「いい度胸ね」
アラムは不敵な笑みを浮かべてみせた。
そして、ふんっ、と鼻を鳴らす。
「わざわざ二人きりになったということは、私に話があるんでしょう?」
「そうですね」
「普通なら、男であるあなたの話なんて聞かないのだけど……エリゼに免じて、今日は聞いてあげる。感謝しなさい」
アラムは天才だな。
……人をイラッとさせる。
落ち着け、俺。
アラムも、一応、女の子。
そして、精神年齢は俺よりも遥かに下。
子供の言うことにいちいちムキになっても仕方ない。
ここは大人の余裕っていうやつを……
「なにを黙っているの? ほら、早く話しなさいよ。私の貴重な時間を、レンなんかのために奪わせないでちょうだい」
「……」
やっぱりイラッとするな。
「えっと……それです」
「それ?」
「アラム姉さんは、どうして、俺にそういう態度をとるんですか?」
「え?」
「親の仇と接するような言動。それと、口を開けば男のくせに。俺、そこまでアラム姉さんを怒らせるようなこと、しましたか?」
「……あなたが男なのがいけないのよ」
アラムは拗ねたような感じで答える。
「つまり、俺がアラム姉さんを怒らせるようなことをしたわけじゃなくて、俺が男であることが気に入らない……と?」
「そうよ」
なんていうか……
典型的な女尊男卑の思考だな。
今の時代、そういう人がいないわけじゃない。
一定数いる。
でも、身内にここまでひどく偏った人がいるなんて……
ため息をこぼしてしまう。
「なによ、その態度は」
「いいですか、アラム姉さん?」
「な、なによ」
強い口調で言い、アラムの反論を封じる。
「男である俺が気に入らない。男が気に入らない……そんな幼稚なことを、いつまで言い続けるつもりですか?」
「なんですって?」
「だって、そうでしょう。確かに、女性は魔法が使えるという点で優れている。でも、それを盾に威張る人はどれだけいると思います? 母さんは、魔法が使える女性が優れている、とか言っていますか?」
「そ、それは……」
「女性は優れています。魔法が使えるだけじゃなくて、他の面でも色々と。でも、男性だって優れています。別の面で秀でた力を持っています」
「……」
「無理に比べて、どちらが優秀とか決める必要はないんですよ。適材適所です。それに、男性と女性は力を合わせることが良しです。だって、そうしないと次代に繋げることは絶対にできないんだから」
男性と女性。
その両方がいなければ子供を産むことはできない。
絶対の真理だ。
「どちらが優れているとか。どちらが劣っているとか。そういう考えは捨てるべきですよ。というか……」
ずっと前から疑問に思っていたことを口にする。
「どうして、そんなに男を敵視、軽視するんですか?」
女性しか魔法を使うことができない。
そのため、一時的ではあるが、女尊男卑の時代が訪れたことがあるらしい。
ただ、当時の人達はそれではいけないと思い直して、男女が手を取り合うようになった……という。
そういう時代はあったものの、一時的なものだ。
俺達が生まれるよりもずっとの前のこと。
その時の名残なのか、今も男性を軽視する人はいるけれど、数は少ない。
年老いた人を中心に、いくらかいるくらいだ。
それなのに、アラムはどこで男性軽視という思考に侵されたのか?
「それは……お祖母様が……」
「お祖母様?」
俺達の祖母……のことだよな?
ってことは、祖母がアラムを……
いや、ちょっとまて。
今になって思い返してみると、ほとんど祖母に会ったことがない。
まだ赤ん坊だった頃、ぼんやりとした記憶があるくらいで……
以降、話をするどころか、顔を合わせたこともない。
「もしかして、お祖母様……がアラム姉さんに変なことを吹き込んだんですか?」
「そんな、ことは……」
「だって、そうでもないと説明がつかないんですよ。女尊男卑の思考なんて、一昔前に流行る……っていうのも変な言い方ですけど。とにかく、とっくに終わっていることなんです。それなのに、アラム姉さんがそんなものに毒されているなんて……」
「う、うるさいわねっ!」
立て続けに質問をぶつけていたら、アラムは一歩下がり、大きな声を出す。
周囲から注目されてしまうものの、それを気にした様子はなく、こちらを睨みつける。
「男であるレンが、私に説教をするつもり!?」
「ですから、男性とか女性とかは……」
「うるさい!」
「!?」
強く叫ぶアラム。
その姿は、どこか泣いている子供みたいで……
「私は、お祖母様の言う通りにしなければいけないの! そうしないとダメなのよ!」
「アラム姉さん?」
それはどういう意味なのか?
「あなたなんかに……レンなんかに……私はっ!!!」
アラムはなにかに耐えるように奥歯を噛んで……
それから、拳を強く握る。
ぎゅっと握る。
「……帰るわ」
ややあって、落ち着きを取り戻したらしく、アラムは静かな口調でそう言った。
それ以上はなにも言わず、こちらに背を向けてスタスタと歩き出す。
その背中を止めることは……俺にはできない。
「……まいったな」
アラムは男嫌いで、どうしようもない姉。
そんなイメージを持っていたんだけど……
でも、事はそう単純じゃないみたいだ。
こんなことになってしまったのは、なにかしら原因があるっぽい。
「そう……だよな。人が変わる時は、なにかしら理由があるものだ。アラムが男を軽視するようになったのも、きっかけがあるはず」
考えれば当たり前のこと。
誰でも思いつくこと。
でも……
俺は、強くなることばかり考えて、周りに目を向けていなかった。
アラムのことを理解しようとしなかった。
その結果が、コレだ。
「情けないな……」
賢者の称号が泣く。
「とはいえ、落ち込むのは後にしないと」
アラムはアラムで、なにかしら問題を抱えているみたいだ。
そのことを知った以上、放っておけない。
それと……
遅いかもしれないけど、彼女のことを理解したい。
弟と姉として、仲良くなりたいと……そう、素直に思った。
アラムは不敵な笑みを浮かべてみせた。
そして、ふんっ、と鼻を鳴らす。
「わざわざ二人きりになったということは、私に話があるんでしょう?」
「そうですね」
「普通なら、男であるあなたの話なんて聞かないのだけど……エリゼに免じて、今日は聞いてあげる。感謝しなさい」
アラムは天才だな。
……人をイラッとさせる。
落ち着け、俺。
アラムも、一応、女の子。
そして、精神年齢は俺よりも遥かに下。
子供の言うことにいちいちムキになっても仕方ない。
ここは大人の余裕っていうやつを……
「なにを黙っているの? ほら、早く話しなさいよ。私の貴重な時間を、レンなんかのために奪わせないでちょうだい」
「……」
やっぱりイラッとするな。
「えっと……それです」
「それ?」
「アラム姉さんは、どうして、俺にそういう態度をとるんですか?」
「え?」
「親の仇と接するような言動。それと、口を開けば男のくせに。俺、そこまでアラム姉さんを怒らせるようなこと、しましたか?」
「……あなたが男なのがいけないのよ」
アラムは拗ねたような感じで答える。
「つまり、俺がアラム姉さんを怒らせるようなことをしたわけじゃなくて、俺が男であることが気に入らない……と?」
「そうよ」
なんていうか……
典型的な女尊男卑の思考だな。
今の時代、そういう人がいないわけじゃない。
一定数いる。
でも、身内にここまでひどく偏った人がいるなんて……
ため息をこぼしてしまう。
「なによ、その態度は」
「いいですか、アラム姉さん?」
「な、なによ」
強い口調で言い、アラムの反論を封じる。
「男である俺が気に入らない。男が気に入らない……そんな幼稚なことを、いつまで言い続けるつもりですか?」
「なんですって?」
「だって、そうでしょう。確かに、女性は魔法が使えるという点で優れている。でも、それを盾に威張る人はどれだけいると思います? 母さんは、魔法が使える女性が優れている、とか言っていますか?」
「そ、それは……」
「女性は優れています。魔法が使えるだけじゃなくて、他の面でも色々と。でも、男性だって優れています。別の面で秀でた力を持っています」
「……」
「無理に比べて、どちらが優秀とか決める必要はないんですよ。適材適所です。それに、男性と女性は力を合わせることが良しです。だって、そうしないと次代に繋げることは絶対にできないんだから」
男性と女性。
その両方がいなければ子供を産むことはできない。
絶対の真理だ。
「どちらが優れているとか。どちらが劣っているとか。そういう考えは捨てるべきですよ。というか……」
ずっと前から疑問に思っていたことを口にする。
「どうして、そんなに男を敵視、軽視するんですか?」
女性しか魔法を使うことができない。
そのため、一時的ではあるが、女尊男卑の時代が訪れたことがあるらしい。
ただ、当時の人達はそれではいけないと思い直して、男女が手を取り合うようになった……という。
そういう時代はあったものの、一時的なものだ。
俺達が生まれるよりもずっとの前のこと。
その時の名残なのか、今も男性を軽視する人はいるけれど、数は少ない。
年老いた人を中心に、いくらかいるくらいだ。
それなのに、アラムはどこで男性軽視という思考に侵されたのか?
「それは……お祖母様が……」
「お祖母様?」
俺達の祖母……のことだよな?
ってことは、祖母がアラムを……
いや、ちょっとまて。
今になって思い返してみると、ほとんど祖母に会ったことがない。
まだ赤ん坊だった頃、ぼんやりとした記憶があるくらいで……
以降、話をするどころか、顔を合わせたこともない。
「もしかして、お祖母様……がアラム姉さんに変なことを吹き込んだんですか?」
「そんな、ことは……」
「だって、そうでもないと説明がつかないんですよ。女尊男卑の思考なんて、一昔前に流行る……っていうのも変な言い方ですけど。とにかく、とっくに終わっていることなんです。それなのに、アラム姉さんがそんなものに毒されているなんて……」
「う、うるさいわねっ!」
立て続けに質問をぶつけていたら、アラムは一歩下がり、大きな声を出す。
周囲から注目されてしまうものの、それを気にした様子はなく、こちらを睨みつける。
「男であるレンが、私に説教をするつもり!?」
「ですから、男性とか女性とかは……」
「うるさい!」
「!?」
強く叫ぶアラム。
その姿は、どこか泣いている子供みたいで……
「私は、お祖母様の言う通りにしなければいけないの! そうしないとダメなのよ!」
「アラム姉さん?」
それはどういう意味なのか?
「あなたなんかに……レンなんかに……私はっ!!!」
アラムはなにかに耐えるように奥歯を噛んで……
それから、拳を強く握る。
ぎゅっと握る。
「……帰るわ」
ややあって、落ち着きを取り戻したらしく、アラムは静かな口調でそう言った。
それ以上はなにも言わず、こちらに背を向けてスタスタと歩き出す。
その背中を止めることは……俺にはできない。
「……まいったな」
アラムは男嫌いで、どうしようもない姉。
そんなイメージを持っていたんだけど……
でも、事はそう単純じゃないみたいだ。
こんなことになってしまったのは、なにかしら原因があるっぽい。
「そう……だよな。人が変わる時は、なにかしら理由があるものだ。アラムが男を軽視するようになったのも、きっかけがあるはず」
考えれば当たり前のこと。
誰でも思いつくこと。
でも……
俺は、強くなることばかり考えて、周りに目を向けていなかった。
アラムのことを理解しようとしなかった。
その結果が、コレだ。
「情けないな……」
賢者の称号が泣く。
「とはいえ、落ち込むのは後にしないと」
アラムはアラムで、なにかしら問題を抱えているみたいだ。
そのことを知った以上、放っておけない。
それと……
遅いかもしれないけど、彼女のことを理解したい。
弟と姉として、仲良くなりたいと……そう、素直に思った。