マーテリアはストライン家の前当主で、引退した今も大きな力を持っている。
現当主の母さんも、彼女の命令に逆らうことはできない。
しかし。
孫を利用して、孫を殺そうとした。
これは決して許されることではない。
……というか、事情を知った母さんは激怒した。
現当主命令で、マーテリアの持つありとあらゆる顕現を剥奪。
そのまま辺境の地で監視、軟禁をすることに。
マーテリアが前当主でありながら大きな力を持っていたのは、彼女に味方する親族が多かったのが一つの要因だ。
しかし、今回はやりすぎだ。
誰も彼女の味方をすることなく、マーテリアは全てを失うことに。
そして、俺とアラムは……
――――――――――
「ごめんなさい……!!!」
色々なことが片付いた後、学院に戻り……
寮の中庭に呼び出された俺は、アラムからの謝罪を受けた。
って、なんで謝罪?
今回の事件絡みの謝罪なんだろうけど、アラムはなにもしていない。
むしろ、マーテリアに利用された被害者だ。
「どうしてアラム姉さんが謝るんですか? 謝る理由はないような……」
「いいえ、そんなことはないわ……私は、弟であるあなたのことを……」
「でも、それはマーテリアの命令だったんでしょう? なら、アラム姉さんが気にすることじゃあ……」
「そんなことないわ!」
アラムは強く俺の言葉を否定した。
その姿は、自分を戒めているかのようでもあった。
「私は最初、お祖母様の言うことに従っていた。命令されたからではなくて、そうすることが……レンを退学させることが正しいと思っていた」
「それは、家の名前に傷がつくから?」
「……ええ」
アラムは己の選択を悔いている様子で、ぎこちなく頷いた。
「最初は、私の意思でレンを追い出そうとしていたの……そうすることが正しいと思って、自分で行動していたの……」
でも……
それもまた、アラムのせいではないと思う。
今回の事件で、マーテリアの身辺が徹底的に調べられた。
その結果、彼女の元にアラムが預けられていた間、マーテリアは徹底的な女尊男卑思考を孫に教え込んでいたという。
そのせいでアラムの性格が歪んで……
彼女の責任ではないと思う。
なんだかんだ、やっぱりマーテリアが一番の元凶なのだ。
ただ、アラムはそう割り切ることができないらしい。
原因はどうあれ、自分がやらかしたこと。
ならば、その責任は自分にある。
その罪から逃れたくはない……そう考えているのだろう。
真面目だな。
苦笑してしまうほどに真面目で……
でも、そういうところは誇らしいと思う。
うん。
俺にとってアラムは誇らしい姉だ。
「今更、っていうのはわかっているわ。都合がいいって思われても仕方ない……ただ、私は、その……」
アラムは視線をさまよわせた。
言葉に迷っているというよりは、俺のことを見るのが怖いようだ。
どことなく、親に叱られている子供を連想させる。
「私は……やり直したいの」
「それは、どういう意味ですか?」
「本当に都合がいい話なのだけど……ちゃんとした姉弟として、レンとやり直したいの……しっかりとあなたのことを見ていきたい」
「……アラム姉さん……」
なぜか。
その言葉に、訳もわからず泣いてしまいそうになった。
それと同時に気づく。
俺も、アラムと仲直りをしたかったんだ。
エリゼと同じように、家族を大事に思っていたんだ。
前世では家族なんて無縁だったから、気づくのが遅れたけど……
そういうことなんだろうな。
「アラム姉さん」
「……ええ」
「その、なんていうか……」
うまい言葉が見つからない。
そのせいで、アラムが不安そうにしていた。
ああもう。
前世では賢者と呼ばれていたのに、今はなんて情けない。
仲直りの言葉一つ、出て来ないなんて。
「つまり、だ」
どうにかこうにか言葉を考えて、それを口にする。
「アラム姉さんって、確か、お菓子作りが得意でしたよね? なんか、よくエリゼに作っていた記憶が」
「え? ええ……そうね。あくまでも趣味の範囲だけど、よく作っているわ」
それがどうしたの? と、アラムは不思議そうな顔に。
俺は、彼女から少し視線を逸らす。
なんていうか……直視するのが妙に恥ずかしい。
「だから、なんていうか……」
「?」
「今度、俺にも作ってくれませんか? その……アラム姉さんのお菓子を」
「……あ……」
アラムは、キョトンと目を大きくして驚いて……
「ええ、もちろん」
次いで、優しくにっこりと笑うのだった。
現当主の母さんも、彼女の命令に逆らうことはできない。
しかし。
孫を利用して、孫を殺そうとした。
これは決して許されることではない。
……というか、事情を知った母さんは激怒した。
現当主命令で、マーテリアの持つありとあらゆる顕現を剥奪。
そのまま辺境の地で監視、軟禁をすることに。
マーテリアが前当主でありながら大きな力を持っていたのは、彼女に味方する親族が多かったのが一つの要因だ。
しかし、今回はやりすぎだ。
誰も彼女の味方をすることなく、マーテリアは全てを失うことに。
そして、俺とアラムは……
――――――――――
「ごめんなさい……!!!」
色々なことが片付いた後、学院に戻り……
寮の中庭に呼び出された俺は、アラムからの謝罪を受けた。
って、なんで謝罪?
今回の事件絡みの謝罪なんだろうけど、アラムはなにもしていない。
むしろ、マーテリアに利用された被害者だ。
「どうしてアラム姉さんが謝るんですか? 謝る理由はないような……」
「いいえ、そんなことはないわ……私は、弟であるあなたのことを……」
「でも、それはマーテリアの命令だったんでしょう? なら、アラム姉さんが気にすることじゃあ……」
「そんなことないわ!」
アラムは強く俺の言葉を否定した。
その姿は、自分を戒めているかのようでもあった。
「私は最初、お祖母様の言うことに従っていた。命令されたからではなくて、そうすることが……レンを退学させることが正しいと思っていた」
「それは、家の名前に傷がつくから?」
「……ええ」
アラムは己の選択を悔いている様子で、ぎこちなく頷いた。
「最初は、私の意思でレンを追い出そうとしていたの……そうすることが正しいと思って、自分で行動していたの……」
でも……
それもまた、アラムのせいではないと思う。
今回の事件で、マーテリアの身辺が徹底的に調べられた。
その結果、彼女の元にアラムが預けられていた間、マーテリアは徹底的な女尊男卑思考を孫に教え込んでいたという。
そのせいでアラムの性格が歪んで……
彼女の責任ではないと思う。
なんだかんだ、やっぱりマーテリアが一番の元凶なのだ。
ただ、アラムはそう割り切ることができないらしい。
原因はどうあれ、自分がやらかしたこと。
ならば、その責任は自分にある。
その罪から逃れたくはない……そう考えているのだろう。
真面目だな。
苦笑してしまうほどに真面目で……
でも、そういうところは誇らしいと思う。
うん。
俺にとってアラムは誇らしい姉だ。
「今更、っていうのはわかっているわ。都合がいいって思われても仕方ない……ただ、私は、その……」
アラムは視線をさまよわせた。
言葉に迷っているというよりは、俺のことを見るのが怖いようだ。
どことなく、親に叱られている子供を連想させる。
「私は……やり直したいの」
「それは、どういう意味ですか?」
「本当に都合がいい話なのだけど……ちゃんとした姉弟として、レンとやり直したいの……しっかりとあなたのことを見ていきたい」
「……アラム姉さん……」
なぜか。
その言葉に、訳もわからず泣いてしまいそうになった。
それと同時に気づく。
俺も、アラムと仲直りをしたかったんだ。
エリゼと同じように、家族を大事に思っていたんだ。
前世では家族なんて無縁だったから、気づくのが遅れたけど……
そういうことなんだろうな。
「アラム姉さん」
「……ええ」
「その、なんていうか……」
うまい言葉が見つからない。
そのせいで、アラムが不安そうにしていた。
ああもう。
前世では賢者と呼ばれていたのに、今はなんて情けない。
仲直りの言葉一つ、出て来ないなんて。
「つまり、だ」
どうにかこうにか言葉を考えて、それを口にする。
「アラム姉さんって、確か、お菓子作りが得意でしたよね? なんか、よくエリゼに作っていた記憶が」
「え? ええ……そうね。あくまでも趣味の範囲だけど、よく作っているわ」
それがどうしたの? と、アラムは不思議そうな顔に。
俺は、彼女から少し視線を逸らす。
なんていうか……直視するのが妙に恥ずかしい。
「だから、なんていうか……」
「?」
「今度、俺にも作ってくれませんか? その……アラム姉さんのお菓子を」
「……あ……」
アラムは、キョトンと目を大きくして驚いて……
「ええ、もちろん」
次いで、優しくにっこりと笑うのだった。