数日後。

 午前に授業が終わり、昼休みになる。
 弁当を広げる者、学食へ向かう者、様々だ。

 そんな中、フィアと複数の女子生徒が教室の外に出た。
 女子生徒達は楽しそうに笑い……
 対称的に、フィアは暗い顔をしている。

 ここ数日、フィアのいじめについて調査をしてきたのだけど、主犯格は彼女達で間違いないだろう。
 男爵家の令嬢を始めとしたグループ。
 シャルロッテの友達を名乗り、フィアを好き勝手、都合のいいように使っているらしい。

 準備のついでに調査も進めていたので、間違いない。

「さて、始めるか」



――――――――――



「じゃあ、今日もよろしくね」

 男爵令嬢は、いつものようにフィアにごはんを買ってくるように命令した。

 お金を渡すことはない。
 後で渡す、と言い続けて、そのままうやむやにしている。

「……あ、あの」
「なに?」
「これは、その……本当にお嬢様が望んでいることなんですか?」

 フィアは疑問顔で問う。
 何度も何度もパシられているため、さすがにおかしいと思う。
 それでも今まで言う通りにしてきたのは、シャルロッテのためなら……その一心に尽きる。

 やや盲目的ではあるものの……
 フィアにとってシャルロッテは絶対的な存在であり、なにをしてでも力になりたいと思う主なのだ。

「そうよ。ブリューナクさんにお願いされて、私達はこうしているの。ねえ?」
「そうそう。ブリューナクさんはちょっと手が離せないらしくて、こうして私達が間に立っているのよ」
「……」

 男爵令嬢達はニヤニヤと笑う。
 当然、疑問が晴れるはずがなくて、フィアはますます不信を募らせていく。

 ただ、決定的な証拠がない。
 それに、もしも本当にシャルロッテが望んでいることだとしたら?
 その場合、彼女の信頼を裏切ることになる。

 それはダメだ。
 絶対にやってはいけないことだ。

「……わかりました」

 だからフィアは、いつものように男爵令嬢達に従う……

「あら、わたくしがどうかしまして?」

 従おうとしたところで、第三者の声が割り込んできた。
 それは……フィアの主、シャルロッテ・ブリューナクだ。



――――――――――



「なっ!? ブリューナクさん!?」
「ど、どうしてここに……!?」

 絶妙なタイミングでシャルロッテが現場に乱入した。
 シャルロッテが現れるとは欠片も思っていなかったらしく、男爵令嬢達は思い切り慌てている。

 彼女達は、別に仲間がいる。
 その仲間がシャルロッテの足止めをして、その間にフィアをいじめる。
 そんな連携プレーに翻弄されていたらしく、シャルロッテは、今までフィアの問題に気づくことができなかったらしい。

 まあ、それも仕方ない。
 入学したばかりなのに、いきなりいじめられるなんて普通は思わないだろう。

 しかも、フィアはシャルロッテの従者。
 下手をしたらブリューナク家にケンカを売ることになる。

 そんなバカな真似、普通はしないのだけど……

「あらあらあら。どこかで見た顔だと思ったら、エーゲン男爵家の令嬢ではありませんか。ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう……」
「わたくしの従者を連れて、なにをしようとしていたのかしら?」
「そ、それは……」
「わたくし、色々と悪い噂を聞きましたの。その中の一つに、私の妹同然であるフィアに嫌がらせをしているとか……ねえ、その辺りはどうなのかしら?」
「くっ……!」

 男爵令嬢は苦々しい顔をして……
 ほどなくして開き直る。

「う、うるさいわねっ! あなたには関係ないわ!」
「あら」
「平民をどう扱おうが私の自由じゃない。あなたのところの家の者だとしても、関係ないわ! 平民が貴族に逆らうことなんて許されないもの。彼女はみんなの道具なのよ!」
「……」

 とんでもない暴言。
 シャルロッテは、すぅっと目を細くした。

 その視線は絶対零度。
 睨まれた者は動くことができず、その心を萎縮させてしまう。

「フィアが道具? よくもまあ、ふざけたことを言えるものですわね」
「な、なによ……」
「フィアは、わたくしのものよ!!!」

 どーんと、胸を張りつつドヤ顔でシャルロッテが言う。

 台詞だけ聞くとひどいのだけど……
 でも、その声音にはフィアに対する愛情がたっぷり詰まっていた。

「……やれやれ」

 素直になれないようで素直な、妙なお嬢様だ。
 俺は苦笑しつつ、そっと彼女達の後ろへ移動する。

 調査を進める中、彼女達が犯人と判明した時……

『いい? わたくしの知る彼女達は、小細工がとても上手よ。追い詰められたらフィアを人質にしようとするわ』

 そんなシャルロッテの読みは正しく、男爵令嬢の視線がフィアに向く。
 でも、もう遅い。

「あ、あなたは……!?」
「悪いけど、レーナルトさんに手出しはさせない」
「ストライン君……?」

 俺の役目は、フィアの護衛。
 なにがあろうと、彼女を傷つけることは許さない。

 そして、ここまでくれば、ほぼほぼ問題は解決したようなもの。
 後はシャルロッテがやる。

「さて」
「「っ!?」」

 男爵令嬢達がびくりと震えた。
 そんな彼女達に、シャルロッテは極上の笑みを向ける。

「お仕置きの時間ですわ♪」