今日は休日だ。

 アラムの件がある。
 本当なら外に出ない方がいいのだけど……
 だからといって、ずっと引きこもっていたら気が滅入ってしまう。
 それに、日用品の買い出しに行かないといけない。

 人の多い昼に、エリゼとアリーシャと一緒に外に出たのだけど……

「えへへ」
「……ん……」

 俺の右にエリゼ、左にアリーシャ。
 なぜか、それぞれと手を繋いでいる。

「えっと……なにこれ?」
「迷子対策です!」

 満面の笑みで答えられてしまう。

「子供じゃないんだから」
「ダメですよ、お兄ちゃん。大人でも、迷子になる時はなります」
「そうかもしれないけど……」
「だから、こうして手を繋ぐ必要があるんです。えへへ」

 あれこれ言うものの、エリゼはだいぶ私情が混じっているような気がした。

 まだ大人ではないけど、かといって子供でもない年齢。
 そろそろ兄離れをしてほしいのだけど、その様子はない。
 逆に、子供の時以上にベッタリしているような?

 困ったものなのだけど……
 でも、これはこれで嬉しい、なんて思う俺だった。

「アリーシャは……」
「あ、あたしは、えっと……護衛よ!」
「護衛?」
「狙われているかもしれないんでしょう? だから、こうやってレンを守っているの」

 狙われている可能性があるのは、アリーシャも同じなんだけど……

「わかった?」
「わかったような、わからないような……」
「いいから、ほら。レンも、しっかりとあたしの手を握りなさい」
「あ、うん」

 言われるまま、アリーシャの手を握る。

「……ふふ」

 なぜか、ごきげんな様子に。

 うーん。
 魔法のことばかり考えてきたせいか、女の子の考えることはまったくわからない。
 少しは、そういう方面も勉強した方がいいのだろうか?

「とりあえず、買い物の前にごはんを食べようか」
「はい、賛成です」

 なにも食べていないから腹が減った。
 それに、昼は人が多いから、狙われていたとしても手を出してくるようなバカはいないと思う。

「あそこにしましょう」

 アリーシャの提案で、パスタ専門店に入った。
 丸いテーブルに座り、それぞれメニューを見る。

「むむむ……おいしそうなものがたくさんあって、迷っちゃいます」
「あたし、クリーム系が好きだけど……うーん。魚介系もおいしそうに。エリゼが言うように、本当に迷っちゃう」
「なら、気になるものをいくつか頼んで、みんなでシェアするか?」
「「ナイスアイディア!!」」

 食い気味に賛成された。
 女の子は、食のことになると、ちょっと性格が変わるみたいだ。

 そうやって、五つのパスタを注文して……
 ほどなくして出来上がり、運ばれてきた。

「わぁ♪」

 おいしそうなパスタがテーブルの上いっぱいに並んで、エリゼの目がキラキラと輝いた。
 アリーシャも似たような顔をしていた。

「じゃあ……」
「「いただきます」」

 唱和して、さっそくパスタを一口。
 最初に食べたのは濃厚なクリーム系のパスタで、甘くとろっとしたソースが絡んでいる。

 卵も使われているみたいで、ひたすらに濃厚だ。
 でも、不思議と次が欲しくなる。
 おいしいけど飽きることがないという、絶妙な味だ。

「んー、おいしいです♪」
「ええ、本当に。このお店、初めて入るけど、こんなにもおいしかったのね。常連になっちゃいそう」

 おいしいものを食べて、二人はにこにこ笑顔だ。

「お兄ちゃん、私のパスタを食べてみますか?」
「うん、もらおうかな」
「はい、あーん」
「え?」

 エリゼはフォークでパスタを巻いて、それをこちらの口元に差し出してきた。

「あーん」

 笑顔でもう一度言う。

「えっと……」
「あーん」
「……あーん」

 妙な圧を感じて、逆らうことができずに素直にあーんをした。
 やたら恥ずかしいのだけど……でも、うまいことはうまい。

「どうですか、お兄ちゃん?」
「ああ、おいしいよ」
「えへへ、よかったです」
「……レン、口を開けて」
「え? んぐっ」

 なぜかジト目をしたアリーシャが、俺の口にパスタを巻いたフォークを突っ込んできた。

「おいしい?」
「あ、うん……うまい」
「そ」

 なぜか満足そうなアリーシャだった。