「剣はどこで学んだんだ?」
「……」
「得意な魔法は? 俺は……」
「少し黙って」
「お、おう……」

 受験生同士、スキンシップを図ろうとしたのだけど、一蹴されてしまう。

 うーん、取り付く島もない。
 放っておくしかないかな?

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「うん?」
「諦めたらいけないと思います」

 こちらの心を読んだかのように、エリゼがそう言う。

「どうして……」
「お兄ちゃんの考えていることくらい、なんとなくですけどわかります。私は、お兄ちゃんの妹なんですから」
「……エリゼ……」
「大丈夫です。きっと、アリーシャちゃんと仲良くなれます。だから、諦めないでほしいです」
「……そうだな」

 苦笑しつつ、エリゼの頭を撫でる。

 ダメなら諦める。
 試験の間だけの関係だから、あえて仲良くなる必要もない。

 そんなことを考えていたけれど……
 エリゼの言葉で考えを改めた。

 一期一会という言葉もある。
 それに、アリーシャに興味もある。
 できる限り、仲良くできるようにやってみるか。

 ……とはいえ、なかなか仲良くなることができない。
 なにかきっかけがあればいいんだけど、今のところチャンスはゼロだ。

 どうしたものか?
 考えつつ、ダンジョンの攻略を進める。

「また出てきたわね」

 階層を進むに連れて、魔物との遭遇頻度が高くなってきた。
 だいたい、十分に一戦の割合だろうか?

 魔物の強さは大したことないけど、なかなか厄介だ。
 うまくやらないと休憩を挟むことができず、連戦を強いられてしまう。
 下手をしたらそのまま脱落……なんてこともあるだろう。

 よく考えられた試験だ。
 個々の力だけじゃなくて、パーティーの連携が試されている。

 俺達はそれほど問題はない。

「火炎槍<ファイアランス>!」

 俺の魔法が魔物を炭にした。
 その間に、アリーシャが横から襲ってきた魔物を剣で斬る。

 うん。

 仲はぎくしゃくしているが、戦闘の連携は問題ない。
 わりとうまくやれている方だ。

 ……ただ、これ以上の強敵が出てきたら少し危ないかな?

「終わりね」
「……」
「お兄ちゃん?」

 アリーシャは剣を鞘に戻すが、俺は周囲の警戒を続ける。
 そんな俺を見て、エリゼが小首を傾げた。

「なんか嫌な気配がするな」
「もしかして、まだ魔物が?」
「……見当たらないけど?」

 アリーシャは周囲を見てから、呆れた様子で言う。

「勘みたいなものだからな。確証があるわけじゃない」
「なによそれ」
「とにかく警戒を……っ!? 上だ!」
「え?」

 天井に毒々しい色のスライムが張り付いていた。
 こちらが攻撃するよりも先に、青い霧を吹き出してきた。

 毒か!?

「逃げ……」

 警告は遅く、俺達は青い霧に飲み込まれてしまう。



――――――――――



「……あれ?」

 身構えること少し。
 一向に体に異常が起きることはなくて、なんてことはない。
 毒だと思ったが、違ったのだろうか?

「うぅ……」
「エリゼ!?」

 エリゼが苦しそうにしているのが見えた。
 慌てて駆けより、抱き起こす。

「大丈夫か? エリゼ!」
「……お兄、ちゃん?」

 エリゼがそっと目を開いた。
 よかった、意識が戻ったみたいだ。

「痛いところはあるか? 気持ち悪いとか、そういうのは?」
「えっと……大丈夫だと思います」

 そう言いつつも、エリゼの顔色はすごく悪い。

「ただ……すごく嫌な夢を見ていました」
「嫌な夢?」
「はい。その……昔にあった、ちょっと嫌な夢です。なんで、こんな時に……?」

 エリゼの話に心当たりがあった。

 スライムが放った青い霧は、幻覚を見せる類のものだったかもしれない。
 対象のトラウマを引き起こすようなもので、そうして精神的にダメージを与える。
 そう考えれば納得だ。

 俺は……
 トラウマっていうほどトラウマがないからな。
 だから、大したことはなかったんだろう。

「そうだ。アリーシャは……」
「……やめて」

 ふと、今にも泣きそうな声が聞こえてきた。

 アリーシャだ。
 うつろな目をして、涙を流している。

「やめてやめてやめて……やめてぇえええええっ!!!」