アラムは一命をとりとめたものの、衰弱が激しく、眠ったままらしい。

 といっても、昏睡状態というわけではない。
 数日で目が覚めるだろう、とのこと。

 ひとまず寮へ戻り、今後のことを話し合うことに。

「それで……レン。なにがあったのか、詳細を教えてくれる?」
「あ、その前に……」

 アラムに問題がないと知り、落ち着いたエリゼが、視線を俺の肩に移動させる。

「どうして、ニーアちゃんがここにいるんですか?」
「ピー!」

 ひさしぶり、というような感じでニーアが鳴いた。

「いや。それは俺もわからないんだけど……」

 気がついたらいた、としか説明できない。

 エル師匠から託された大事な鳥だけど……
 よくよく見ると、まったく知らない種類の鳥だ。
 やたらと行動力があるし、こちらの言葉を理解しているような節もあるし……謎の鳥だな。

「もしかして、寂しくなって追いかけてきちゃったんですか?」
「ピー」
「ふふ、仕方ないですね。よしよし」
「ピピピ」

 エリゼに喉の辺りを撫でられて、ニーアは満足そうに目を細めた。
 猫みたいだな。

「それで?」
「ああ。実は……」

 話を元に戻して、事件が起きた時のことを二人に説明した。

「「……」」

 話を聞いたエリゼとアリーシャは、なんともいえない複雑な顔に。

 事件の不可解さもそうだけど……
 アラムが呪いのアイテムを所持していたことを疑問に思っているみたいだ。

「……嫌なことを言うのだけど」

 ためらいがちにアリーシャが口を開いた。

「アラムさんがレンを狙った……っていう可能性は?」
「お姉ちゃんはそんなことはしないです!」
「エリゼ、落ち着いてくれ。犯人を見つけるため、アリーシャは色々な可能性を提示しているだけだから」
「あ……ごめんなさい、アリーシャちゃん」
「ううん、あたしの方こそごめんなさい……言い方がまずかったと思うわ」

 二人はすぐに仲直りをした。
 とても仲が良い。
 いつの間にか親友と呼べるくらいの関係になっていたようだ。

「全部の可能性を考えて、一つ一つ検証していった方がいい。わかるな?」
「はい……ごめんなさい、感情的になってしまいました」
「いいさ。エリゼは、アラム姉さんのことが好きだからな」
「はい、大好きです! お姉ちゃんも優しくて、綺麗で……私、お姉ちゃんみたいになりたいんです!」

 にっこりと笑顔で言う。

「だから……絶対に犯人を見つけたいです」
「同感だ」

 とはいえ、情報が足りない。
 本人から話を聞くのが一番なのだけど、数日は目を覚まさない。

 その間に事態が進展するか。
 あるいは、悪化するか。
 そこを慎重に見極めなければならない。

「……よし」

 少し考えて結論を出した。

「犯人探しは保留にしよう」
「えっ、いいの?」
「探さないわけじゃないさ。ただ、今は手がかりが少なすぎる。無闇に動くよりは、アラムの回復を待って話を聞いた方が確実だ」
「それは……そうね」
「じゃあ、特になにもしないんですか?」
「ああ、なにもしない。でも、本当になにもしないわけじゃない」
「???」

 回りくどい言い方をしてしまったせいか、エリゼがキョトンと小首を傾げた。

「今回の件……俺が狙われたような気がするんだ」
「お兄ちゃんが?」
「アラム姉さんは、呪いのアイテムについて知っている様子だった。ただ、意図的にそれを使ったわけじゃなくて、暴発したみたいで……俺に、逃げて、と言っていた。だから、もしかしたら本来のターゲットは俺だったのかな、って」

 あの時のアラムの言動を考えると、そういう答えに行き着いてしまう。

 暴発するにしても、色々とタイミングが良すぎる。
 第三者が俺を狙い、小細工を仕掛けていた……と考えるのがとてもわかりやすい。

「そういう仮定で動いていきたい」
「そうなると……」
「またレンが狙われる可能性がある、っていうこと?」
「正解」

 ついでに言うと、エリゼやアリーシャがターゲットの可能性もある。

 ストライン家に恨みを持つ者の犯行か……
 あるいは、この部屋の三人組を狙った犯行か。

 たぶん、一番可能性が高いのは俺だろう。
 呪いのアイテムが発動した時、アラムはひどく慌てていたから……
 その態度を考えると、ターゲットは俺と考えるのが自然だ。

 とはいえ、それは推測にすぎない。
 エリゼやアリーシャが狙われている可能性もあるから……

「アラムが目を覚ますまでは、俺達は警戒するべきだと思う。もしかしたら、俺だけじゃなくて二人もターゲットになるかもしれない」
「私達も……ですか?」
「そっか……うん、そうね」

 アリーシャは俺の言いたいことをすぐに察してくれたようだ。

「ストライン家の関係者が狙われているかもしれないし、この部屋の者が狙われている可能性もある」
「あ、なるほど。そこまでは考えられませんでした……さすがお兄ちゃんです!」
「だから、しばらくは、できるだけ一緒に過ごすことにしよう。絶対に一人にならないこと」
「わかりました」
「了解よ」

 あとは、アラムが一日でも早く目を覚ましてくれることを祈るしかない。

 さて……どうなる?