自己紹介が終わり……ちなみに、俺はごくごく普通に無難な自己紹介をした……改めてローラ先生が話をする。
「さて……これからみなさんは、三年間、魔法について多くを学ぶことになります。魔法理論、実技、研究……ありとあらゆることを学びます。授業内容は多岐にわたり、どんどんレベルが高くなっていくでしょう。なので、必死になってついてきてください。足を止めてしまった人に差し伸べる手はありません」
つまり、成績不良の者は落第してしまうというわけか。
おもしろい。
そんなことを言えるだけの高度な授業ならば、大歓迎だ。
「まあ、真面目に学んでほしい、ということを言いたいわけです。脅すつもりはありませんが……授業についていけない人は、学費を無駄にしてしまいますからね。こちらから退学を言い渡すことはありませんが、自ら去って行く人は少なくありません。そんなことになる人がこのクラスから出ないことを祈ります」
みんな、自然と顔が引き締まる。
隣のフィアは、引きつってさえいた。
自信、なさそうだからな……大丈夫なのだろうか?
余計なことかもしれないが、ちょっと心配になってしまう。
「では、まず最初に実技に移ります。みなさん、訓練場に移動しますよ」
「え、いきなり実技なんですか?」
誰かが疑問の声をあげた。
その気持ちはわからないでもない。
俺も、最初は魔法理論の書かれた教科書を読むとか、そういう授業を想像していた。
「まずは、みなさんの力を知っておきたいんです。入学試験で能力測定は行われたものの……完全というわけではありませんからね。あと、この目で直に確認しておきたいということもあり、まずは実技を行うというわけです」
なるほど、納得だ。
最初に相手の力を見極めることは、何事においても大事なことだからな。
「先生、わたくしからも質問よろしいですか?」
ピシッと背を伸ばして、一人の女の子が手を上げた。
金色の髪がとても綺麗な女の子だ。
毛先はふんわりとウェーブがかかっていて、軽く外に跳ねている。
でも、それが愛らしさを引き出していた。
体の凹凸はちょっと残念だけど……
その分、手足はすらりと伸びていて、見事な脚線美を見せている。
手も細く、職人が魂を込めて作った人形みたいだ。
シャルロッテ・ブリューナク。
俺と同じ貴族の娘なので、色々と有名な子だ。
その気質は激しい。
なにしろ、自己紹介では『わたくしはこの学院でトップになる者よ!』と真顔で言い放ったからな。
俺も似たようなことを考えてはいるものの、それを口に出すことはしない。
そんな言動をとるために、俺はシャルロッテのことを、『女王さま』みたいだ、なんて感想を抱いていた。
「はい、なんですか?」
「どうして、このクラスに男がいるのかしら?」
シャルロッテはこちらを睨みつけながら、そんな質問をローラ先生に投げた。
「彼もシャルロッテさんと同じ新入生ですよ」
「先生、冗談はやめてくださいませ。あれは男じゃありませんか。男が魔法を使えるわけがないわ」
「まあ、そう思うのも仕方ないですね……ですが、彼……レン・ストラインは男でありながら魔法を使うことができます」
ローラ先生がハッキリと言って……
その内容に、クラスメイト達がざわついた。
さらに、ローラ先生は言葉を続ける。
「レン君の家は貴族ではありますが、その力を使い、この学院に入学したということはありません。彼は、彼自身の力で試験を潜り抜けて、この学院に通う許可を得ました」
「男なのに魔法を……?」
シャルロッテが動揺した様子で、改めてこちらを見た。
シャルロッテだけじゃない。
他のクラスメイト達も、興味津々という視線を俺に送ってくる。
なんだかんだで、みんな、気になっていたのだろう。
「あの噂、本当だったんだ……?」
「男なのに魔法を使えるなんて、すごいね」
「よく見てみると、けっこうかわいいかも」
あちらこちらで俺に関する話が飛び交う。
なんていうか、見世物になったような気分で微妙だ。
っていうか、かわいいってなんだよ、かわいいって。
そこは、かっこいいって言ってほしい。
「納得できましたか? 今までにないことで驚いているかもしれませんが……レン君は、確かに魔法を使うことができます。なので、彼もクラスの一員となったのですよ」
「……納得できませんわ!」
人の話を聞いていないのか、シャルロッテはキッとこちらを睨みつけてきた。
「男が魔法を使う? そんなことありえません! 魔法は、私達女性だけに許された特権なのよ!」
「既存の常識に囚われてはいけませんよ。そういう思考は、魔法技術の発展を阻害します」
「むぐっ」
ローラ先生にやりこめられて、シャルロッテが悔しそうにした。
そして、再びこちらを睨みつけてくる。
「ぐぬぬぬっ……」
おい、待て。
なんで俺を睨むんだ?
今の今まで、俺はなにも言っていないだろう?
恨む相手が違うぞ。
「やっぱり納得できませんわ!」
シャルロッテ女王さまは、かなりのわがままさんみたいだ。
子供のように癇癪を起こして、大きな声をあげる。
「男が魔法を使えるなんて信じられません! きっと、なにかのインチキをしたのでしょう。ええ、そうに決まっていますわ!」
「ふぅ、困りましたね……」
わがままを連発するシャルロッテに、さすがのローラ先生も困った様子だった。
「……なら、試してみるか?」
「え?」
ここで初めて、俺は口を開いた。
困っているローラ先生を助けるためという理由もあるが……
それ以上に、インチキだのなんだの難癖をつけられるのはたまらない。
彼女の暴言を許していたら、学院生活に不備が起きるかもしれない。
そんなことにならないように、わがままな女王さまには、ビシッと言っておく必要があった。
「ローラ先生」
「え? あ、はい」
「この後は、実技なんですよね? そこで、シャルロッテさんと競わせてもらえませんか?」
「競う、って……」
「実際に魔法を使うことで、俺がインチキとかトリックとか、そういうことをしていないことを証明してみせます。そうでもしないと、シャルロッテさんは納得しないみたいだから」
「へえ……あなた、良い度胸しているわね」
シャルロッテが不敵に笑う。
「わたくしにケンカを売るなんて、1万と2000年早いですわ。そのことを証明してあげましょう! ついでに、あなたが魔法を使える、っていうペテンも暴いてあげますわ!」
「俺が魔法を使える、っていう証明だけじゃなくて、シャルロッテさんを負かしてみせるから。その覚悟、よろしく」
「むぐぐぐっ……なによ、あなた。すごく生意気なのですが!」
どっちがだよ。
「あなた達、勝手に話を進めないでくれませんか? ……といっても、もう止まりそうにありませんね……はぁ。仕方ないですね、二人の対戦を許可しましょう」
ローラ先生から許可が降りて……
「ふんっ、ギッタギタのボッコボコにしてさしあげますわ!」
俺は、入学早々、クラスの女王さまと戦うことになるのだった。
「さて……これからみなさんは、三年間、魔法について多くを学ぶことになります。魔法理論、実技、研究……ありとあらゆることを学びます。授業内容は多岐にわたり、どんどんレベルが高くなっていくでしょう。なので、必死になってついてきてください。足を止めてしまった人に差し伸べる手はありません」
つまり、成績不良の者は落第してしまうというわけか。
おもしろい。
そんなことを言えるだけの高度な授業ならば、大歓迎だ。
「まあ、真面目に学んでほしい、ということを言いたいわけです。脅すつもりはありませんが……授業についていけない人は、学費を無駄にしてしまいますからね。こちらから退学を言い渡すことはありませんが、自ら去って行く人は少なくありません。そんなことになる人がこのクラスから出ないことを祈ります」
みんな、自然と顔が引き締まる。
隣のフィアは、引きつってさえいた。
自信、なさそうだからな……大丈夫なのだろうか?
余計なことかもしれないが、ちょっと心配になってしまう。
「では、まず最初に実技に移ります。みなさん、訓練場に移動しますよ」
「え、いきなり実技なんですか?」
誰かが疑問の声をあげた。
その気持ちはわからないでもない。
俺も、最初は魔法理論の書かれた教科書を読むとか、そういう授業を想像していた。
「まずは、みなさんの力を知っておきたいんです。入学試験で能力測定は行われたものの……完全というわけではありませんからね。あと、この目で直に確認しておきたいということもあり、まずは実技を行うというわけです」
なるほど、納得だ。
最初に相手の力を見極めることは、何事においても大事なことだからな。
「先生、わたくしからも質問よろしいですか?」
ピシッと背を伸ばして、一人の女の子が手を上げた。
金色の髪がとても綺麗な女の子だ。
毛先はふんわりとウェーブがかかっていて、軽く外に跳ねている。
でも、それが愛らしさを引き出していた。
体の凹凸はちょっと残念だけど……
その分、手足はすらりと伸びていて、見事な脚線美を見せている。
手も細く、職人が魂を込めて作った人形みたいだ。
シャルロッテ・ブリューナク。
俺と同じ貴族の娘なので、色々と有名な子だ。
その気質は激しい。
なにしろ、自己紹介では『わたくしはこの学院でトップになる者よ!』と真顔で言い放ったからな。
俺も似たようなことを考えてはいるものの、それを口に出すことはしない。
そんな言動をとるために、俺はシャルロッテのことを、『女王さま』みたいだ、なんて感想を抱いていた。
「はい、なんですか?」
「どうして、このクラスに男がいるのかしら?」
シャルロッテはこちらを睨みつけながら、そんな質問をローラ先生に投げた。
「彼もシャルロッテさんと同じ新入生ですよ」
「先生、冗談はやめてくださいませ。あれは男じゃありませんか。男が魔法を使えるわけがないわ」
「まあ、そう思うのも仕方ないですね……ですが、彼……レン・ストラインは男でありながら魔法を使うことができます」
ローラ先生がハッキリと言って……
その内容に、クラスメイト達がざわついた。
さらに、ローラ先生は言葉を続ける。
「レン君の家は貴族ではありますが、その力を使い、この学院に入学したということはありません。彼は、彼自身の力で試験を潜り抜けて、この学院に通う許可を得ました」
「男なのに魔法を……?」
シャルロッテが動揺した様子で、改めてこちらを見た。
シャルロッテだけじゃない。
他のクラスメイト達も、興味津々という視線を俺に送ってくる。
なんだかんだで、みんな、気になっていたのだろう。
「あの噂、本当だったんだ……?」
「男なのに魔法を使えるなんて、すごいね」
「よく見てみると、けっこうかわいいかも」
あちらこちらで俺に関する話が飛び交う。
なんていうか、見世物になったような気分で微妙だ。
っていうか、かわいいってなんだよ、かわいいって。
そこは、かっこいいって言ってほしい。
「納得できましたか? 今までにないことで驚いているかもしれませんが……レン君は、確かに魔法を使うことができます。なので、彼もクラスの一員となったのですよ」
「……納得できませんわ!」
人の話を聞いていないのか、シャルロッテはキッとこちらを睨みつけてきた。
「男が魔法を使う? そんなことありえません! 魔法は、私達女性だけに許された特権なのよ!」
「既存の常識に囚われてはいけませんよ。そういう思考は、魔法技術の発展を阻害します」
「むぐっ」
ローラ先生にやりこめられて、シャルロッテが悔しそうにした。
そして、再びこちらを睨みつけてくる。
「ぐぬぬぬっ……」
おい、待て。
なんで俺を睨むんだ?
今の今まで、俺はなにも言っていないだろう?
恨む相手が違うぞ。
「やっぱり納得できませんわ!」
シャルロッテ女王さまは、かなりのわがままさんみたいだ。
子供のように癇癪を起こして、大きな声をあげる。
「男が魔法を使えるなんて信じられません! きっと、なにかのインチキをしたのでしょう。ええ、そうに決まっていますわ!」
「ふぅ、困りましたね……」
わがままを連発するシャルロッテに、さすがのローラ先生も困った様子だった。
「……なら、試してみるか?」
「え?」
ここで初めて、俺は口を開いた。
困っているローラ先生を助けるためという理由もあるが……
それ以上に、インチキだのなんだの難癖をつけられるのはたまらない。
彼女の暴言を許していたら、学院生活に不備が起きるかもしれない。
そんなことにならないように、わがままな女王さまには、ビシッと言っておく必要があった。
「ローラ先生」
「え? あ、はい」
「この後は、実技なんですよね? そこで、シャルロッテさんと競わせてもらえませんか?」
「競う、って……」
「実際に魔法を使うことで、俺がインチキとかトリックとか、そういうことをしていないことを証明してみせます。そうでもしないと、シャルロッテさんは納得しないみたいだから」
「へえ……あなた、良い度胸しているわね」
シャルロッテが不敵に笑う。
「わたくしにケンカを売るなんて、1万と2000年早いですわ。そのことを証明してあげましょう! ついでに、あなたが魔法を使える、っていうペテンも暴いてあげますわ!」
「俺が魔法を使える、っていう証明だけじゃなくて、シャルロッテさんを負かしてみせるから。その覚悟、よろしく」
「むぐぐぐっ……なによ、あなた。すごく生意気なのですが!」
どっちがだよ。
「あなた達、勝手に話を進めないでくれませんか? ……といっても、もう止まりそうにありませんね……はぁ。仕方ないですね、二人の対戦を許可しましょう」
ローラ先生から許可が降りて……
「ふんっ、ギッタギタのボッコボコにしてさしあげますわ!」
俺は、入学早々、クラスの女王さまと戦うことになるのだった。