「やれやれ、これだから子供は」

 エイルマットは呆れるようなため息をこぼした。

「僕の最高傑作であるゴーレムに勝てるわけないだろう? そもそも、屋敷内は吸魔の結界が展開されている。君達は屋敷に入って、しばらく経っているだろう? もうまともに魔力は残っていないはずだ。魔法は使えない。どうやって戦うつもりだい?」
「あら。戦う方法なんていくらでも用意できるわよ。それよりも、後でする言い訳を考えておいた方がいいんじゃない? ゴーレムやら結界やら、どうやって用意したのか。憲兵隊に突き出す前に、洗いざらい喋ってもらうから」
「……生意気な子だね」

 アラムのどこまでも強気な態度に、エイルマットは不快そうな表情を作る。
 そんな二人のやりとりを見て、エリゼは内心でハラハラしていた。
 動揺を表に出していないものの、とても慌てている。

 それもそうだ。
 エイルマットが言うように、今、魔法を使うことができない。
 そんな状態で、どうやってゴーレムと戦えばいいのか?
 しかも、シャルロッテが人質にとられているような状態。
 万全の状態だったとしても勝てるかどうか……」

「大丈夫よ、エリゼ」
「お姉ちゃん……?」

 どうして、と驚くエリゼに、アラムは優しく笑いかける。

「私は姉だもの。大事な妹の考えていることくらい、わかるわ」
「それなら、でも……」
「みんな、私がやることをよく見て、すぐに覚えて。無茶を言っているのはわかっているけど、今はそれしかない。いいわね?」

 アラムは杖を構えた。
 魔力を収束させようとするが、安定せず、すぐにバラバラになってしまう。

 エイルマットが言うように、長く屋敷内にいたせいで魔力が吸い上げられて、初級魔法も使えない状態に陥っていた。

「ははは、それ見たことか。この結界内では魔法を使うことなんてできないんだよ」
「……」

 エイルマットの嘲笑を無視して、アラムは深く集中した。

 狙うは一点。
 ゴーレムの足を睨みつける。

 エイルマットは完全に油断していた。
 ゴーレムに命令を出さず、シャルロッテを盾にすることもない。

 だから、今がチャンスだ。
 アラムは深く集中して……
 そして、隠し持っていたポーションを一気に飲む。

「なっ……!?」
「火炎槍<ファイアランス>!」

 今度は魔法が発動した。
 炎の槍が獣のように素早く駆けて、ゴーレムの足に突き刺さる。

 ゴーレムの装甲は頑丈だ。
 どれだけの魔力を込めたとしても、普通、初級魔法では破ることはできない。

 しかし、関節部などは別だ。
 駆動を確保するため、関節部はどうしても装甲が薄くなる。
 アラムはそこを狙ったのだ。

 着弾。そして、爆発。
 ゴーレムの右足に炎が浸透して、いくつかの回路を焼き切る。

 ゴーレムを倒したわけではない。
 シャルロッテは囚われたまま。
 しかし、これで機動力を大幅に奪うことができた。

「魔力が失われたとしても、回復する方法なんていくらでもあるわ。その程度も予想できず、智者の振りをしようなんて片腹痛いわね」
「貴様……!!!」

 エイルマットはぎぎぎと奥歯を噛んで、顔を赤くして怒る。

 これもまた、アラムの狙い通りだ。
 挑発して怒りに思考を傾けることで、冷静な判断ができないようにする。

 小細工の連発ではあるが……
 圧倒的不利なのはアラム達の方だ。
 絶対に負けられないので、勝つためにはなんでもやる。
 それに、エイルマットのような小悪党になにをしても良心が咎めることはない。

「ええいっ、ゴーレムよ。まだ動けるな!? 連中を殺せ! 捕まえる必要はない!」

 エイルマットの命令に反応してゴーレムが動いた。
 片足を引きずるような動きのため、速度は遅い。
 それでも完全に動けないわけではなくて、ゆっくりとアラム達に迫る。

「みんな、魔力ポーションよ」

 アラムは杖を構えつつ、エリゼ達にポーションを三本ずつ渡した。

「この際、あの男は気にしないことにしましょう。ゴーレムだけ……シャルロッテさんの救出だけを考えるわ。攻撃のチャンスは三回。でも、うまく戦えば、きっとゴーレムを無力化できるはずよ」
「はい、お姉ちゃん!」
「あたしの剣は、もう、誰かを傷つけるためのものじゃない……助けるためにあるわ」
「絶対にお嬢様を助けてみせます」
「いい返事ね。じゃあ……いくわよ!」