「ところで……」

 エリゼは、ふと思い出した様子で言う。

「ここがお兄ちゃんの部屋なんですか?」
「ああ、そうみたいだ」

 広いリビングと、備えつけのキッチン。
 手前に風呂とトイレ。
 奥に四つの扉があって、それぞれ部屋に繋がっている。

 部屋は広く、リビングの半分くらいだ。
 ベッドが二つ、備えつけられている。
 他にも、机と棚なども設置されていた。

 かなり良い部屋だけど、これが普通らしい。

 学生は個室が与えられるわけじゃなくて、他の生徒と共同なのだとか。

 俺の場合、絶対に個室にしないとダメだろう、とは思うが……
 やはり、特別待遇はないらしい。
 頭が痛い。

「同居人はまだ来ていないみたいだけど……はあ、俺と一緒で納得してくれるかな?」
「大丈夫だと思いますよ」
「なんか、やけに自信たっぷりだな?」
「だって、私が同居人ですから!」

 エリゼがドヤ顔で言う。

「エリゼが?」
「あと、アリーシャちゃんも一緒ですよ。今は、ちょっと用事があるみたいで、まだ部屋に来ていませんけど」
「アリーシャも?」

 初等部、中等部、高等部。
 さらに、三つのクラスに分けられているものの……
 プライベートでは、その垣根はないらしい。

 区別をしすぎたら差別に繋がるかもしれない。
 そんな考えがあるのかも。

「えへへ、お兄ちゃんと一緒の部屋で嬉しいです。学院では、どうしても別々に過ごさないといけないので……これで、少し寂しくなくなりました」
「そっか、よかったな」

 本来なら、一人部屋が良いと思うのだけど……
 エリゼの笑顔を見ていると、これはこれでいいか、なんてことを思ってしまう。

 俺、妹に甘いのかもしれない。

「俺も、エリゼとアリーシャが一緒で安心したよ」

 妹と友達とはいえ、二人も年頃の女の子。
 本来なら、俺が一緒じゃない方がいいのだけど……

 でもやはり、気心知れた相手が一緒だと嬉しいものだ。

「他は誰なんだろう?」

 部屋数を考えると、まだまだいそうなのだけど……

「人数の都合で、ここは、私とお兄ちゃんとアリーシャちゃんだけみたいですよ」
「そうなのか?」

 これだけの大きな部屋を三人で使うというのは、かなりの贅沢だけど……
 もしかしたら、学院も多少は配慮してくれたのかも。

「それで、アラム姉さんのことだけど……」
「えっと……少し計画を練りたいので、ちょっと待ってもらってもいいですか?」

 計画ってなんだろう?
 妙なことを考えていないか心配だ。

 とはいえ、アラムは徹底的に俺を嫌っているから、俺が下手に動かない方がいい。
 エリゼに任せよう。

「わかった、エリゼに任せるよ」
「はい、期待しててくださいね」

 にっこりと笑うエリゼは、俺とアラムの和解を望んでいるようだ。

 そうだよな……兄と姉が仲違いをしていたら、エリゼのような子は気にしてしまうよな。
 それなのに、俺は今まで強くなることだけを考えて、アラムとの関係改善をがんばろうとしなかった。

 ……反省するべきかもしれない。

「あら、あたしが最後みたいね」

 部屋の扉が開いて、アリーシャが姿を見せた。
 俺達がいても、まるで驚いていないけど……

「アリーシャは、俺達と相部屋だって知っていたのか?」
「ええ。少し前にエリゼがやってきて、嬉しそうに話してくれたわ」
「それはまた……」

 その光景が容易に想像できて、ついつい苦笑してしまう。

「部屋割りはもう決めた?」
「いや、まだだけど」
「なら……」
「アリーシャちゃん、私と同じ部屋にしましょう!」

 エリゼが目をキラキラと輝かせつつ、そう言った。
 とても勢いが良いため、アリーシャがちょっと引いてしまう。

「えっと……ああ、四つの部屋があって、ベッドの数を見る限り、二人ずつの割当なのね。でも、これなら一人一部屋使ってもいいんじゃない?」
「そんなの寂しいです。私、アリーシャちゃんと一緒がいいです」
「まあ……あたしは構わないけど?」

 ストレートな気持ちをぶつけられて、ちょっと照れているようだ。
 そっけない態度をとっているものの、耳が赤い。

「本当なら、お兄ちゃんも一緒がいいんですけど……」
「それはさすがに……」

 いくら兄妹でも、この歳で寝る部屋まで一緒というのはまずいだろう。
 でも、エリゼはそんなことは気にしないのか、しょんぼりしていた。

 うーん……エリゼが望むなら。
 って、ダメだダメだ!

 ほんと、俺は妹に甘すぎやしないか?

「三人揃ったことだし、食堂に行こうか」
「そうね。自炊してもいいけど、さすがに初日だから疲れているし」
「あ、その前に着替えないとですね。よいしょ」

 エリゼは、なんのためらいもなく上着を脱いで……

「ちょ、エリゼ!?」

 俺は慌てて明後日の方を見て、アリーシャが慌ててエリゼに駆け寄った。

 なんていうか、とても幸先不安だった。