翌日から、俺は学業に復帰した。

 マーテリアの件で時間をとられてしまったものの……
 学生の本分は勉強だ。
 そして、魔法の研究と研鑽にある。

 今日からまたがんばらないといけないな。

 なんてことを思いつつ、勉学に励んで……
 そして、昼休み。

 エリゼとアリーシャと合流して食堂へ向かい……
 食堂で、さらに一人プラスされる。

「えへへ、今日からお姉ちゃんも一緒ですね」
「ええ、よろしくね。アリーシャさんも、よろしく。二人の姉のアラムです」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 初対面に近い二人が挨拶をする。

 アリーシャは我が家に滞在したことがあるが、その時、アラムはマーテリアの支配下にあったので、俺達と必要以上に接触を持とうとしなかった。
 なので、ちゃんと話をするのはここが初めてだ。

「それじゃあ、私が席をとっておくから、レン達は注文を済ませてきてくれるかしら? あ、私はAランチセットにしたいのだけど、レン、お願いできる?」
「はい、いいですよ」

 エリゼじゃなくて俺に頼むなんて、ちょっと意外だな。
 そんなことを思いつつオーダーを済ませて、料理を受け取り、アラムが確保した席へ向かう。

「「「いただきます」」」

 みんなてテーブルを囲み、ごはんを食べる。

 アラムが一人増えただけなのだけど……
 なんだか場が華やかになって、自然と会話も弾む。

「あら」

 ふと、アラムがこちらを見る。

「レン、頬にソースがついているわよ」
「え、本当ですか?」

 子供みたいなことをしてしまい、少し恥ずかしい。

「ふふ、仕方ないわね。じっとしててちょうだい」
「え?」

 アラムは優しく微笑みながら、紙ナプキンで俺の頬をそっと拭う。
 親猫が子猫に接するかのように、とても優しい手付きだ。

「はい、とれたわよ」
「あ、ありがとうございます……」
「レンは大人びているけれど、でも、まだまだ子供ね。しっかりしないとダメよ?」
「す、すみません……?」
「でも、子供でいてもらった方がいいかもしれないわね。大人になってしまうと、こうしてレンのお世話をすることができなくなってしまうもの」
「えっと……」

 誰だ、この人は?
 微笑ましそうに幸せそうにするアラムなんて、今まで一度も見たことがない。

 ツンツンして。
 口を開けば悪態が飛び出して。
 キッといつも睨みつけている。

 それがアラムなのに……

「ふふ」

 今はとても穏やかな笑みを見せている。
 正直、違和感しかない。

 マーテリアの事件でショックを受けて、こうなってしまったのだろうか?
 それとも、改心してやり直すことにした?

 ……いや。

 たぶん、これが本来のアラムなんだろうな。
 マーテリアの呪縛から逃れることができて、本当の自分を出すことができた。

 優しく、穏やかで。
 姉らしい姉。
 それが、アラム・ストラインなのだろう。

 今までケンカしてばかりで、まともに話をしていないのだけど……
 でも、今の俺はまだ若い。
 いくらでもやり直せると思う。

「えへへ。お兄ちゃん、嬉しそうですね」
「そうか?」
「お姉ちゃんと仲直りできて嬉しいとか、ホント、子供っぽいところがあるのね」

 エリゼとアリーシャがニヤニヤと笑う。

 くそ。
 少し恥ずかしいな。

 でも……
 悪い気分じゃない。

 そうやって昼休みを満喫していると、視界の端に見覚えのある姿が見えた。

「え、えっと……確か、ミックスサンドとハムサンド、フルーツサンドが三つずつ。それと、ミルクといちごミルクと……」

 確か……そう、クラスメイトのフィアだ。
 初日、挨拶で慌てていたのが印象に残っている。

 一人分とは思えないほどのパンや飲み物を買っているが……なんだ?
 もしかして、パシらされている?