マーテリアを連れて、街を案内して。
 学院も案内して。

 それから、ストライン家が所有する別荘に移動した。
 今日は、マーテリアはここに泊まる。
 外泊許可をもらったので、俺達もここに泊まる。

「……こんなところかな?」

 俺は自分が寝る部屋のあちらこちらに、魔法によるトラップをしかけた。

 マーテリアは、目的を達成するために孫を利用した。
 かなり短気だ。
 俺が一緒となると、我慢できず、すぐに行動に移すだろう。

 それを撃退して……
 ヤツの悪行を白日の元に晒す。

 ストライン家当主を引退したとはいえ、まだまだ大きな権力を持っている。
 そんなマーテリアの力を削ぎ落とすためには、悪事の証拠が必要だ。
 そのために俺が餌になって誘い出す、というわけだ。

「さて……どうでる?」



――――――――――



「……なにもなかった」

 マーテリアがなにかしかけてくるのではないかと思っていたけど、なにもなくて……
 そのまま夜が明けた。

 途中まで起きていたから少し眠い。

「そこまで短慮ではなかった、っていうことかな? ……ん?」

 ふと、扉をノックする音が響いた。
 それだけで声はない。

 誰だろう?
 不思議に思いつつ扉を開ける。

「はーい……って」
「おはよう」
「お祖母様!?」

 マーテリアの突然の来訪に、ついつい声を大きくして驚いてしまう。

「レン、なにを驚いているのですか?」
「あ、いえ……すみません。おはようございます」

 慌てて頭を下げた。
 そんな俺を、マーテリアは……やはり冷たい目で見ている。

「レン」
「は、はい」
「散歩に行きます、ついてきなさい」
「……はい?」

 散歩に誘うなんて、なにを考えているのだろう?
 マーテリアの意図を測りかねて、ついつい怪訝そうな声をこぼしてしまう。

 そんな俺に構うことなく、マーテリアは廊下に出た。
 少し歩いたところで、なぜついてこない? という感じで俺を振り返る。

「いきますよ」
「えっと……はい」

 マーテリアがなにを考えているかわからないけど……
 あえて一緒に行ってみるか。
 罠だとしても、その罠を食い破ればいい。

 そう決めて、俺はマーテリアの後をついていった。

「……」
「……」

 マーテリアと一緒に庭を散歩する。

 特に会話が弾むことはなくて……
 というか、ずっと無言だ。
 気まずい。

 まあ、マーテリアと楽しくおしゃべりなんて、まるで想像できないけどな。

「レン」

 しばらく歩いたところで、マーテリアが足を止めた。
 氷のように冷たい視線をこちらに向ける。

「話があります」
「……なんでしょう?」
「今すぐに学院を辞めなさい」

 なるほど。
 わざわざ嫌いな孫を散歩に誘ったのは、自分で話をするためか。

「それは、どうしてでしょうか?」
「決まっています。あなたが男だからです」
「……」
「男である劣等種が、栄誉あるエレニウム魔法学院に通うなんて、あってはならないこと。どのようなインチキを使ったかわかりませんが、魔法を使えるわけがありません。魔法は女性のみに許された特権なのです」

 劣等種、ときたか。
 孫を前に、そこまで言い切ることができる性根は、ある意味で尊敬してしまう。

「我がストライン家に恥を塗るつもりですか? そんなことになる前に、すぐに退学なさい」
「お言葉ですが、俺はきちんと魔法を使うことができます……ライト」

 小さな光球を生み出してみせた。
 ほらね? とマーテリアを見るのだけど、

「くだらない。なにかの手品でしょう」

 マーテリアは一蹴する。

 目の前で魔法を使っても信じないなんて……
 相当な頑固者だな。
 どのようにして説得したものか。

「私の言葉を受け入れず、あまつさえつまらない手品でその場をしのごうとするとは……私の孫とは思えないほど愚かですね」
「はぁ……」
「これはもう、エリゼのことを真剣に考えないといけませんね」
「……どういう意味ですか?」

 なぜ今、エリゼの話が出てくる?

「あなたが近くにいると、エリゼに悪影響が出てしまうでしょう」
「はぁ……」
「あの子は体が弱く、役に立たないと思っていましたが……今なら、それなりにうまく使えそうですからね。外見は私に似て良いですから、良い結婚材料となるでしょう」
「……」

 心がすぅっと急激に冷え込んでいく。

 こいつ……
 エリゼまでそんな目で見ていたのか?
 孫として愛しているのではなくて、道具として見ているのか?

「アラムも教育し直さないといけないし……まったく、頭が痛い。こんなに問題を連れてくるなんて、レン、あなたは疫病神ですか?」
「教育……?」
「あなたが気にすることではありませんが……ええ、その通りです。アラムは、つまらない感情に流された愚か者。ストライン家を継ぐ者として、もっとふさわしい教育をしなくては……今は、出来損ないでしかない。まったく、本当に使えない者が多い」
「……おい」

 アラムはたくさん悩んで。
 苦しんで。
 そして……泣いていた。

 それをバカにするような発言は、絶対に許せない。
 俺は言葉遣いも忘れてマーテリアを睨みつけて……

「……私が……出来損ない……?」

 ふと、そんな声が聞こえてきた。