「ニーア?」

 部屋の隅にニーアの巣箱を設置しているのだけど……
 ニーアはその上に立ち、翼を広げて鳴いている。

「ピッ、ピピピ!」

 ぴょんと俺の肩に飛び乗り、ツンツンと頬を突いてきた。
 それから、今度は窓の手前に移動して、コツコツと窓を叩く。

「えっと……外に出たいのか?」
「ピッ!」

 その通り、というようにニーアが鳴いた。

 ニーアはとても賢い鳥だ。
 外に出しても、しばらく散歩……散飛? をして戻ってくる。
 なので、いつも学院が終わった後に外に出しているのだけど、こんな時間にせがまれたことは今までに一度もない。

「ニーア、悪いけど今は我慢してくれ。大変なことが起きているんだ」
「ピーッ!」
「おとなしく部屋で待っててくれないか?」
「ピピピッ」

 なんだろう?
 今日に限って、ぜんぜん言うことを聞いてくれない。
 普段は素直な子なのだけど……

「お兄ちゃん」

 ふと、エリゼが小首を傾げつつ言う。

「もしかして……ニーアちゃん、お兄ちゃんをどこかに案内したいんじゃないですか?」
「え」
「うまく言えないんですけど……ついて来い、って言っているような気がして」
「ピィ!」

 その通り、と言うかのようにニーアが強く鳴いた。
 こくりとも頷いている。

 本当……なのか?

 でも、いったいどこに?
 この話の流れからすると……もしかして、シャルロッテとフィアのところへ?

 ……現状、手がかりはゼロだ。
 だからといって無闇に動いていいわけじゃない。
 下手な行動が致命傷になることがある。

 だけど……

「……わかった。ニーア、案内してくれ」

 ニーアは不思議な鳥で……
 そして、エル師匠に託された、いわば忘れ形見のようなものだ。
 「こっちじゃよ」と、エル師匠が導いてくれているような気がした。



――――――――――



「ピッ」

 ニーアはゆっくりと空を飛んで、その後ろを俺達が追いかける。

「あの鳥、どこまで行くのかしら?」

 アリーシャは小刻みに吐息をこぼしつつ、若干、疲れた様子で言う。

 それも仕方ない。
 外に出て、かれこれ30分近く走り続けている。

 門は超えていないものの、王都を囲む城壁が近い。
 家はまばらで人気もない。
 こんなところに、いったいなにがあるのだろうか?

 疑問と不安が湧いてくるのだけど……

「行けるところまで行こう」

 ニーアを信じる。
 そう決めて、とことん突き進むことにした。

 そして……

「ピピ」

 ニーアはようやく翼を収めて、近くの木に降りた。
 その視線の先に廃墟が見える。

 貴族が使っていた屋敷だろうか?
 3階建てで、広大な庭がセットになっている。
 ただ人がいないことは明白で、あちらこちらが荒れ放題になっていた。

「廃墟……ですね」
「廃墟ね」

 エリゼとアリーシャが不思議そうに言う。
 アラム姉さんも同じく小首を傾げた。

「こんなところに連れてきて、どうしたいのかしら?」
「いえ……これ、意外と当たりかもしれません」
「え?」
「見てください。廃墟のはずなのに足跡があります」

 入り口を見ると、最近できたと思われる人の足跡があった。
 それと、馬車の車輪の跡。
 こちらも最近できたものだろう。

「あ、本当です!」
「こんなに暗いのに、よく気づいたわね……」
「さすがレンね。私の弟なだけはあるわ」

 遠回しに自分も持ち上げるアラム姉さんだった。
 すごく優しくなったのだけど、自信たっぷりなところは変わらないらしい。

「それに、わずかにですが魔力の流れを感じます。誰かが魔法を使っているか、あるいは魔道具を使用しているか……どちらにしても、こんな廃墟でそんなことをするなんてありえません」
「怪しいわね」
「怪しいです」
「怪しい」

 三人共に俺の意見に同意してくれた。

「よし、廃墟を調べよう」

 最大限の警戒をしつつ、俺達は廃墟に侵入した。