「やはり、男というのは愚かですね……いいでしょう。この私が直々に教育してあげます」

 いざという時のために持ち歩いていたのだろう。
 マーテリアは折りたたみ式の杖を取り出して、構えた。

 俺も杖を手に取り、構える。

 街中ではあるけど、ここはストライン家が所有する別荘の庭。
 多少、派手にやってしまっても構わないだろう。

「炎の槍<ファイアランス>」

 まずは小手調べといった感じで、マーテリアは初級魔法を放つ。

 ただ、初級魔法と侮ることなかれ。
 使用者の魔力によって、その威力は大きく変動する。

 ここまで大口を叩くだけあって、マーテリアの魔力は相当なものだ。
 通常の『炎の槍<ファイアランス>』の数倍の大きさを持つ。

「氷の槍<アイシクルランス>」

 慌てる必要はない。
 対となる属性の魔法をぶつけて、相殺した。

「……どうやら、魔法が使えるというのは本当のようですね」

 マーテリアの女尊男卑はすさまじいが、バカではないらしい。
 目の前で魔法を使うと、素直にそれを認めてみせた。

「いいでしょう。特別にあなたを認めてあげましょう。あなたが当主になることは絶対にありえないですし、魔法学院は退学してもらいます。これからはアラム、あるいはエリゼを支えることで……」
「なにを言っているんだ?」
「……え?」
「俺、あんたに認めてもらいたいなんて、これっぽっちも思ってないんだけど? どうでもいいんだよ、あんたの歪んだ思想なんて」
「まだそのような口を利くのですか」
「いくらでも利いてやるさ。あんたの思い通りになんかならないってこと、教えてやる。そして……」

 マーテリアは俺の敵だ。
 そのことをハッキリと伝えるように、睨みつけた。

「一発、殴る!」

 魔力を練りつつ、前に出た。

「雷の槍<サンダーランス>」

 雷撃を放つ。
 タイミングはバッチリで、普通は防御は間に合わないのだけど……

「盾<シールド>」

 マーテリアは即座に魔力を練り上げて、魔法式を構築して、魔法を放つ。
 魔力が盾となり、俺の攻撃を防いだ。

 さすが、と言っておくべきか。
 最初の攻撃、今の防御、どちらの魔法もよく練り込まれている。

「れ、レン……もうやめて……」

 少し離れたところで様子を見るアラムが、弱々しい声でそう言う。

「お祖母様に逆らうなんて……どうして、そんなことをするの……?」
「あそこまで言われて、アラム姉さんはいいんですか? なにも気にしないんですか?」
「そ、それは……」
「俺は……許せません」

 今更だけど……
 アラムだって、大事な家族なんだ。
 一緒の時間を過ごしてきた姉なんだ。

 そのアラムがここまで傷つけられた。
 マーテリアに好き勝手されて、歪んだ思想に振り回されて……

 泣いていたんだ。
 涙をこぼしていたんだ。

「ここまでされて、許せるものか!!!」
「……レン……」

 今まで感じたことのない怒りが湧き上がってくる。
 前世でも、ここまでの激情を抱いたことはない。

 ……ああ、そうか。

 俺の目的は強くなり、魔王を今度こそ倒すことだけど……
 でも、それだけじゃなくて……

「炎の槍<ファイアランス>!」

 マーテリアを初級魔法で牽制した。

 当たれば儲けもの。
 防がれたとしても、相手の動きを阻害できるからそれでよし。

 連続で放つ。

「くっ……まさか、これだけの力を……!?」

 マーテリアは防戦一方になる。
 こちらの攻撃が当たることはないが、反撃に出ることはできない様子だ。

 ただ……

 少し違和感があった。
 あそこまで大口を叩いていたのに、戦い方がお粗末すぎる。
 ただ魔力が少し強いだけで、他に注意するところはない。

 俺を侮っている?
 いや。
 その認識は、俺が魔法を使ったことで改めたはずだ。

 だとしたら……

「ピィーッ!」
「ニーア!?」

 聞き覚えのある鳴き声。
 バサバサと空からニーアが降りてきて、俺の肩に止まる。

 突然のことに驚いていると、ニーアは後ろを見て鳴く。

「っ!?」

 瞬間、ゾクッと悪寒が背中を駆け抜けた。
 慌てて身をひねり……

 ゴォッ!!!

 直後、さっきまで立っていた場所を紅蓮の炎が駆け抜けていった。