いつものように体力トレーニングをして、それから魔力トレーニングに移る。
「光<ライト>」
周囲を照らすための光の球を生み出す初級魔法だ。
光球を手の平の上に浮かせて、そのままの状態を維持。
初級魔法とはいえ、ずっと顕現させた状態というのはなかなか骨が折れる。
だから、良い訓練になるんだよな。
エレニウム魔法学院の試験に合格したけど、入学はまだ先だ。
その間に鈍らないように、日々のトレーニングは欠かせない。
すると、コンコンとノックが響いた。
「どうぞ」
「失礼するわ」
アリーシャが姿を見せた。
アリーシャがウチで暮らすようになって、少し。
あれから、ちょくちょく俺の部屋を尋ねてくるけど……なんでだろう?
「あ……」
アリーシャは魔法を使っている俺を見て、目を丸くした。
なにか大事な話があるのだろうか?
だとしたら、トレーニングしながら、っていうのは失礼だな。
「ちょっと待ってくれ」
「あ、うん」
魔力をコントロールして光球を消した。
供給する魔力を少しずつ減らすことで、効果時間を任意に変更できる。
これも繊細なコントロールが要求されるから、なかなか難しいんだよな。
「もしかして、トレーニングの最中だった?」
「ああ」
「珍しい方法ね……どうやっているの?」
「これは……」
別に隠す必要もないので、素直にトレーニングの内容を教えた。
すると、再びアリーシャの目が丸くなる。
「どうした?」
「いえ……あなた、無茶苦茶なのね」
「無茶苦茶? なにが?」
「男なのに魔法が使えるってところもそうだけど、こんなトレーニングをしているなんて……普通、できないわよ」
「そうなのか?」
「あたしは無理ね。魔法を常時発動させておくなんて……全力疾走を続けるようなものじゃない。どうやったらそんなことができるのよ?」
「努力かな」
前世では賢者と呼ばれていたが、俺は天才じゃない。
むしろ、最初は初級魔法すら使えない落ちこぼれだった。
でも、俺は負けず嫌いなのだ。
周囲が蔑み、哀れむほどに対抗心を燃やして、努力を積み重ねた。
その結果……今に至る、というわけだ。
「ところで、アリーシャはどうしたんだ? 俺になにか用?」
「あ、うん。大したことじゃないんだけど……どうしているのかな、って気になって」
「なんだ、それ?」
「もう……察しなさいよ、ばかっ」
なぜか怒られた。
やっぱり理不尽だ。
「でも、せっかくだから、あたしも一緒にトレーニングしようかしら。模擬試合でもする?」
「お、いいね」
対人戦は貴重だ。
一人では得ることができない経験を積むことができる。
エリゼを相手に対人戦をしてもいいんだけど……
体が弱い頃のイメージが抜けなくて、いまいち集中できないんだよな。
「じゃあ、庭に出るか」
「ええ」
アリーシャと一緒に庭に出た。
幸いというべきか、アラムに見つかり、あーだこーだ言われることはなかった。
「エリゼは誘わないのか?」
「お姉さんと一緒に出かけているみたい」
納得。
道理でうるさい声が飛んでこないわけだ。
「それじゃあ、いくわよ!」
「こいっ」
アリーシャが剣を構えて、俺は杖を構えた。
当たり前だけど、訓練用のもので刃を落としてある。
ただ、鉄の棒に違いないので、当たれば痛いで済まない場合もある。
「ふっ!」
アリーシャが一気に踏み込んできて、剣を振る。
速度は申し分ない。
女性とは思えないくらいの力だ。
杖を盾にしてアリーシャの剣を受け止めて、弾き返す。
「やるわね!」
「アリーシャもな!」
アリーシャの剣技はとても洗練されていた。
魔法も剣技も衰退しているこの時代、驚くものがある。
次から次に斬撃が繰り出されて、なかなか反撃に移ることができない。
このままだと押し込まれてしまう。
なら、無理矢理にでも反撃に出よう。
「風嵐槍<エアロランス>!」
大きく後ろに跳んで距離を開けると同時に、魔法を放つ。
風で編み込まれた槍がアリーシャに向かい……
「それを待っていたわよ!」
「なっ!?」
よりにもよって、アリーシャは魔法を剣で受け止めた。
初級魔法とはいえ、訓練用の剣を叩き折るだけの力はある。
普通なら剣は折れてしまうのに、なぜか折れない。
それどころか、魔法が触れた瞬間、剣が光を放つ。
アリーシャは不敵な笑みを浮かべて、風を……魔法をまとう剣をこちらに見せつけた。
「それは……?」
「これがあたしの奥の手……魔法剣よ」
「……魔法剣……」
「見ての通り、剣に魔法を付与すること、力を一気に跳ね上げることができるの。その威力は……まあ、実際に試してみた方が早いわね。いくわよ……無茶はしないで、防御に専念して」
再びアリーシャが駆けてきた。
風をまとう剣を振り下ろす。
それを杖で受け止めると……
「ぐっ!?」
ズシリと、今までにはなかった重さを感じた。
明らかに威力が増している。
それだけじゃない。
剣にまとわりついた風が嵐のように暴れて、こちらの手元を狂わせる。
「っと……ここまでね」
アリーシャが剣を引いて後ろに下がった。
その意味をすぐに知ることになる。
杖にヒビが入っていた。
訓練用のものとはいえ、鉄でできているのでそれなりに頑丈だ。
それにヒビを入れるなんて……
「すごいな」
「でしょう?」
アリーシャは得意そうな笑みを見せた。
「魔法と剣技を一体化させる……そんなこと、考えたこともなかった。それ、どこで習得したんだ?」
「独学よ。あたしは、ほら……一人で生きていくしかなかったでしょう? だから、こういう力が必須で……で、ある時思いついたの。剣技と魔法を一緒にしたら、もっと強くなれるんじゃないか、って」
「なるほど……文字通りの魔法剣士、っていうわけか」
その発想力がうらやましい。
思えば、前世の俺は、強くなるために突飛な試みをすることなかった。
教科書通りの訓練を積み重ねて、セオリーに従い戦術を組み立ててきた。
それでも、賢者と呼ばれるくらいの力を得たが……
でも、それだけでは足りない。
魔王に勝つことはできなかった。
この時代、魔法も戦術も衰退しているが……でも、それは勘違いだったのかもしれない。
衰退じゃなくて、別の方向に、独自の進化を遂げているのかもしれない。
アリーシャのような力を手に入れることができたら……
「どうしたの?」
「え?」
「なんか笑ってるけど……」
「……いや、なんでもない」
俺は、まだまだ強くなることができる。
きっと、前世以上に強くなることができる。
そう感じで、拳をぎゅっと握りしめた。
「光<ライト>」
周囲を照らすための光の球を生み出す初級魔法だ。
光球を手の平の上に浮かせて、そのままの状態を維持。
初級魔法とはいえ、ずっと顕現させた状態というのはなかなか骨が折れる。
だから、良い訓練になるんだよな。
エレニウム魔法学院の試験に合格したけど、入学はまだ先だ。
その間に鈍らないように、日々のトレーニングは欠かせない。
すると、コンコンとノックが響いた。
「どうぞ」
「失礼するわ」
アリーシャが姿を見せた。
アリーシャがウチで暮らすようになって、少し。
あれから、ちょくちょく俺の部屋を尋ねてくるけど……なんでだろう?
「あ……」
アリーシャは魔法を使っている俺を見て、目を丸くした。
なにか大事な話があるのだろうか?
だとしたら、トレーニングしながら、っていうのは失礼だな。
「ちょっと待ってくれ」
「あ、うん」
魔力をコントロールして光球を消した。
供給する魔力を少しずつ減らすことで、効果時間を任意に変更できる。
これも繊細なコントロールが要求されるから、なかなか難しいんだよな。
「もしかして、トレーニングの最中だった?」
「ああ」
「珍しい方法ね……どうやっているの?」
「これは……」
別に隠す必要もないので、素直にトレーニングの内容を教えた。
すると、再びアリーシャの目が丸くなる。
「どうした?」
「いえ……あなた、無茶苦茶なのね」
「無茶苦茶? なにが?」
「男なのに魔法が使えるってところもそうだけど、こんなトレーニングをしているなんて……普通、できないわよ」
「そうなのか?」
「あたしは無理ね。魔法を常時発動させておくなんて……全力疾走を続けるようなものじゃない。どうやったらそんなことができるのよ?」
「努力かな」
前世では賢者と呼ばれていたが、俺は天才じゃない。
むしろ、最初は初級魔法すら使えない落ちこぼれだった。
でも、俺は負けず嫌いなのだ。
周囲が蔑み、哀れむほどに対抗心を燃やして、努力を積み重ねた。
その結果……今に至る、というわけだ。
「ところで、アリーシャはどうしたんだ? 俺になにか用?」
「あ、うん。大したことじゃないんだけど……どうしているのかな、って気になって」
「なんだ、それ?」
「もう……察しなさいよ、ばかっ」
なぜか怒られた。
やっぱり理不尽だ。
「でも、せっかくだから、あたしも一緒にトレーニングしようかしら。模擬試合でもする?」
「お、いいね」
対人戦は貴重だ。
一人では得ることができない経験を積むことができる。
エリゼを相手に対人戦をしてもいいんだけど……
体が弱い頃のイメージが抜けなくて、いまいち集中できないんだよな。
「じゃあ、庭に出るか」
「ええ」
アリーシャと一緒に庭に出た。
幸いというべきか、アラムに見つかり、あーだこーだ言われることはなかった。
「エリゼは誘わないのか?」
「お姉さんと一緒に出かけているみたい」
納得。
道理でうるさい声が飛んでこないわけだ。
「それじゃあ、いくわよ!」
「こいっ」
アリーシャが剣を構えて、俺は杖を構えた。
当たり前だけど、訓練用のもので刃を落としてある。
ただ、鉄の棒に違いないので、当たれば痛いで済まない場合もある。
「ふっ!」
アリーシャが一気に踏み込んできて、剣を振る。
速度は申し分ない。
女性とは思えないくらいの力だ。
杖を盾にしてアリーシャの剣を受け止めて、弾き返す。
「やるわね!」
「アリーシャもな!」
アリーシャの剣技はとても洗練されていた。
魔法も剣技も衰退しているこの時代、驚くものがある。
次から次に斬撃が繰り出されて、なかなか反撃に移ることができない。
このままだと押し込まれてしまう。
なら、無理矢理にでも反撃に出よう。
「風嵐槍<エアロランス>!」
大きく後ろに跳んで距離を開けると同時に、魔法を放つ。
風で編み込まれた槍がアリーシャに向かい……
「それを待っていたわよ!」
「なっ!?」
よりにもよって、アリーシャは魔法を剣で受け止めた。
初級魔法とはいえ、訓練用の剣を叩き折るだけの力はある。
普通なら剣は折れてしまうのに、なぜか折れない。
それどころか、魔法が触れた瞬間、剣が光を放つ。
アリーシャは不敵な笑みを浮かべて、風を……魔法をまとう剣をこちらに見せつけた。
「それは……?」
「これがあたしの奥の手……魔法剣よ」
「……魔法剣……」
「見ての通り、剣に魔法を付与すること、力を一気に跳ね上げることができるの。その威力は……まあ、実際に試してみた方が早いわね。いくわよ……無茶はしないで、防御に専念して」
再びアリーシャが駆けてきた。
風をまとう剣を振り下ろす。
それを杖で受け止めると……
「ぐっ!?」
ズシリと、今までにはなかった重さを感じた。
明らかに威力が増している。
それだけじゃない。
剣にまとわりついた風が嵐のように暴れて、こちらの手元を狂わせる。
「っと……ここまでね」
アリーシャが剣を引いて後ろに下がった。
その意味をすぐに知ることになる。
杖にヒビが入っていた。
訓練用のものとはいえ、鉄でできているのでそれなりに頑丈だ。
それにヒビを入れるなんて……
「すごいな」
「でしょう?」
アリーシャは得意そうな笑みを見せた。
「魔法と剣技を一体化させる……そんなこと、考えたこともなかった。それ、どこで習得したんだ?」
「独学よ。あたしは、ほら……一人で生きていくしかなかったでしょう? だから、こういう力が必須で……で、ある時思いついたの。剣技と魔法を一緒にしたら、もっと強くなれるんじゃないか、って」
「なるほど……文字通りの魔法剣士、っていうわけか」
その発想力がうらやましい。
思えば、前世の俺は、強くなるために突飛な試みをすることなかった。
教科書通りの訓練を積み重ねて、セオリーに従い戦術を組み立ててきた。
それでも、賢者と呼ばれるくらいの力を得たが……
でも、それだけでは足りない。
魔王に勝つことはできなかった。
この時代、魔法も戦術も衰退しているが……でも、それは勘違いだったのかもしれない。
衰退じゃなくて、別の方向に、独自の進化を遂げているのかもしれない。
アリーシャのような力を手に入れることができたら……
「どうしたの?」
「え?」
「なんか笑ってるけど……」
「……いや、なんでもない」
俺は、まだまだ強くなることができる。
きっと、前世以上に強くなることができる。
そう感じで、拳をぎゅっと握りしめた。