「っ!?」

 シャルロッテの魔法が直撃した。
 防ぐことも避けることも、どちらも間に合わない。
 完全に無防備なところに、一撃を受けてしまった。

 思わず目をつむり、身構えてしまうのだけど……

「……うん?」

 なにも起きない。
 痛みもないし、精神的な疲労もない。

 って、そうか。
 試合に気をとられて忘れていたけど、結界が張られているんだっけ。
 そのおかげで無傷なのか。

 でも、おかしいな?
 怪我はしなくても、魔力にダメージがいくという話だったはずだけど……
 俺の魔力は大して減っていない。
 まだまだ余裕がある。

「え? 今、直撃したよね?」
「ストライン君、ピンピンしているよね?」
「もしかして、あの一瞬で防いでいたの?」

 観客席にいるクラスメイト達がざわついた。

 見ると、ローラ先生も驚きの表情を浮かべていた。
 この結果は、やっぱり、おかしいことらしい。

「ちょっとあなた!」

 シャルロッテが、びしっとこちらを指さしてきた。

「わたくしの魔法をまともに食らって、なんでピンピンしてるのよ!?」
「いや、なんでだろう?」
「とぼけるつもり!? そう、敵のあたしには教えない、っていうわけね」
「そうじゃなくて……」

 俺も謎だ。

「先生! 結界はちゃんと作動しているのですか?」
「それは……ええ、もちろんですよ。作動しているからこそ、レン君は無傷だったのですから」
「ですが、魔力にダメージがいってるように見えないんですけど? バグっているのではありません?」
「えっと、それは……」

 想定外の事態に、ローラ先生も困っているみたいだ。
 しばし、考えるような素振りを見せて……
 ふと、思いついたような顔をする。

「もしかしたら……」
「なんですか? やっぱり、結界がバグっているのですか?」
「いえ、結界はきちんと機能しています。レン君にダメージも通っているはずです」
「ですが、なんともない顔をしているのですけど」
「それは……実際に、なんともないからでは?」
「へ?」

 シャルロッテがぽかんとした。
 観客席のクラスメイト達もぽかんとした。
 ついでに俺もぽかんとした。

 そんな俺達に、ローラ先生は丁寧に説明する。

「つまり、ですね……ハッキリと言ってしまうのはアレなのですが……シャルロッテさんの魔法一発では、レン君の魔力をゼロにすることはできない、ということですね」
「そ、そんな……今のは中級魔法なのですよ!?」
「それでも、レン君にとっては大したことはないんですよ。目に見えるほどのダメージを負うほどではなかった……だから、こうして何事もなかったようにしている。そういうことなのだと思いますよ」
「えっ、ちょ……な、なによそれ。それがホントだとしたら、こいつ、どれだけの魔力を持っているのよ……?」

 転生して、最初の頃は魔力が落ちていたものの……
 15歳まで成長したことで、ほぼほぼ、前世と変わらないところまで魔力は戻った。
 おかげで、シャルロッテの攻撃を受けても魔力がゼロになることはなくて、こうしてピンピンしていられるのだろう。

「わたくしの魔法でもほとんどダメージを与えられないなんて……それだけの魔力を持っているなんて……男なのに、そんなことありえるわけ……」

 シャルロッテは大きな衝撃を受けた様子で、ぶつぶつと呟いていた。

 今、攻撃したら確実にヒットするな。

 とはいえ、それはやってはいけないような気がした。
 場の空気を読むというか……
 そんなことしたら色々と台無しだ。

「い、いいえ! そのようなこと、わたくしは認めないわ! 男なんかが上にいるなんてこと、認めてたまるものですか!」

 なにかしらの結論を出したらしく、シャルロッテは再びこちらを睨みつけてきた。
 どうやら、動揺は収まったみたいだ。

「調子に乗るのもここまでよ!」
「いや……俺、まだ、大したことはしてないけど」
「う、うるさいわねっ。あなたがとんでもない魔力を持っているなんて、絶対に認めないわ! 男のくせに……どうせ、なんかインチキをしてるのでしょう? わたくしの魔法であなたを倒して、そのことを証明してみせますわ!」

 シャルロッテは、再び戦闘態勢に移行した。

 対する俺は……

「……ちょっと実験してみるか」

 せっかくの機会だ。
 この時代の魔法にどれだけ耐えられるのか?
 耐久力というか……そんな実験をしておきたかった。

 シャルロッテとの試合?

 ぶっちゃけ、今はどうでもいい。
 それよりも、今の俺の力がどこまで通じるのか、それを試してみたい。
 そのことで心はいっぱいだ。

 強くなる手がかりを得たら、そのことに夢中になってしまい、他のことが気にならなくなってしまう。
 俺の悪い癖なのだけど……
 今更、簡単にやめられないんだよな、これが。

「くらいなさいっ、火炎槍<ファイアランス>!」

 シャルロッテの魔法が炸裂した。
 初級魔法だけど、かなりの魔力が込められているらしく、生成された炎の槍は通常のものよりはるかに大きい。

 それを……俺は、真正面から受け止めた。

 ゴォッ!

 炎が荒れ狂い、火の粉が散る。
 それでも……俺は、平然とその場に立っていた。
 精神的な疲労はないに等しい。

 確かに、魔力は削られているみたいだけど……
 それでも、俺の全体の魔力量からしてみれば、ほんの一部にすぎない。

「な、なんで平然としてるのよ、あなたは!?」
「さっき、ローラ先生が解説した通りだからじゃないか?」
「ぬぐぐぐっ……」

 シャルロッテの顔が赤くなる。
 今にも湯気が出てきそうだ。
 ヤカンかな?

「わたくしは、あなたのことなんて、ぜぇえええええったいに認めないんだから!」
「強情だなあ」
「うっさい、黙れですわ!」

 シャルロッテは俺を射殺す勢いで睨みつけて、

「火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>!」

 魔法を連発した。
 炎の雨が降り注ぎ、破壊の力が渦を巻く。

 それでも、俺はなにもすることなくて、避けることも防ぐこともしない。
 その全てを受け止める。

 次々と炎の槍が激突するけれど、俺の魔力が枯渇することはない。
 それどころか、10分の1も減らせていない。
 初級魔法ならこんなものか?

「こ、このっ……氷烈牙<フリーズストライク>!」

 再び中級魔法が炸裂した。。
 少しだけ身構えてしまう。

 中級魔法を連続で食らうと、それなりのダメージを負うかもしれない。
 そう覚悟をするものの……

「な、な……なんで平然としてるのよぉおおおおおっ!!!?」

 シャルロッテの魔法を受けた後も、俺は倒れない。

 ただ、さすがに無傷というわけにはいかなくて、ちょっとだけ目眩がした。
 魔力が失われたことが原因だろう。

 たぶん……
 感覚からして、残りの魔力は90%くらいだろうか?
 今までの攻撃で、ようやく10分の1が失われたことになる。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……な、なんで……うぅ……」

 シャルロッテは肩で息をして、ふらふらと倒れてしまいそうだ。
 どうやら、魔法を連打しすぎて、自分の方の魔力が枯渇してしまったらしい。
 見事なまでの自爆だ。

 でも……
 うん、なるほど。

 俺の魔力は、だいたい、シャルロッテの十倍くらいかな?
 貴重なデータだ。

 でも、これじゃあ足りない。
 ぜんぜん足りない。
 今まで以上に鍛錬を重ねて、もっともっと上げていきたい。

「よし」

 実験終了。
 そろそろ決着をつけることにしよう。

 このまま放っておいても、勝負はつくんだけど……
 それは彼女のプライドが許さないだろう。

 だから俺は、

「火炎槍<ファイアランス>!」
「えっ!? あっ、ちょ……きゃあああああっ!!!?」

 魔法を直撃させて、残り少ないシャルロッテの魔力をゼロにした。
 これで、勝負は俺の勝ちだ。