廃墟は思っていた以上に広い。
 たくさんの部屋があるため確認に時間がかかる。

 手分けした方が効率はいいのだけど……
 なにが待ち受けているかわからない。
 それに、結界の問題もあるため危険は大きい。

 もどかしいが、安全を優先するしかない。
 みんなで一緒に行動して、少しずつでも前に進んでいく。
 アラム姉さんも言っていたが、二重遭難になったら意味がないからな。

「待って」

 次の扉に手をかけようとしたら、アリーシャが固い声で言う。

「なにか嫌な感じがする」
「嫌な感じ?」
「うまく言えないけど……この先に危険があるような気がするの」

 扉を見る。
 しかし、俺はなにも感じない。

 とはいえ、アリーシャが嘘を言っているとは思わない。
 彼女は魔法だけじゃなくて剣を学んでいる。
 近接戦闘を得意とする者だけが感じ取れる『なにか』があるのだろう。

「ちょっと私に任せてくれる?」

 アラム姉さんが扉の前に立つ。
 そっと手をかざして、

「クリアビジョン<透視>」

 アラム姉さんの手が光る。
 なにか魔法を使ったみたいだけど……
 俺、そんな魔法は知らないぞ?

「アラム姉さん、なにをしたんですか?」
「透視をする魔法よ」
「えっ、なんですか。それ? その魔法、ものすごい興味あるんですけど!」
「「「……」」」

 なぜか女性陣からのジト目が突き刺さる。

「な、なに……?」
「お兄ちゃん、そんな魔法を覚えてどうするつもりなんですか?」
「まさか、覗き?」
「レン、そういうことはダメよ?」
「ち、違うから!?」

 俺は純粋に、知らない魔法に興味があるだけ。
 覗きをしようとか、そんな邪なことを考えたことは少しもない。

 そうやって必死の説得をして、なんとか誤解を解くことができた。

「えっと……それで、なにが見えたんですか?」
「……ゴーレムがいたわ」

 ゴーレムというのは、魔力を動力とする巨大な人形のことだ。
 力があって疲れも知らないため、今も昔も重宝されている。

 その巨体を活かされて護衛として使われることもある。
 つまり……

「門番、っていうことか」

 アリーシャの嫌な感じはこれのことだろう。

「まいったな……」
「ええ、これは厄介な問題ね。まさか、ゴーレムを相手にしないといけないなんて……」
「こんな時じゃなければ、捕まえてじっくり調べたいのに。くそ」
「え、気にしているのはそこなの?」

 アラム姉さんが驚いたような呆れたような表情に。

 はて?
 他に気にするようなところはないと思うのだけど。

「もう一つ、問題があると思います」

 エリゼが言う。

「ゴーレムを相手にこっそり戦うことはできないと思います。そうなると……」
「敵に気づかれてしまうわね」

 アリーシャが言葉を引き継いで、そんな答えを出した。

 二人の言う通りだ。
 シャルロッテとフィアの安全を考えると、ここで騒ぎを起こすことは得策じゃない。

 ただ……

 ゴーレムなんてものが配備されていることを考えると、この先に二人がいる可能性が高い。
 まさか、なにもないところを守らせないだろう。

「……よし」

 少し考えて作戦をまとめた。

「ゴーレムは俺がなんとかするから、みんなは先に。これだけのものを用意しているんだ。たぶん、あれ以上の番人はいないと思う」

 俺がゴーレムの相手をする。
 その間に、みんなが先に進む。
 戦闘は避けられそうにないから、これが最適解だろう。

「でも、お兄ちゃん一人でゴーレムの相手をするなんて……」
「さすがに無茶よ」

 エリゼとアリーシャは心配そうな顔に。
 ただ、アラム姉さんはそんな二人の肩をぽんぽんと叩いた。

「レンなら大丈夫よ」
「……お姉ちゃん……」
「私達が信じないとダメ。そうでしょう、エリゼ?」
「はい!」

 エリゼがこちらを見る。

「お兄ちゃん、がんばってくださいね!」
「怪我なんてしないように。ちゃんと無事でいないと、承知しないわよ?」

 アリーシャからも激励……激励? が飛んできた。
 負けられないだけじゃなくて、怪我をすることも許されないな、と気が引き締まる。

「決まりだな」

 じゃあ……
 いくとしようか!