アリーシャがウチに泊まることは、問題なく許可された。
父さんと母さんは、エリゼが初めて友達を家に連れてきたと喜んで……
アラムは、俺に厳しいだけで、普段は貴族として真面目な淑女らしい行動をとっている。
困っている人を見捨てるつもりはなくて、賛成してくれた。
そうやってトントン拍子で話が進んで……
即日、アリーシャが家にやってきた。
――――――――――
「ふう」
夕食を終えて自室に戻る。
椅子に座り、体をリラックスさせると自然と吐息がこぼれた。
今日は俺達の合格祝いと……
それと、アリーシャの歓迎会ということで、ごちそうが用意された。
貴族だからこそ、その身分に溺れることなく、常に正しい在り方を示さないといけない。
贅沢に浸るなんてもっての他で、民の見本とならないといけない。
……という信念を持つ父さんと母さんからしたら、今日は、かなり奮発してくれた。
あんなごちそう、何年ぶりだろう?
久しぶりの豪華な食事をたくさん腹につめこんで……
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「色々あったけど、無事に合格できてよかった」
これで現代の魔法について、本格的に学ぶことができる。
500年前と比べて衰退している部分はあるものの……
独自に発展しているところもありそうなので、そういうところは興味深い。
色々な知識、技術を吸収したいと思う。
「楽しみだな」
エル師匠にも色々と教えてもらったけれど……
でも、それだけでは足りない。
もっともっと強くならないと。
「そうだ……俺は、強くならないといけないんだ」
魔王という敵がいる。
今度こそヤツを倒すために力が必要だ。
それに……
エリゼやアリーシャ。
父さん母さん。
あと、一応アラムも。
みんなが巻き込まれることになるところを想像すると、モヤッとなる。
そんな光景は見たくないと思う。
「がんばらないとな……よし!」
やる気が出る。
……とはいえ、もう夜も遅い。
ちゃんと寝て、しっかりと体を成長させることも大事だ。
いつもの自主練はやめて、もうベッドに入ることにしよう。
「ん?」
コンコン、とノックが響いた。
こんな時間に誰だろう?
アラム……ってことはないから、エリゼか?
一人で寝るのは寂しいと、今でも、ちょくちょくベッドに潜り込んでくることがあるんだよな。
「はい、どうぞ」
「えっと……おじゃまします」
顔を見せたのは、意外というかアリーシャだった。
「そのパジャマ……」
エリゼに借りたのか、水玉模様のパジャマを着ていた。
俺の視線に気がついて、アリーシャがもじもじとする。
「こんなパジャマ、あたしには似合わないわよね……」
「いや、そんなことないって。すごく似合うよ。かわいい」
「か、かわいいって……そんなこと言われると、て、照れるわね」
アリーシャが笑顔になって、次いで、赤くなる。
なんだか落ち着きがないけど、どうしたんだろう?
今までにない反応を不思議に思う。
「どうしたんだ?」
「えっと、その……ちょっと話をしたいと思って」
「なにか悩みが?」
「そ、そういうわけじゃないの。ただの雑談で、深い意味はなくて……ダメ、かしら?」
「ダメなんてことないさ、いいよ」
「あ、ありがとう!」
アリーシャはイスに座り、
「……」
沈黙。
緊張しているのだろうか?
出会った時からは想像できないくらい、おとなしい。
借りてきた猫みたいだ。
「どうしたんだ?」
「いや、その……なんていうか……あー……な、なんでもないわ。気にしないで」
「緊張してる?」
「し、してないし! 意識なんてしてないし!」
……もしかして。
試験で俺達に刃を向けたことを気にしているのか?
あれは死神のせいだから、気にすることはないのに……
でも、アリーシャは責任感が強そうだから仕方ないのかも。
「まあ、ゆっくりしていけばいいさ。お茶でも飲むか? って、給仕さんは寝ちゃったかな?」
「あ、ううん。大丈夫」
「そうか?」
「……」
「……」
妙に気まずい沈黙が訪れた。
「「あの」」
声が重なってしまった。
ますます気まずい。
いったいなんだ、この空気は?
アリーシャの緊張がうつってしまったのか、俺までぎこちなくなってしまう。
というか……
こんな時間に女の子と二人きりなんて、よくよく考えてみるとまずいんじゃないのか?
俺は男で、アリーシャは女の子で……
って、考え過ぎか。
いくらなんでも、なにかが起きるとは思えない。
俺は変なことなんてしないし、アリーシャにそういう気があるなんてこと、ない。
出会ったばかりなのだから。
「……ちょっといい?」
「あ、うん。どうかした?」
「あなた、レンっていうのよね?」
「そうだけど……え? まさか、俺、名前覚えてもらってなかったのか!?」
「う、ううん! そういうわけじゃないから、さすがに覚えてるわ!?」
アリーシャは顔を赤くして、あちらこちらに視線をふらふらさせて……
ややあって、こちらに視線を固定した。
「……あたしは、エリゼのことはエリゼ、って呼んでいるの」
「え? うん」
「それなのに、あんたのことはあんた、って呼んでいるわけで……」
「そういえばそうだな」
今、気がついた。
呼び方、呼ばれ方なんて、あまり気にしていなかったからな。
「えっと、ね……それはどうなのかな、って思うの」
「そうなのか?」
「だって……あんたはあたしを助けてくれた恩人で。このまま、っていうわけにはいかないわ。恩人に対して失礼だもの……それに、他にも……う、ううん。これはなんでもないから気にしないで」
「うん? まあ……でも、そんなに俺のことは気にしないでいいけど」
「あたしが気にするの!」
「お、おおぅ?」
なぜか怒られた。
なんで?
「ここからが本題。えっと……あんたのことを名前で、『レン』って呼んでもいい……?」
「いいけど?」
「ホント?」
「ホントだって……っていうか、近い近い」
アリーシャはものすごく喜んで、ぐぐぐっと近づいてきた。
「じゃあ……試しに呼んでみるわね」
「オッケー」
「えっと……ちょっと緊張するというか、いざとなると照れくさいわね。それじゃあ……」
あたふたとしつつ……
アリーシャは、そっと、俺の名前を口にする。
「……レン……」
名前を呼ばれた瞬間、なぜかドキリとした。
「……レン……」
もう一度、アリーシャが俺の名前を口にした。
「うん」
「レン」
「うん」
「ふふっ……レン♪」
にっこりと笑うアリーシャ。
なにがうれしいのか、俺の名前を何度も呼んだ。
「ねえ、レン」
「うん?」
「その……これからもよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
父さんと母さんは、エリゼが初めて友達を家に連れてきたと喜んで……
アラムは、俺に厳しいだけで、普段は貴族として真面目な淑女らしい行動をとっている。
困っている人を見捨てるつもりはなくて、賛成してくれた。
そうやってトントン拍子で話が進んで……
即日、アリーシャが家にやってきた。
――――――――――
「ふう」
夕食を終えて自室に戻る。
椅子に座り、体をリラックスさせると自然と吐息がこぼれた。
今日は俺達の合格祝いと……
それと、アリーシャの歓迎会ということで、ごちそうが用意された。
貴族だからこそ、その身分に溺れることなく、常に正しい在り方を示さないといけない。
贅沢に浸るなんてもっての他で、民の見本とならないといけない。
……という信念を持つ父さんと母さんからしたら、今日は、かなり奮発してくれた。
あんなごちそう、何年ぶりだろう?
久しぶりの豪華な食事をたくさん腹につめこんで……
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「色々あったけど、無事に合格できてよかった」
これで現代の魔法について、本格的に学ぶことができる。
500年前と比べて衰退している部分はあるものの……
独自に発展しているところもありそうなので、そういうところは興味深い。
色々な知識、技術を吸収したいと思う。
「楽しみだな」
エル師匠にも色々と教えてもらったけれど……
でも、それだけでは足りない。
もっともっと強くならないと。
「そうだ……俺は、強くならないといけないんだ」
魔王という敵がいる。
今度こそヤツを倒すために力が必要だ。
それに……
エリゼやアリーシャ。
父さん母さん。
あと、一応アラムも。
みんなが巻き込まれることになるところを想像すると、モヤッとなる。
そんな光景は見たくないと思う。
「がんばらないとな……よし!」
やる気が出る。
……とはいえ、もう夜も遅い。
ちゃんと寝て、しっかりと体を成長させることも大事だ。
いつもの自主練はやめて、もうベッドに入ることにしよう。
「ん?」
コンコン、とノックが響いた。
こんな時間に誰だろう?
アラム……ってことはないから、エリゼか?
一人で寝るのは寂しいと、今でも、ちょくちょくベッドに潜り込んでくることがあるんだよな。
「はい、どうぞ」
「えっと……おじゃまします」
顔を見せたのは、意外というかアリーシャだった。
「そのパジャマ……」
エリゼに借りたのか、水玉模様のパジャマを着ていた。
俺の視線に気がついて、アリーシャがもじもじとする。
「こんなパジャマ、あたしには似合わないわよね……」
「いや、そんなことないって。すごく似合うよ。かわいい」
「か、かわいいって……そんなこと言われると、て、照れるわね」
アリーシャが笑顔になって、次いで、赤くなる。
なんだか落ち着きがないけど、どうしたんだろう?
今までにない反応を不思議に思う。
「どうしたんだ?」
「えっと、その……ちょっと話をしたいと思って」
「なにか悩みが?」
「そ、そういうわけじゃないの。ただの雑談で、深い意味はなくて……ダメ、かしら?」
「ダメなんてことないさ、いいよ」
「あ、ありがとう!」
アリーシャはイスに座り、
「……」
沈黙。
緊張しているのだろうか?
出会った時からは想像できないくらい、おとなしい。
借りてきた猫みたいだ。
「どうしたんだ?」
「いや、その……なんていうか……あー……な、なんでもないわ。気にしないで」
「緊張してる?」
「し、してないし! 意識なんてしてないし!」
……もしかして。
試験で俺達に刃を向けたことを気にしているのか?
あれは死神のせいだから、気にすることはないのに……
でも、アリーシャは責任感が強そうだから仕方ないのかも。
「まあ、ゆっくりしていけばいいさ。お茶でも飲むか? って、給仕さんは寝ちゃったかな?」
「あ、ううん。大丈夫」
「そうか?」
「……」
「……」
妙に気まずい沈黙が訪れた。
「「あの」」
声が重なってしまった。
ますます気まずい。
いったいなんだ、この空気は?
アリーシャの緊張がうつってしまったのか、俺までぎこちなくなってしまう。
というか……
こんな時間に女の子と二人きりなんて、よくよく考えてみるとまずいんじゃないのか?
俺は男で、アリーシャは女の子で……
って、考え過ぎか。
いくらなんでも、なにかが起きるとは思えない。
俺は変なことなんてしないし、アリーシャにそういう気があるなんてこと、ない。
出会ったばかりなのだから。
「……ちょっといい?」
「あ、うん。どうかした?」
「あなた、レンっていうのよね?」
「そうだけど……え? まさか、俺、名前覚えてもらってなかったのか!?」
「う、ううん! そういうわけじゃないから、さすがに覚えてるわ!?」
アリーシャは顔を赤くして、あちらこちらに視線をふらふらさせて……
ややあって、こちらに視線を固定した。
「……あたしは、エリゼのことはエリゼ、って呼んでいるの」
「え? うん」
「それなのに、あんたのことはあんた、って呼んでいるわけで……」
「そういえばそうだな」
今、気がついた。
呼び方、呼ばれ方なんて、あまり気にしていなかったからな。
「えっと、ね……それはどうなのかな、って思うの」
「そうなのか?」
「だって……あんたはあたしを助けてくれた恩人で。このまま、っていうわけにはいかないわ。恩人に対して失礼だもの……それに、他にも……う、ううん。これはなんでもないから気にしないで」
「うん? まあ……でも、そんなに俺のことは気にしないでいいけど」
「あたしが気にするの!」
「お、おおぅ?」
なぜか怒られた。
なんで?
「ここからが本題。えっと……あんたのことを名前で、『レン』って呼んでもいい……?」
「いいけど?」
「ホント?」
「ホントだって……っていうか、近い近い」
アリーシャはものすごく喜んで、ぐぐぐっと近づいてきた。
「じゃあ……試しに呼んでみるわね」
「オッケー」
「えっと……ちょっと緊張するというか、いざとなると照れくさいわね。それじゃあ……」
あたふたとしつつ……
アリーシャは、そっと、俺の名前を口にする。
「……レン……」
名前を呼ばれた瞬間、なぜかドキリとした。
「……レン……」
もう一度、アリーシャが俺の名前を口にした。
「うん」
「レン」
「うん」
「ふふっ……レン♪」
にっこりと笑うアリーシャ。
なにがうれしいのか、俺の名前を何度も呼んだ。
「ねえ、レン」
「うん?」
「その……これからもよろしくね」
「ああ、こちらこそ」