「巨兵の盾<プロテクトウォール>!」

 間一髪。
 なんとかアラムを守ることができた。

 ガガガッ! と鈍い音を立てつつ、氷の嵐が盾に激突した。

「あ……ど、どうして……?」
「アラム姉さん?」
「どうして……助けてくれるの?」

 アラムは、どこか怯えた様子で問いかけてくる。

 なんていうか、いたずらをした子供みたいだ。
 自分が悪いことをしたと自覚してて……
 絶対に怒られる、と思っているような、そんな感じ。

 確かに、色々と意地悪をされてきたのだけど……

 でも、そんなことがどうでもよくなるくらい嬉しかった。
 今回の一件で、アラムは俺のことを案じてくれた。
 姉らしく、弟のことを心配してくれた。

 本当に嬉しい。

「アラム姉さんが危ないのに、放っておくとか無視するとか、そんなことできませんよ」
「でも、私……今までずっと、レンにひどいことを……」
「されましたね」
「ごめん、ごめんなさい……」
「わかりました、いいですよ」
「え?」

 アラムがキョトンとした。

「アラム姉さんの謝罪は受け取りました。だから、よしです」
「で、でも……」
「俺……なんだかんだ、アラム姉さんのこと、嫌いになれなかったんですよ」

 意地悪をされた。
 ツンツンした態度ばかりで、時折、つっかかってきた。

 でも……
 どこか憎めないというか、嫌いになれない。

 今になって思うと、アラムの本心ではなかったからだろう。
 マーテリアにいいようにコントロールされていたせいだ。

「レン、私……」
「今まで、ちょっと長いケンカをしていたようなものですよ。これからは仲良くしましょう。だって……姉弟じゃないですか」
「……あ……」

 アラムは目を大きくして驚いて、

「……ええっ……」

 じわりと涙をためつつ、大きく頷いた。

「アラムっ、私の言うことに逆らうつもりですか!?」

 マーテリアがヒステリックに叫ぶ。

 アラムは、ビクリと震えるものの……
 でも、視線を逸らすことなく、マーテリアに声をかける。

「お、お祖母様……もうやめてください。男だからという理由だけで、レンにひどいことをするなんて……」
「黙りなさいっ!!!」
「ひっ」

 落雷のような一喝に、アラムが震えた。

 マーテリアに従うつもりは、もうない。
 でも、彼女の歪んだ教育が心に深く染み込んでいるため、逆らうことが難しいのだろう。

 なら、その枷を俺が解き放つ!

「紫電乱舞<ライトニングストーム>!」

 自分の周囲に雷の嵐を発生させる魔法を唱えた。
 アラムは俺の傍にいるから巻き込まれることはない。

 ただ……

「きゃあ!?」
「ぐあっ!?」

 マーテリアのものではない、複数の悲鳴が聞こえてきた。
 さきほどと同じように、伏兵を潜ませていたのだろう。
 それを読んでいた俺は、ここでまとめて叩くことにした、というわけだ。

「おのれっ!!!」

 マーテリアが血走った目でこちらを睨みつけてくる。

「レン、あなたはストレイン家の血を引いているというのに、私に逆らうというのですか!?」
「俺は、あなたの人形じゃない」
「くっ、なんて忌々しい! 私とて、このようなことを望んでやっているわけではありません。私は昔……」
「あ、そういうのいいので」

 なにか語り始めようとしたマーテリアの言葉を遮る。

「あなたの悲しい過去とか、そういうのはどうでもいいので」
「なっ……」
「どんな過去があろうと」

 ちらりとアラムを見る。
 彼女の目元は涙で濡れていた。

「アラム姉さんを傷つけた……だから、あんたは敵だ!」