「わーーーっ!」

 ふと、離れたところで歓声があがった。

 見ると、シャルロッテの姿が。
 その手の平の上で、マジックコープがふわふわと浮いている。
 一定量の光が放たれていて、安定した動きだ。
 ローラ先生並に上手なのでは?

 そんなシャルロッテの技術に、周囲の生徒達は驚き、尊敬の眼差しを向けていた。

「ふふーんっ、わたくしにかかればこれくらい朝飯前ですわ!」

 彼女達の視線を受けて、シャルロッテは得意げに笑った。

 そんなことをしつつも、マジックコープは未だ安定している。
 彼女の高い技術、強い魔力がうかがえる瞬間だった。

「すごいね、シャルロッテさん!」
「私達、そんな風にできないよ。さすがだね!」
「ねえねえ、どうしたらそんな風にできるの?」

 クラスメイト達が彼女のところへ殺到する。

「ふふふふふーーーんっ、まあ、これくらいわたくしなら余裕っていうか? 当たり前っていうか? まあ、楽勝ですわ!」

 シャルロッテはますます得意げな顔に。
 調子にのってるなあ……
 でも、不思議と憎めないところがある。

 自分に強い自信を持っているからだろうか?
 その自信は彼女の魅力を引き立てることになり、ある種のカリスマ的なオーラを発していた。
 それに惹かれる人は多いだろう。

 見ると、フィアもキラキラとした目でシャルロッテを見ていた。
 憧れているというよりは、尊敬しているという感じの目だ。

「むむっ、レン君。ライバル出現だよ!」
「ルシア、なにか変なことを考えていないかい?」

 ラーナが困ったように言うが、ルシアは彼女の言葉を聞いていない。

 ルシアは、すぅっと息を吸い込んで……

「わぁーーー、レン君、すごいねーーー!!! シャルロッテさん以上に、マジックコープをうまく扱っているよ!!!」

 大声でとんでもないことを口にした。

「えっ、なになに!?」
「レン君って、シャルロッテさん以上に上手なの?」
「見て! あれだけ輝いているのに、マジックコープはぴたりとも動いてないわ」
「ホントだ……まるで、時間が止まっているみたい」
「もしかしてもしかしなくても、ホントにシャルロッテさん以上?」
「ねえねえ、レン君。どうやって魔力をコントロールしているの? お姉ちゃんに、ちょーっと教えてくれない?」

 今度は、クラスメイト達がこちらに殺到してきた。
 その様子を見て、ルシアが自分のことのように得意そうにした。

 って、こんなことをしたら……

「ぬぐぐぐっ……!」

 案の定、シャルロッテがものすごい顔をしていた。
 俺をキッと睨みつけている。
 まるで親の仇を見ているかのようだ。

 確かに、活躍の場を奪うようなことをしてしまったが……
 なにもそこまで睨まなくても。

 女王さまらしく、シャルロッテはプライドが高いんだなあ。
 面倒なことにならなければいいのだけど。

「ふんっ」

 シャルロッテはおもしろくなさそうな顔をしつつも、こちらに絡むことはなく、いくらかのクラスメイトと一緒に訓練を続けた。
 この前の実技訓練で独断専行をしているから、同じことをしたらさすがにまずいと判断したのかもしれない。

「ふぅ」

 シャルロッテは体の力を抜いて、マジックコープへ注ぐ魔力を消した。
 マジックコープは軽く揺れて、シャルロッテの手の平の上に落ちる。
 どうやら彼女の番は終了みたいだ。

「さあ、次はあなたがやりなさい」

 シャルロッテは、フィアにマジックコープを渡した。

「はっ、はひ!」

 フィアは、あたふたしながらマジックコープを受け取った。
 直接、シャルロッテに手渡されたこと。
 いよいよ、マジックコープを使った訓練に入るということ。
 二つのことで、いつも以上に緊張しているみたいだ。

 そういう性格なのだから仕方ないのかもしれないが……
 そこまで緊張する必要はないと思うんだけどな。

 俺達は、所詮、学生だ。
 失敗するのが当然であり、そこから色々なことを学ぶことができる。
 なので、失敗を恐れていたら意味がないのだけど……

「わっ!? わわわ、あうううっ!?」

 フィアは失敗を恐れているらしく、必要以上に力が入っていた。 
 その結果……

 ぽーん……と、マジックコープは明後日の方向へ飛んでいってしまう。

「もうっ、なにをしているのよ? わたくしの前で無様なところを見せないでちょうだい」
「す、すみませんすみませんっ」
「あなた、魔力が足りないだけじゃなくて、運動神経も悪いんじゃない? でないと、そんな失敗はしないと思うわ」
「うぅ……め、面目ないです……」
「あなは、わたくしのもの。だからあなたが失敗すると、わたくしも恥をかくことになるの。そのこと、ちゃんと理解しているかしら?」
「は、はいっ……す、すいません……」
「言葉じゃなくて行動で示しなさい! ほらっ、シャキっとしてちょうだい! 大丈夫、あなたならできるわ! なんだかんだで、しっかりしていますからね。わたくしは信じているわ」

 フィアの指導をするシャルロッテ。
 自分なりに、これが正しいと思い、そう信じて行動しているのだろう。

 ただ……ちょっと言い方がキツイんだよな。
 陰湿さはないのだけど、しかし、そうでなくても、時と場合により言葉は鋭い刃となる。

 叩かれて伸びる子もいるが……
 どう見ても、フィアは違う。
 彼女は褒められて伸びるタイプだ。
 それなのにあんな言動をとっていたら、余計に追い込む結果になってしまう。

「ちょっとごめんね」
「あっ、レン君!?」

 ルシアとラーナ、その他のクラスメイト達を置いて、シャルロッテのところへ向かう。

「シャルロッテさん」
「……あら、ストラインですわね。なにか用でしょうか? というか、名前で呼ばないでくださる? わたくしのことを名前で呼んでいい許可なんて、あなたには出していませんわ」

 めんどくさい女王さまだなあ。

「じゃあ、ブリューナクさん」
「なにかしら」
「そういう言い方は、よくないと思うぞ」
「あなたにそんなことを言われる筋合いなんてないのだけど。大体、わたくしが男であるあなたをどう呼ぼうが勝手でしょう? なに。それともあなた、わたくしにちやほやされたいのかしら?」

 彼女の言動から男を軽視していることがわかる。
 昔のアラムかな?

「違う違う。俺じゃなくて、フィアのことだよ」
「フィア?」

 自分がきついことを言っているという自覚がないらしく、フィアの話になると、シャルロッテはきょとんとした。

「彼女に対してキツイ指導は、逆効果だと思うぞ。フィアのためを思うなら、もうちょっと言葉を選ぶべきだ」
「……余計なお世話ですわ。男であるあなたの指図なんて受けません」
「指図っていうわけじゃなくて、俺は、ブリューナクさんやフィアのことを気にしているだけで……」
「うるさいうるさいうるさーーーいっ!!!」

 癇癪を起こした子供のように、シャルロッテが爆発した。
 まあ、俺と数歳しか変わらないから、子供といっても過言ではないのだけど。

「あなた、さっきからうるさいですわよ! 男のくせにわたくしのやることに口を出すなんて、とても生意気ですわ!」

 シャルロッテは、ビシッとこちらに指を突きつけてくる。
 そして、そのままの体勢で言い放つ。

「男であるあなたに、そのようなことを言われる筋合いはないわ! 余計な口を出さないでくれるかしら? いい!? でないと後悔するわ!」
「具体的に、どう後悔するんだ?」
「えっと、それは……」

 気になって尋ねてみると、シャルロッテが言葉に詰まる。
 しばし、考えるような間を挟んで……

「と、とにかくひどいことになるの! 絶対に後悔するんだからっ」

 これ、何も考えてないやつだ。

「ふん、いくわよ、フィア!」
「は、はい、お嬢さま!」

 フィアに声をかけて、シャルロッテは俺から離れていくのだった。