いをすることに、そのお見合い相手が日下部大我先生だった。

しばらく前から体調が優れず、不安な毎日を送っていた。

当時付き合っていた彼には私から別れを告げた。

一人になると余計に不安が大きくなり、私は大我先生を頼った。

側にいてほしかった、先生が側にいてくれたなら、万が一の時心配はないと思っていた。

一緒に時を過ごすうちに、どんどん大我先生に惹かれていく自分に気づき始めた。

でも、大我先生は十歳も年上で、私なんか相手にしてもらえないと諦めかけていた。

そんな時、最上総合病院の外科医最上先生と知り合って、俄然勇気をもらった。

「大我、いい加減認めろよ、お前は真由香が好きなんだろう」「いや、その、えっと……」

この言葉に、もしかしたら大我先生も私に好意を抱いてくれているかもって思えた。

このまま、大我先生の側にいられたら、そう思った矢先だった。

私、死んじゃうのかな。

「最上先生、私、死んじゃうの?」

「はあ?何言ってるんだ、俺が執刀するんだ、真由香は大丈夫だ」

「大我先生とはもう会えないの?」

「なんだ、会いたいのか」

最上先生の問いに素直に頷いた。

「本当に真由香は素直だな、俺が大我の代わりにキスしてやろうか」

「結構です、大我先生とならいいけど……」

「よし、風邪ひいたとかなんとか言って、診察に来させよう」

「本当に」

私は満面の笑みを最上先生に見せた。

「お前から大我にキスしちゃえ、勇気もらいたいんだろ」

「そんなことしたら嫌われちゃう」

「大丈夫だよ、逆に押し倒されちゃうかもよ」

「もう、最上先生は下品なんだから、大我先生はそんなことしません」

そして最上先生は私のために大我先生を呼びに行ってくれた。

「大我、真由香が呼んでるぞ」

「はあ?もう俺の手を離れたんだ、俺の患者じゃない」

「冷たい奴、これから真由香は手術を受けるんだよ、励ましてやれ」

「お前が執刀医だろ」

「あっ、そう、じゃあ、俺が元気づけてやるよ、濃厚なキスでもしてやるかな」

「駄目だ、何を考えてる」

「俺の励まし方に文句つけるなよ」

「わかった、俺が行く」

「キスしてやれよ」

なんかまんまと乗せられた気がしないでもないが、とにかく俺も真由香さんに会いたかった。

俺は真由香さんの病室へ向かった。

ドアをノックすると「はい」と真由香さんの返事が返ってきた。

俺は病室に入った、真由香さんの顔がパッと輝いて「大我先生、会いにきてくれたのね」そう言って俺を手招きした。

真由香さんには敵わないな。

俺は真由香さんのベッドに近づいた。

真由香さんは咄嗟に俺の手を掴んで自分の方に引き寄せた。

ベッドに倒れ込んで、顔が急接近した。

真由香さんは俺の首に手を回し、抱きついてきた。

「大我先生、すごく会いたかったよ」

俺は真由香さんの手を俺の身体から離した。

「大我先生、手術頑張れってキスして」

真由香さんは目を閉じて俺にキスを求めた。

俺は彼女の頬を両手で挟み、キスをした、彼女のおでこに。

「頑張れ、執刀医は最上だ、安心しろ」
「うん」

俺は真由香さんの病室を後にした。

いつだってそうだ、俺はいざとなったら勇気がない、情けない男だ。

真由香さんの気持ちを受け止めることが出来ない。

裏切られた過去が邪魔をする。

三年前山風孝子との恋愛がそうだった。

俺の患者として現れた孝子は、すぐに俺に近づいた。

付き合いが始まり、積極的な孝子との身体の関係はあっという間だった。

何も疑うこともなく、孝子との愛に溺れていた。

頻繁に金を貸してくれとせがむ孝子になんの疑問も持たなかった。

孝子の俺に対する愛を信じて疑わなかった。

その頃孝子には男がいて、俺から巻き上げた金はその男に流れていた。

当時、孝子も騙されていたとのことだった。

俺は金のことではなく、俺への愛が嘘だったことにショックを受けた。

それから俺は愛を信じられなくなった。

俺を好き、また嘘だろうと思ってしまう。

真由香さんの俺への愛も信じられないのだ。

じゃあ、俺はどうなんだ、恥ずかしい話だが、真由香さんに惹かれている自分に気づいていた。

しかし、もうあんな思いはしたくない、三年前俺は恋愛感情を封印したはずなのに……

医局に戻ると、最上が俺に声をかけた。

「真由香にキスしてやったか」

「ああ」

「マジか、二十歳の女の唇の感触はどうだ?」

「おでこにしたからわからん」

「はあ?お前は……真由香は子供じゃないんだぞ」

「真由香さんは子供だよ、これから将来のパートナーに巡り会える年齢だ」

「真由香の将来のパートナーはお前じゃないのか」

俺は最上の言葉に戸惑った。俺が真由香さんの将来のパートナー?

俺は真由香さんの気持ちを繋ぎ止めておける自信なんかない、俺じゃない。

「最上、真由香さんをよろしく頼むよ、健康を取り戻せば俺なんか忘れちゃうよ、今は心細いだけだ、俺の側にいることで不安な気持ちが少しでも少なくなればと苦肉の策だよ」

最上は大きなため息をついた。

「全く、お前は、一生独身を貫き通すつもりか」

「そっくりその言葉をお前に返すよ、お前だって独身じゃないか」

「まあな」

この時、最上は梨花さんと契約結婚をしていた。だがその事実を俺には話てもらっていなかった。

私は大我先生にキスしてと頼んだのに、おでこにちゅっとされてしまった。

もう完全に子供扱いされた。

仕方ないかな、大我先生からしたら子供だよね、それにきっと私のことなんか眼中にないんだ。

彼女いないって言ってたけど、好きな人はいるのかな。

大我先生と巡り合った時、呼吸が苦しくて、でも他の病院に行ったけど全く回復の兆しは見られなかった。

ネットで調べれば調べるほど怖くなって、私はもしかして癌かもと思うようになった。

お見合いで大我先生がお医者様と聞いて、この先生なら私の不安な気持ちを解決してくれるかもって思った。

一緒にいるだけで、なんて心地いいんだろうと大我先生に一気に惹かれた。

私に今必要なのはこの人だと確信した、そして付き合っていた彼に大我先生のことを話して別れを告げて大我先生のマンションに押しかけたのだ。

日を追うごとに大我先生への気持ちが大きくなって、不安な気持ちも和らいでいった。

そんな矢先だった、私の病気が発覚したのは、気管腫瘍。

まさか、手術が必要で、外科に移ることになり、大我先生に会えなくなるなんて……

あっ、そうだ。

私は大我先生にLINEした。

『大我先生、私は唇にキスしてほしかったのに、おでこなんて私はもう立派な女性よ、手術は三日後だから、また病室に会いにきて、私は大我先生が大好き』

返事くれるかな、今は仕事中だから、スマホを見るのは夜だよね。

その頃、俺は真由香さんからのLINEに気づき、スマホを開いた。

真由香さんの言葉に自然と頬が緩む俺がいた。

真由香さんにキスしたら、俺は抱きしめずにはいられないだろう。

『真由香さん、ありがとう、そんなふうに言ってくれる女性は真由香さんだけだよ、でも今は不安な気持ちが俺を、いやドクターを求めてるんだよ、手術が終わって退院したら、彼に事情を話しして、やり直すといいと思うよ』

俺は敢えて真由香さんを突き放した。

私は大我先生からの返事はてっきり夜だと気を抜いていて、大我先生からのLINEに気づかなかった。

夕方になっても真由香さんからのLINEが未読だった俺は急に不安になり、外科医局へ走り込んだ。

「最上、真由香さんの様子みてくれないか」

「どうしたんだよ、そんなに慌てて」

「LINEが昼間から未読だ」

「はあ?お前、仕事中に真由香とLINEしてるのか」

最上はびっくりしたのと同時にニヤッと笑った。

「なんだよ、別にずっとLINEしてるわけじゃないし、ちょうど休憩中だったんだよ」

「へえ、そうか、まっ、いいけどな」

「それより、具合悪くなってるんじゃないか、スマホ見ないなんて、苦しがっているんじゃないか」
「そんなに気になるなら、お前が様子見てくればいいだろう」

俺は考える前に身体が動いた。

「真由香さん、大丈夫?苦しくない?」

俺はノックもせずにいきなり病室のドアを開けた。

「大我先生」

大我先生は私に駆け寄り、抱きしめた。

「どこも苦しくないか、LINEが未読だからどうかしちゃったんじゃないかと心配で」

「LINEが未読?大我先生すぐに返事をくれたの、てっきり夜かと思って油断してた」

私は大我先生からのLINEを開いた。

「俺はもう仕事に戻るな」