「あたしに関わる人はみんな死ぬ。親しい人も親しくない人も、みんな、みんな、みんな……ううん。死ぬというよりは私が殺すの」
「……」
「だから、あたしに関わらない方がいいわ」
拒絶の言葉を叩きつけられてしまう。
彼女は、きっと優しい心を持っている。
だからこそ、今の言葉は本心なのだろう。
俺達のことを傷つけたくない。
そう気にかけてくれているのだろう。
そんなアリーシャの優しさを感じたからこそ、俺はなにも言えない。
……ただ、エリゼは違った」
「アリーシャちゃんは、とても優しい人なんですね」
「……なにを言っているの? あたしは死神に魅入られているのよ? あたしの話、ちゃんと聞いていた?」
「聞いていましたよ? たくさんの不幸があったんですよね? それはとても辛いですよね……」
「だったら」
「でも、アリーシャちゃんが悪いなんてこと、絶対にありません」
きっぱりと断言してしまう。
アリーシャだけじゃなくて、俺も驚いてしまう。
「そんなわけ……!」
「あります」
言葉を途中で遮り、なおも強く主張する。
そんな話は認めてたまるものかと、エリゼは瞳に強い意思を宿していた。
「アリーシャちゃんなにもしていないじゃないですか。悪いのは、全部、死神です」
「そんな子供みたいな言い訳……」
「むしろ、アリーシャちゃんが、どうしてそこまで責任を負わないといけないのかわからないです。どう考えても事故じゃないですか。無理矢理させられているようなことなのに、そこまで責任を感じることはないと思います」
「……」
「でも、そこまで気にして、私達のことも気にかけてくれて……だから、アリーシャちゃんは優しい女の子なんです」
エリゼがにっこりと笑い、そんな結論を出した。
「……」
なにも言えなくなった様子で、アリーシャは視線を逸らす。
その顔には戸惑いの色が。
エリゼみたいな子は初めてなのだろう。
うん。俺も驚いている。
まさか、エリゼがこんなことを考えていたなんて……
それはエリゼの優しさ。
そういう心を持つことは、とても大事……なのかもしれない。
俺もまだ色々なことを勉強中だ。
こうして、妹に気付かされることも多い。
……まだまだ未熟だな。
「俺もエリゼの言葉を支持するよ」
「あなたまで……」
「で……ついでに言っておくと、パーティーの解散なんてしないからな?」
「う……」
予想が的中したらしく、アリーシャは小さくうめいた。
私と一緒にいない方がいい、と言い出すかと思ったけど、その通りだったらしい。
「でも、私は死神が……」
「なにかあれば、俺がなんとかしてみせる」
強く、ハッキリと。
己の意思を伝えるように言い切った。
「……あ……」
「トラブルが起きたとしても、どうにかする。いきなりは難しいだろうけど、少しでも俺を信じてくれないか?」
「それは……」
「あと、パーティーを解散したら不合格になる。合格するには、このまま一緒に行動しないと」
「……勝手にすれば」
突き放すようなことはせず。
アリーシャはそう言って、先を歩き出した。
素直になれないものの、ひとまずは受け入れてくれたということかな?
なら、それに応えてみせないと。
――――――――――
訓練用のダンジョンを探索することしばらく……
地下三階へ降りる階段を見つけた。
「けっこう順調だな。この調子なら、問題なく試験をクリアーできそうだ」
「呑気なことを……」
「アリーシャとエリゼがいるからな。死神はともかく、アリーシャの剣は頼りにしているよ」
「……ふん」
「お兄ちゃん、アリーシャちゃん。早く行きましょう」
アリーシャが地下三階に降りる。
俺達も後に続いた。
「ん?」
地下三階に降りたところで、妙な気配を感じた。
奥の方から強い魔物の気配を感じる。
以前戦ったドラゴンと似た感じだ。
ここはダンジョンだけど、あくまでも試験。
そこまで凶暴な魔物はいないと聞いているのだけど……
「エリゼ、アリーシャ。俺の後ろへ」
「え?」
「なによ」
「いいから、今は従ってくれ」
強い口調で言うと、二人は素直に俺の後ろへ。
二人を背中にかばい、いつでも魔法を唱えられるように構える。
そうして、少しの間、様子を見ていると……
「いやあああああっ!!!?」
奥から、たくさんの受験生達が駆けてきた。
皆、恐怖の表情を浮かべていて、一心不乱に『なにか』から逃げている。
「おい、どうしたんだ?」
……と、声をかけてみるものの、まともに答えてくれる人はいない。
逃げ出した受験生達は、そのまま地下二階へ移動してしまった。
「なんだ?」
「どうしたんでしょうね……?」
「この奥が最深部だから、証を守る魔物に恐れをなしたんじゃない?」
普通に考えると、アリーシャの推測が正解に近いと思う。
ただ、あそこまで怯えていたのが気になる。
それと、強力な魔物の気配……
なにかイレギュラーが発生しているのかもしれないな。
「これは……」
ほどなくして俺達も最深部にたどり着いて……
それを見た。
巨大な角と槍のように鋭い牙。
丸太よりも太い四肢は、筋肉の鎧のような体をしっかりと支えている。
猛牛にも似た姿を持つその魔物の名前は……ベヒーモス。
上級に分類される魔物で、並の冒険者が百人集まっても倒せないと言われている。
「グルァアアアアアッ!!!」
俺達をその視界に収めると、ベヒーモスは凶悪な咆哮を発した。
「……」
「だから、あたしに関わらない方がいいわ」
拒絶の言葉を叩きつけられてしまう。
彼女は、きっと優しい心を持っている。
だからこそ、今の言葉は本心なのだろう。
俺達のことを傷つけたくない。
そう気にかけてくれているのだろう。
そんなアリーシャの優しさを感じたからこそ、俺はなにも言えない。
……ただ、エリゼは違った」
「アリーシャちゃんは、とても優しい人なんですね」
「……なにを言っているの? あたしは死神に魅入られているのよ? あたしの話、ちゃんと聞いていた?」
「聞いていましたよ? たくさんの不幸があったんですよね? それはとても辛いですよね……」
「だったら」
「でも、アリーシャちゃんが悪いなんてこと、絶対にありません」
きっぱりと断言してしまう。
アリーシャだけじゃなくて、俺も驚いてしまう。
「そんなわけ……!」
「あります」
言葉を途中で遮り、なおも強く主張する。
そんな話は認めてたまるものかと、エリゼは瞳に強い意思を宿していた。
「アリーシャちゃんなにもしていないじゃないですか。悪いのは、全部、死神です」
「そんな子供みたいな言い訳……」
「むしろ、アリーシャちゃんが、どうしてそこまで責任を負わないといけないのかわからないです。どう考えても事故じゃないですか。無理矢理させられているようなことなのに、そこまで責任を感じることはないと思います」
「……」
「でも、そこまで気にして、私達のことも気にかけてくれて……だから、アリーシャちゃんは優しい女の子なんです」
エリゼがにっこりと笑い、そんな結論を出した。
「……」
なにも言えなくなった様子で、アリーシャは視線を逸らす。
その顔には戸惑いの色が。
エリゼみたいな子は初めてなのだろう。
うん。俺も驚いている。
まさか、エリゼがこんなことを考えていたなんて……
それはエリゼの優しさ。
そういう心を持つことは、とても大事……なのかもしれない。
俺もまだ色々なことを勉強中だ。
こうして、妹に気付かされることも多い。
……まだまだ未熟だな。
「俺もエリゼの言葉を支持するよ」
「あなたまで……」
「で……ついでに言っておくと、パーティーの解散なんてしないからな?」
「う……」
予想が的中したらしく、アリーシャは小さくうめいた。
私と一緒にいない方がいい、と言い出すかと思ったけど、その通りだったらしい。
「でも、私は死神が……」
「なにかあれば、俺がなんとかしてみせる」
強く、ハッキリと。
己の意思を伝えるように言い切った。
「……あ……」
「トラブルが起きたとしても、どうにかする。いきなりは難しいだろうけど、少しでも俺を信じてくれないか?」
「それは……」
「あと、パーティーを解散したら不合格になる。合格するには、このまま一緒に行動しないと」
「……勝手にすれば」
突き放すようなことはせず。
アリーシャはそう言って、先を歩き出した。
素直になれないものの、ひとまずは受け入れてくれたということかな?
なら、それに応えてみせないと。
――――――――――
訓練用のダンジョンを探索することしばらく……
地下三階へ降りる階段を見つけた。
「けっこう順調だな。この調子なら、問題なく試験をクリアーできそうだ」
「呑気なことを……」
「アリーシャとエリゼがいるからな。死神はともかく、アリーシャの剣は頼りにしているよ」
「……ふん」
「お兄ちゃん、アリーシャちゃん。早く行きましょう」
アリーシャが地下三階に降りる。
俺達も後に続いた。
「ん?」
地下三階に降りたところで、妙な気配を感じた。
奥の方から強い魔物の気配を感じる。
以前戦ったドラゴンと似た感じだ。
ここはダンジョンだけど、あくまでも試験。
そこまで凶暴な魔物はいないと聞いているのだけど……
「エリゼ、アリーシャ。俺の後ろへ」
「え?」
「なによ」
「いいから、今は従ってくれ」
強い口調で言うと、二人は素直に俺の後ろへ。
二人を背中にかばい、いつでも魔法を唱えられるように構える。
そうして、少しの間、様子を見ていると……
「いやあああああっ!!!?」
奥から、たくさんの受験生達が駆けてきた。
皆、恐怖の表情を浮かべていて、一心不乱に『なにか』から逃げている。
「おい、どうしたんだ?」
……と、声をかけてみるものの、まともに答えてくれる人はいない。
逃げ出した受験生達は、そのまま地下二階へ移動してしまった。
「なんだ?」
「どうしたんでしょうね……?」
「この奥が最深部だから、証を守る魔物に恐れをなしたんじゃない?」
普通に考えると、アリーシャの推測が正解に近いと思う。
ただ、あそこまで怯えていたのが気になる。
それと、強力な魔物の気配……
なにかイレギュラーが発生しているのかもしれないな。
「これは……」
ほどなくして俺達も最深部にたどり着いて……
それを見た。
巨大な角と槍のように鋭い牙。
丸太よりも太い四肢は、筋肉の鎧のような体をしっかりと支えている。
猛牛にも似た姿を持つその魔物の名前は……ベヒーモス。
上級に分類される魔物で、並の冒険者が百人集まっても倒せないと言われている。
「グルァアアアアアッ!!!」
俺達をその視界に収めると、ベヒーモスは凶悪な咆哮を発した。