俺と組んだのは、メガネをかけているルシアと、ソバカスが特徴的なラーナだ。

「レン君、よろしくね!」
「よろしく」

 二人とも気さくな性格をしているらしく、笑顔で握手を求めてきた。
 こういう人ならうまくやっていけそうだ。
 適当に組んだだけなのだけど、正解だったかもしれない。

 俺も笑顔で握手に応じる。

「うふ、うふふふ……男の子の手って、こんなふうになっているんだ……若いから、とてもスベスベね」

 なにやら、握手したまま手を離してくれない……

「こら」
「あいたっ」

 ラーナは、興奮した様子のルシアの頭をこつんと叩いた。

「レン君が困っているだろう。やめないか」
「ちぇ、もうちょっと堪能していたかったんだけど……残念」

 濃い二人だなあ。

「とりあえず、始めようか。誰からやってみる?」
「はいはいーい、私、やってみたい!」

 ルシアがまっさきに手を上げた。
 ラーナも異論がないみたいなので、ルシアにマジックコープを渡した。

「えっと……どうやるんだっけ? 魔力を流し込めばいいんだっけ?」
「魔力を注げば、マジックコープが反応して宙に浮きますよ。あとは魔力量を調整しつつ、できる限り長い間、宙に浮かせてみてください」

 ローラ先生がやってきて、そう説明してくれた。
 あちこちを見て回りフォローしてくれているみたいだ。

「むむむ、適切な魔力を……えいっ!」

 ルシアの手の平に魔力の粒子が集まり……
 マジックコープが輝いて、ふわりと浮いた。

「おおおぉーーー、浮いた! 浮いたよ!?」
「すごいね」

 ラーナと一緒にパチパチと拍手をする。
 ただの訓練とはいえ、うまくいくとうれしいだろう。
 俺も早くやってみたい。

 というか、マジックコープに興味がある。
 どんな仕組みなんだろう?
 一つもらえないかな。
 ぜひ分解して、とことん調べてみたい。

「っと……ととと!?」

 異変はすぐに起きた。
 ルシアが難しい顔をして、その変化に反応するように、手の平の上に浮いているマジックコープの輝きが不安定になる。
 光を放ったり、暗くなったり……
 さらに、左右にぐらぐらと揺れるようになる。

「こ、これはなかなか……おっ、おおお!?」

 動物のようにマジックコープがガタガタと暴れ始めて……
 パーンッ! という音と共に、明後日の方向に飛んでいった。

「たはーっ、ダメだぁ……私にはコレが限界っぽい」

 ルシアがその場にへたりこんでしまう。
 見ると、いっぱいの汗をかいていた。
 それくらいに辛いことだったのかもしれない。

「ふむ。それほどまでに難しいのか……レン君。すまないが、次は私でいいか?」
「ああ、構わないけど」
「ありがとう」

 興味をそそられたらしく、ラーナが次の名乗りをあげた。
 飛んでいったマジックコープを拾い、チャレンジする。

「んっ」

 ラーナの魔力が流し込まれて、マジックコープがふわりと浮いた。
 ルシアの時よりも輝きが強い。
 それに、動きも安定している。

 これならいけるか?

 ……と思ったのだけど。

「くっ……こ、これは……!?」

 一分ほどしたところで、ラーナが苦しそうな顔をした。
 さらに集中して耐えようとするものの、

「うあっ!?」

 長くは続かず、マジックコープが飛んでいってしまう。

 ラーナはルシアと同じように汗をかいていて、肩で息をしていた。
 どうやら思っていた以上に厳しい訓練のようだ。

 二人にタオルを渡す。

「おつかれさま」
「ああ、ありがとう……」
「やっぱり難しい?」
「そうだね、これはなかなか……魔力のコントロールにとても繊細なものを要求されて……さらに、ごっそりと魔力が吸い取られていく。どうやら、私では一分が限界のようだ。まあ……他のみんなも同じみたいだから、これくらいが限度なのかもしれないね」

 少し離れたところで同じ訓練をしているクラスメイト達を見ると、ルシアやラーナと同じように、一分ほどしたところでマジックコープを飛ばしていた。
 ラーナが言ったように、そこが限界なのかもしれない。

 なら、俺は3分にチャレンジしたいな。
 前世が賢者なのだから、それくらいはやっておかないと。

「それじゃあ、俺の番だ」

 マジックコープを拾い、手の平に乗せる。
 息を吐いて、吸って……
 集中をしてから魔力を注ぎ込む。

 ふわりとマジックコープが浮いた。
 白く明るい光を放つ。

「おぉ!?」
「こ、これは……」

 ルシアとラーナの驚く声が聞こえた。

 マジックコープは今までにない輝きを放ちながら、まるで静止しているかのように、ピタリと宙に浮いていた。
 そのままの状態で一分が経過した。

「……」

 特に疲労などは感じない。
 このまま問題なくいけそうだ。

 さらに一分、二分、三分が経過して……五分が経過した。
 それでも、俺は輝きと浮遊をキープしていた。
 ここでポーンと飛ばしてしまう、というオチはない。

 確かに、繊細な魔力コントロールを要求されるし、消費される魔力も膨大だ。
 それでも、なんとかなる範囲だ。
 これなら10分はいけるかな?
 なんてことを思ったのだけど……

「す……すっごーーーい!!!」
「うわっ」

 突然、ルシアが抱きついてきて……
 その反動と驚きでマジックコープが飛んでいってしまう。

「ちょっ……なにを……うぷ!?」
「あーもうっ、すごいなあ! それなのに、かわいいなあ!」

 ルシアが俺を胸に抱く。
 ルシアはそれなりに成長がよろしくて……
 やわらかい膨らみに顔が埋もれてしまう。

 幸せだ……
 でも、息ができない。
 天国と地獄の両方を同時に味わうことに。

「ルシア、それくらいにしておくんだ。レン君が苦しそうだぞ」
「あっ……ご、ごめんね。つい興奮しちゃって」
「いや。こちらこそありがとう」
「うん? なんで、レン君がお礼を言うの?」

 しまった。
 ついつい本音が。

「いや、気にしないで」
「そっか……まあいいや」
「それにしても、レン君はすごいんだな。初めてなのに、五分もあの状態をキープするなんて」

 ラーナが感心したように言う。

「どうすれば、そんなに上手にできるんだい?」
「どうすれば、って言われてもなあ……」
「よかったら教えてくれないか?」
「あっ、それナイスアイディア! 私達に教えてくれない?」

 ルシアとラーナが俺の手を取り、お願いをする。

 教えてほしい、と言われてもな……
 俺は我流だから人に教えられるような知識はない。

 でも……

 ふと、エル師匠のことを思い出した。
 エル師匠は優れた魔法使いというだけではなくて、優れた指導者でもあった。
 そんなエル師匠を見習い、俺も、誰かにものを教えるということを学んだ方がいいのかもしれない。

 そうすることで、さらに一段、上に上がれるような気がした。

「わかったよ。俺でよければ」
「やったー!」
「ありがとう」

 今度は二人に抱きつかれてしまうのだった。
 幸せではあるが、やはり苦しい。