まず最初に飛び込んだのはアリーシャだ。

 このメンバーの中、唯一、接近戦が得意だ。
 そのことを理解しているため、盾となり、ゴーレムの能力を開示させるため、前に出たのだ。

「はぁっ!」

 魔法剣士であるアリーシャはたくさんの魔力を必要としない。
 魔法剣は使えないものの、剣で戦うことができる。

 まずは自分が切り込むことで安全を確保しつつ、ゴーレムの能力を図る。
 そんな意図を持って、アリーシャは立て続けに剣を振る。

 縦に振り下ろした剣を途中に跳ねさせて、V字に斬る。
 横に薙いだ後、自身の体を回転させて、さらに追撃を加える。
 アラムがそうしたように、ゴーレムの関節部を狙い、ありとあらゆる角度からの斬撃を叩き込んでいく。

「エリゼ、合わせて! フィアさん、追撃をお願い!」
「はい、お姉ちゃん!」
「わ、わかりましたっ」

 アリーシャはちらりと後ろを見て、

「「火炎槍<ファイアランス>!」

 絶妙なタイミングで横に跳んでみせた。

 仲間を撃つことはなくて、炎の槍はゴーレムに突き刺さる。
 ただ、関節部ではない。
 派手な爆炎が上がるものの、その歩みは止まらない。
 ノーダメージだ。

 ただ、その展開は予想済みだ。

「氷結槍<アイシクルランス>!」

 爆炎に隠れてフィアがゴーレムの横に回り込んでいた。
 ゴーレムの足を氷で閉ざして、その動きを完全に封じた。

「ナイス!」

 ここぞとばかりにアリーシャが一気に前に出た。
 ゴーレムがカウンターを狙い拳を振るものの、彼女を捉えることはできない。

 アリーシャは手前でワンステップ踏んで、踊るように攻撃を回避。
 そのままゴーレムの懐に潜り込み、下から上に突き上げるようにして、刃を頭部に差し込んだ。

 ガッ! という衝撃が伝わってくる。
 貫くとまではいかないが、ある程度、内部の機巧を傷つけることができたみたいだ。

「そのままで!」
「はい!」

 アラムの意図を察したアリーシャは、さきほどと同じように横に跳んだ。
 そこにアラムの魔法が炸裂する。

「雷撃槍<ライトニングランス>!」

 紫電がほとばしる。
 アリーシャの剣を通じて、雷撃がゴーレムの内部に流れ込んだ。
 ガクンガクンとゴーレムの体が不格好に動く。
 いや、痙攣する。

 こうなるとシャルロッテが心配ではあるが……
 彼女が囚われているのは、ゴーレムの胴体部。
 そこを直接傷つけない限りは問題ないだろうと、アラムは予測していた。
 その予測は正しく、なにも問題が起きた様子はない。

 ゴーレムはまだ動いているが、しかし、かなりのダメージを負った様子だ。
 煙を吹きつつ、動きがさらに鈍くなっている。

「やりました! あとちょっとです!」
「お嬢様、もうすぐ……!」

 エリゼ達は笑顔になるものの、アラムは逆に表情を厳しくしていた。

 エイルマットは、シャルロッテを生体ユニットとして組み込んだゴーレムを最高傑作と言っていた。
 その最高傑作をこんなにも簡単に倒せてしまうのだろうか?

 あまりにもうまくいきすぎている。
 なにか罠があるのではないか?

 ……そんなアラムの悪い予感は当たる。

「ふむ、なかなかやるね」

 ゴーレムが負けかけているというのに、エイルマットは余裕の笑みを携えていた。
 負けを認められないのではなくて、現実を見ていないわけでもない。
 確かな自信を感じられた。

 その正体は……

「でも、まだまだだ。その程度では、ぜんぜん足りないよ」
「なにを……」
「さて……そろそろ本気でやるといい」

 エイルマットの合図でゴーレムの目が光る。
 その足元に魔法陣が展開されて、光が立ち上がる。

「なっ……ゴーレムが魔法を!?」

 ありえないことだ。
 動物や魔物が魔法を使用したという稀な記録はあるものの、無機物であるゴーレムが魔力を持っているなんて話、聞いたことがない。

「……そういうことね! だから、シャルロッテさんを生体ユニットに!」
「正解だよ。君はなかなか頭がいいね」
「今すぐ、バカな真似はやめなさい!」

 無機物であるゴーレムが魔法を使うには、生体ユニットになっているシャルロッテを利用するしかない。
 しかし、安全なんて保証されていない。
 他人の魔力を強引に使うということは、他人の体、心を無茶苦茶にかき混ぜるようなものだ。

 そんなことをしてタダで済むはずがなくて……

「うっ……あああぁ!?」

 生体ユニットにされているシャルロッテが苦悶の表情に。
 さきほどまで無反応だったのに悲鳴をあげている。
 耐え難い苦痛を受けているのだろう。

 魔法陣がさらに強く輝いた。
 それに伴い、壊れていたゴーレムのパーツが修復されていく。

 ただ修復されるのではなくて、以前よりも頑丈に高性能に。
 自己再生と自己進化。
 それはもはや、兵器という枠を超えた『なにか』だった。

「お嬢様!?」

 フィアが悲鳴をあげて……
 アラムがそれに気をとられて……
 そして、致命的な隙となる。

「――――――!」

 ゴーレムが無機質な音を奏でた。
 それは……魔法の詠唱だ。

 炎の槍が生成されて、勢いよく射出された。

「きゃあ!?」

 完全に不意をつかれたアラムは吹き飛ばされてしまう。
 エリゼ達は慌てて助けようとするが、しかし、二度、三度と放たれる魔法を受けてしまい……