カウントを刻み、ゼロになると同時に俺達は扉を開けた。

 同時にゴーレムの目に光が灯る。
 階段を背にするゴーレムはゆっくりとした動きでこちらに近づいてきた。
 たぶん、侵入者は問答無用で排除するように設定されているのだろう。

「火炎槍<ファイアランス>!」

 先制攻撃を叩き込む。
 ゴーレムの頭部で炎が爆ぜるものの、軽くよろめいただけでダメージはない。

 ゴーレムは頑丈で魔法に対する耐性もある。
 初級魔法では傷一つつかないだろう。

 でも、それでいい。

 ゴーレムの目が青から赤へ。
 攻撃モードに切り替わる。
 そのターゲットは俺だ。
 巨体を鳴らしつつ、猛牛のように突撃する。

「みんな、今のうちに!」

 ゴーレムを引きつけることができた。
 これでみんな、先へ進むことができる。

「お兄ちゃん、気をつけてくださいね」
「無茶したら承知しないわよ」
「後でしっかり追いついてくるように。いいわね?」

 エリゼ達はそれぞれ一言残して、ゴーレムが守っていた扉の向こうに消えた。

 よし。
 作戦成功だ。

「あとは……なるべく早くこいつを倒して、追いつかないといけないんだけど」

 ゴォッ!

 ゴーレムは空気を巻き込むようにして拳を繰り出してきた。
 ヤツの体は特殊な素材で構成されていて、鉄よりも固い。
 直撃したら、ほぼほぼ即死だろう。

「光壁<ライトウォール>!」

 魔法で光の壁を生成して、それを盾とした。
 ガァンッ! と鉄と鉄を叩きつけるような音が響いた。

 ゴーレムの拳を受け止めることはできたけれど……

「こいつ、なんてバカ力だ!」

 一撃で光の壁にヒビが入っていた。
 二撃目は耐えられないだろう。

 おかしいな?
 確かにゴーレムは強い力を持っているが、ここまでじゃなかったはず。
 昔……前世は、もっとレベルが低かった。

 魔法は衰えているものの、ゴーレムの技術は発展している?
 それとも、シャルロッテが持つ詠唱技術のように、一部の技術は発展している?
 それがゴーレム関連?

「って、いけないいけない」

 気がつけば、ゴーレムについてあれこれと考えて、考察を繰り広げようとしていた。

 確かに、このゴーレムは興味深い。
 ものすごく気になる。
 隅々まで分解して、徹底的に研究したい。

「でも」

 今はシャルロッテとフィアが一番だ。
 知的好奇心なんかよりも、二人の安全を最優先に考えないといけない。

 ……こんなことを思うなんて、俺も変わってきているんだな。

 そんなことを思い、苦笑する。

「というわけで、さっさと終わりにさせてもらうぞ」

 魔力を手の平に集める。

「氷烈牙<フリーズストライク>!」

 ゴーレムの足元に向けて魔法を放つ。
 氷が広がり、蔦のようにゴーレムの足に絡みついた。

 動きを封じられて、ゴーレムは苛立たしそうに足元に拳を叩きつけた。
 氷を割り脱出するつもりなのだろうけど、俺の方が早い。

「雷閃牙<ライトニングストライク>!」

 指先がバチバチと放電して……
 それは一気に成長して、荒れ狂う紫電となる。
 生き物のようにうねりつつ、ゴーレムに食らいついた。

 耳を叩くかのような鈍い音。
 それと衝撃。

「これでどうだ?」

 ゴーレムは壊れた人形のようにぎこちない動きをして……

「……」

 ややあって、その目に宿る光が消えた。
 四肢をだらりと下げて動きを止める。

「よし」

 撃破完了。

 確かにゴーレムは硬い。
 物理、魔法に対する高い耐性を持つ。

 ただ、雷撃魔法は別だ。
 水を流しているかのように、魔法を内部に到達させることができる。
 そして、そのまま回路を焼き切ることが可能だ。

「さてと。すぐにみんなを追いかけて……うん?」

 ふと、違和感を覚えて足を止める。
 振り返った先……ゴーレムの目に再び光が灯る。