「不審者?」

 フィアの問題が解決して、数日後。
 いつものように登校するとシャルロッテに声をかけられるのだけど、そこで妙な話を聞いた。

「男爵家と話をして、色々と交渉をしてきたのですが……どうも、妙な男達が男爵令嬢達に絡んでいたみたいですわ」
「わたしをいじめるように誘導していたみたいで……」
「わたくしとフィアを引き離して、それぞれに叩こうとした……ということかしら? まあ、その不審者を見つけたわけではないので、ただの想像になりますが」
「ふむ?」

 気になる話だ。
 ともすれば、その不審者が今回の事件を動かしていた、と見ることができる。

 とはいえ、貴族にケンカを売るようなバカはそうそういない。
 権力を持つ相手を敵に回したら、とことん厄介だ。
 貴族になったからこそ、そのことがよくわかる。

 個人の力で権力を相手にするのは相当に厳しい。
 よほど個人の力に特化しないと無理だ。
 前世の俺ならともかく、今の俺では絶対にそんなことはしたくない。

「一応、気をつけた方がいいかも」
「あら。わたくしが遅れをとると?」
「あ、えっと。お嬢様はちょっと強気なところがあって、別に怒っているわけでは……」

 一緒にいたフィアがフォローする。

 彼女はそう言うものの、シャルロッテはあからさまに不機嫌そうだ。
 眉を吊り上げている。

 逆撫でするつもりはないのだけど……
 でも、誰にでも油断というものはある。

「なにが起きるかわからないだろう? もしかしたら、その不審者はとんでもない力を持っている可能性がある」
「だとしても、わたくしの魔法で打ち破ってみせますわ!」
「まあ、自信がないよりはある方がいいんだけど……それでも、心配くらいさせてくれよ」
「心配?」

 シャルロッテはキョトンとした。
 なにを言われたかわからない、というような反応だ。

「わたくしの心配をしているんですの……?」
「そうだけど」
「どうして?」
「どうしてもなにも、友達なら心配するだろう?」
「……友達……」

 シャルロッテは小さな声で繰り返して、

「ふへ」

 ややあって、にへらと笑う。

 なんだ、これ。
 まったく予想していない反応なのだけど。

「ふふ、お嬢様はお友達ができて嬉しいのですね」
「ち、違いますわ!? そのようなこと、ありえませんわ!」
「ですが、いつもと違って笑顔が多いですし、それに今朝も登校する時に……」
「フィア! それ以上言うと、後でお仕置きですわよ!」
「えぇ!?」

 仲の良い二人だ。
 見ていると、なんだかほっこりとする。

(……うん?)

 俺、シャルロッテとフィアのことを気にしているのか?
 だから、こうして二人の反応に興味を示しているのか?

 強くなることが全て。
 それ以外のことはどうでもいいはずなのだけど……
 転生してからは、どうにも調子が狂う。

 もしかしたら俺は、変わってきているのかもしれない。
 でも、それが正しいことなのか間違いなのか……

 今はまだ、なにもわからない。



――――――――――



「レン」

 放課後。
 教室の外に出るとアリーシャに声をかけられた。

「おつかれ。どうしたんだ?」
「その……ちょっと買い物に付き合ってほしいのだけど、いいかしら?」
「買い物?」
「寮の部屋、少し寂しいでしょう? だから、観葉植物でも飾ろうと思って。レンの意見も聞きたいのよ」
「観葉植物? 別にいいんじゃないか」

 観葉植物で腹が膨れることはないし、魔力が強化されることもない。

 アリーシャが盛大にため息をこぼす。

「まったく、これだからレンは……」
「え、え。なんで俺、呆れられているんだ?」
「いいから、ほら。行くわよ」
「だから、観葉植物なんて……」
「行・く・わ・よ」
「はい」

 至近距離でジト目で睨まれてしまい、俺は反射的に頷いてしまう。
 今、すごい迫力があった。

 俺にここまでさせるなんて……
 アリーシャは、なかなか侮れないな。

 俺達は制服姿のまま街へ出た。
 ただの買い物だから制服でも問題はないだろう。

「……ところで」

 店に向かう途中、アリーシャが前を向いたまま尋ねてくる。

「あれから、シャルロッテとフィアはどう?」
「いじめのことか? それなら完璧に解決したよ」
「不審者がいる、っていう話は?」
「そっちはよくわからないままだけど……どうかしたのか?」
「ただの噂だけど」

 そう前置きをして、アリーシャが小さな声で言う。

「その不審者、シャルロッテの父親に似ているらしいわ」