「この……子供風情がっ!!!」

 ぶわっと、マーテリアから強大なプレッシャーが放たれた。

 いや、これは……
 闘気とかそういうレベルじゃない。
 なんていうか、そんなものよりも、もっと禍々しいものだ。

「ピィーッ!!!」

 ニーアがひときわ強く鳴いた。
 まるで、マーテリアを敵視しているかのようだ。

「ピッ、ピー!」

 今度は俺を見て、なにか訴えるように鳴いた。

 あれはまずい。
 止めてほしい。

 そんなことを言っているみたいだった。

 エル師匠から託された不思議な鳥。
 そんな彼女が言うのなら、なんとかしなければいけないのだろう。

 ……うん? 彼女?
 俺、ニーナのことをそう呼んで……って。
 今はあれこれと考えているヒマはないか。

「アラム姉さん、下がっていてください」
「ど、どうするの……?」
「かなり手荒になりますが、決着をつけます」

 マーテリアから黒いモヤのようなものがあふれていた。
 魔力ようだけど、あんな形の魔力は見たことがない。

 ……いや。
 一つ、心当たりがある。

「俺の考えている通りだとしたら、手加減はできません。だから、巻き込まれないように後ろへ。あと、ニーア……その子をお願いします」
「わ、わかったわ……」

 アラム姉さんはニーアを胸に抱いて、後ろに下がろうとして……

「レン」
「はい?」
「……気をつけてね」
「はい!」

 不思議とアラムの声援は心地よくて、とんでもなくやる気が出てきた。

 よし。
 勝つか!

「私は正しい! 正しいに決まっているのです!!! それに異を唱えるというのならば、誰であろうと容赦はしません。さあ、ひれ伏しなさい!!!」

 マーテリアも決着をつけるつもりらしく、魔力を集めていた。
 それは膨大な量で、常人がここにいたら、魔力にあてられて気絶してしまうほどだった。

 でも……

「悪いが、その程度の魔法にやられてやるつもりなんてない」

 所詮、魔力が大きいだけ。
 その術式は拙く、雑だ。

 魔力の量は俺の方が下だけど……
 でも、その精度は圧倒的に俺が上だ!

「起動<セット>」

 魔力を解放するためのトリガーを引いた。

「二重<ダブル>」

 魔法陣を二つ、起動した。
 それを見て、マーテリアが慌てる。

「な、なんですか、それは!? 魔法陣を二つも起動するなんて、そのようなことは見たことが……!?」
「そっか」

 俺はニヤリと笑う。

「お祖母様は、こんな簡単なこともできないんですね」
「っ!!!」

 思い切り煽ってやると、マーテリアは顔を真っ赤にした。

 いいぞ。
 その調子で、どんどん集中力を乱してくれ。

 その間に、俺は魔法を完成させる。

「蒼穹天<ブルーアース>」

 初級にも中級にも上級にも、いずれにもカテゴリーされていない、俺のオリジナル魔法。
 二つの魔法陣を使うことで、威力は数倍に。
 ありとあらゆる理不尽を打ち砕き、魔を滅する力。
 魔王を倒すために開発した、数あるうちの魔法の一つ。

 それが今、解き放たれた。

「っ!!!?」

 青い光の奔流が放たれた。
 それは一瞬でマーテリアを飲み込む。

 防御は許されない。
 反撃も許されない。
 圧倒的な力の前に、ただただひれ伏すことしかできない。

 そして……

「……あ……ぅ……」

 青い光が立ち去ると、ボロボロになったマーテリアがいた。

 さすがというか、耐えきったみたいだ。
 ある程度、手加減はしたのだけど……
 普通、立っていることはできないんだけどな。

「……う……」

 ただ、マーテリアも限界だったらしい。
 意識を失い、ばたりと倒れた。

 その体から黒いモヤのようなものがあふれ、消えていく。

 それは……魔王が持つ魔力と酷似している。
 ということは、マーテリアは魔王の影響を受けていた?
 一連の事件は、ヤツの策略?

「俺の近くに……ヤツがいるのか?」

 謎は多い。
 考えるべきことは増えた。

 でも……

「レンっ!」
「わわわ」

 アラムが抱きついてきた。

「大丈夫!? 怪我していない!? 痛いところはない!?」
「はい、大丈夫ですよ」
「よかった、無事で……! 本当に……よかったぁ……!!!」

 今は、アラムを守ることができたことを喜ぶことにしよう。