ガガガ、とゴーレムは鈍い音を立てる。
 立ち上がろうとしているみたいだけど、駆動系が壊れたらしく、震えることしかできない。

 よし。
 無力化に成功した。
 このまま寮に持ち帰り、徹底的に分解して研究を……

「って、違う」

 知的好奇心を満たすのは後。
 今はシャルロッテとフィアのことを一番に考えないと。

「無力化はしたけど……念のため、完全に破壊しておいた方がいいな」

 動けないようにしたものの、まだ機能が停止したわけじゃない。
 後々のことを考えると、惜しいけど破壊しておくべきだろう。

 俺は手の平に魔力を収束させて……

「ガ……ギギギッ!!!」

 瞬間、ゴーレムが獣のように吠えた。
 瞳がさらに濃い赤に切り替わる。

 なにをするつもりだ?
 もう動けないことは確か。
 この状態でまともな攻撃を繰り出せるとは思えないが……

「いや、待てよ?」

 ふと、最悪の可能性に思い至る。

 ゴーレムは機密保持のための自爆機能がある。
 当然、こいつにも搭載されているはずだ。

 通常は自壊する程度の威力だけど……
 そこに手が加えられていたら?
 敵対者を吹き飛ばすほどの爆薬が積まれていたら?
 屋敷を木端微塵にするほどだとしたら?

「まずいまずいまずい!?」

 こんな奥の手があるなんて聞いてないぞ!?

 というか……
 ゴーレムに極大の自爆装置を搭載するとか、反則だろう!

 ゴーレムはやたら頑丈だから、地道にダメージを与えていくしかない。
 一撃で一気に粉砕、ということは難しい。
 やろうと思えばできないことはないが、周囲に大きな被害が出てしまうため、街中では難しい。

 だからこそ、内部の回路を壊すという方法をとったのだけど……
 そうして追い込むことで自爆を促してしまうとは。

 いや。
 そうなるように誘導されていた可能性が高い。
 というか、周囲のことを考える以上、他に手がない。

「くそっ」

 どうする?
 ゴーレムが自爆体勢に入ったことは、ほぼほぼ確実だ。
 どれだけの爆薬が搭載されているか不明だけど……
 屋敷ごと吹き飛ばす可能性がある以上、絶対に防がなくてはいけない。

 下手に衝撃を与えると爆発を早めるだけ。
 これだけの巨大なヤツを運ぶことは難しい。

 極大魔法で吹き飛ばすか?
 いや。
 それだと結局屋敷も一緒に吹き飛ばしてしまうから意味がない。

「ギ、ガガガ……」

 ゴーレムの瞳が明滅する。
 いよいよ時間がないのだろう。

「……よし。落ち着け、俺」

 焦りは思考を鈍らせる。
 冷静になれ。

 そう自分に言い聞かせて、俺は落ち着きを取り戻した。

 今更、ゴーレムの自爆を止めることは難しい。
 できないことはないが時間が足りないだろう。

 かといって、吹き飛ばすことも不可。
 なら……

「爆発の威力を最小限に抑える!」

 俺はしっかりと床を踏みしめて、両手を前に突き出した。
 深く集中して魔力を集める。

 イメージするものは、壁と鍵。
 魔力の壁でゴーレムを囲い、遮断。
 さらに鍵をかけて閉じこめる。

「円封撃<サークルバインド>!」

 ゴーレムを閉じこめる封印魔法が完成した。
 魔力の檻に囚われ、ゴーレムは身動き一つできない。

 ただ、そんな中でも自爆のカウントダウンは進んでいく。
 そして、ゼロになって……