数日後。

 ストライン家の力を使い、祖母のことを調べてもらっていたのだけど……
 今日、その報告書が上がってきた。

「……最悪だ」

 寮の部屋で報告書を見た俺は、小さな声でそうぼやいた。

 昼、執事長が話していたことは全て真実だった。
 マーテリアは俺を排除しようとして、そのためにアラムを利用した。

 アラムも巻き込まれたのは事故なのか……
 あるいは、最初から捨て駒にするつもりだったのか。

 俺のことはいい。
 こういう世界だから、下に見られることがあっても仕方ない。
 でも、アラムを巻き込むなんて……

「許せない」

 アラムの女尊男卑の思考には辟易とさせられたことがある。
 小さい頃からわがままっぷりを見せつけられてきたものの……

 でも、分かりあえるような気がした。
 今、彼女が傷つけられて怒っている自分がいた。

 結局のところ、俺は、アラムを姉として慕っているところがあったのだろう。
 それがどの程度なのか、そこはよくわからないが……
 でも、いなくなってほしいなんて思ったことは一度もない。
 もっと色々な話をしたいと思う。

「……本当、驚きの連続だな」

 こんな感情や迷いを抱くなんて思ってもいなかった。

 まだよくわからないところは多いのだけど……
 でも、悪くない気分だ。

「だからこそ……許せない!」

 祖母だろうとなんだろうと。
 俺の敵になるというのなら、それ相応の覚悟をしてもらおうか。



――――――――――



 翌日。

「ふむ」

 休み時間。
 祖母の対策を考える。

 昨日から考えているのだけど……
 これだ! というような決定的なものは思い浮かばない。

 どうしたものか……?

「ちょっといい?」
「んー……」
「ねえ」
「んー……」
「ねえってば」
「んー……」
「ちょっと、無視しないでくれるかしら!?」
「お?」

 気がつくと、どこか見覚えのある女子生徒が目の前に。
 えっと……

「誰だっけ?」
「シャルロッテ! あなたと初日に決闘をして、華麗な戦いを繰り広げたシャルロッテですわ!!!」
「ああ、そういえば」

 そんなこともあったような気がする。

「それで、そのシャルッテさんがなにか?」
「シャルロッテですわ!」
「シャーベット?」
「おいしそう!」
「フワットランサ?」
「もはや原型がありません!」

 女子生徒……シャルロッテがジト目を送ってくる。

「もしかして、わたくしをからかっています?」
「少し」
「ムキぃいいいいい!!!」

 あ、壊れた。
 ちょっとやりすぎたかもしれない。

「ごめんごめん。ちょっと悩み事があって、ぼーっとしてたから適当な受け答えをしたかも」
「悩み事ですの? どんな?」
「えっと……家族とケンカのようなものをしたんだけど、どうすればいいのかな、っていうところかな」

 気がつけば、肝心の部分はぼかしているものの、悩みを打ち明けていた。
 不思議な女の子だ。
 話をしていると、自然と心を開きたくなるというか、そんな魅力がある。

「ケンカをしたのなら、謝罪をして仲直りをすればよろしいのでは?」
「うーん……仲直りできる段階を通り越しているというか、許したくないというか」

 祖母のことを許すつもりはない。
 もう敵と認定した。

 ただ……

 それでも家族なのだ。
 父さんと母さんの母親。
 そして、エリゼとアラムの祖母。

 徹底的にやってしまっていいのだろうか? という迷いがある。
 俺にとっては敵だけど、他のみんなはそうでもないかもしれず……

 これ、どうしたらいいんだろうな?

「そういうことなら、徹底的にやればいいと思いますわ」

 シャルロッテが意外な言葉を口にした。
 彼女はあっけらかんと言う。

「……」
「なんですの。その珍獣を見たような顔は?」
「いや……ずいぶんと過激なことを言うんだな、って」
「だって、仕方ないではありませんか。どなたのことか知りませんが、敵だというのならば遠慮する方がダメですわ。徹底的にやり、心を叩き折らないといけません。でないと、またいずれ牙を向けてきますわ」
「……なるほど」

 乱暴といえば乱暴な話なのだけど……
 でも、ある意味で正しいような気がした。

 世の中、話が通じない相手は多々いる。
 ならば力で屈服させて……
 二度と逆らえないように、徹底的に心を折る必要がある。

 それがベストだ。

「そうだな……うん、そうだよな」
「どうしましたの?」
「ありがとう。おかげで、どうするべきか理解したよ」
「あら? それはよかったですわ。どういたしまして」
「じゃあ、さっそく準備にとりかかるか!」
「いってらっしゃい……って、待ちなさい!? まだわたくしの話が……」

 シャルロッテがなにか言っているような気がしたが、気にしない。

 徹底的にやってやろう。
 待っていろよ、マーテリア。