無事、エリクサーを手に入れることができた。
すぐに家へ帰り、エリゼの治療を行う。
そして……
「すぅ……すぅ……すぅ……」
ベッドの上で、エリゼが穏やかな寝息を立てている。
顔色も良い。
エリゼを起こさないように、医者がそっと診察をして……
そして、大きく頷いた。
「もう大丈夫でしょう。さすが、エリクサー……オロゾ病は、完全に治りました」
「あぁ、エリゼ……!」
「よかった……」
父さんと母さんは、ベッドで寝るエリゼを愛しそうに見る。
それはアラムも同じで、とても優しい顔をしていた。
そんなアラムがこちらを見て、
「……あなたもそんな顔をするのね」
「え?」
俺のこと……だよな?
「俺、どんな顔をしています?」
「すごく安心して……あと、泣きそうな感じよ」
「俺が……?」
まったく自覚がない。
でも……
それだけエリゼのことを心配していたのだろうか?
「あなたは……」
「なんですか?」
「……なんでもないわ」
ふいっと、アラムは視線を逸らしてしまう。
なんだったんだ?
「まあ……」
なにはともあれ。
無事にエリゼを助けることができた。
本当に……よかった。
――――――――――
一週間後。
俺は、自室でこれからのことを考えていた。
俺の目的は、この時代に逃げた魔王と戦い、決着をつけること。
そうして、己の力を証明すること。
前世の若い頃の俺は力がなかった。
踏みにじられる側で、なにも手にすることができなかった。
だから力を求めて、強くなることに固執した。
そうしたら、世界にいてもいい、と証明されたような気になったから。
そのはずだったんだけど……
「……それでいいのか?」
力だけを追い求めて……
強さを証明することにこだわり……
その果てになにが残るのだろう?
なにも残らないのではないか?
というか、ただの自己満足では?
そんなことよりも、誰かのために役に立ちたいと思うようになっていた。
もちろん、俺は聖人君子じゃない。
世界平和を祈るなんて大層なことはできないし、誰も彼も助けるなんて無理な話。
でも……
「身近にいる大事な人くらいは……守りたい」
エリゼ。
父さんと母さん。
一応、アラムも。
俺の家族。
気がつけば、強くなるという目標よりも大事な存在になっていた。
失うなんてことは考えられない、考えたくない。
それに、これから先、さらに大事な人が増えていくかもしれない。
友達とか……前世では考えられなかったけど、恋人とか。
「俺は……ただ強くなるだけじゃなくて、そういう人達を守るために強くなりたい。うん、そうだ。強さの証明なんて、どうでもいい。本当に大事なのは、なんのために戦うか、っていうことなんだよな」
拳をぐっと握る。
うん。
心機一転。
今日から、改めてがんばっていこう。
魔王の脅威から、大事な人達を守るために。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
「ぐふっ!?」
部屋を出ると、どすんっ、となにかが突っ込んできた。
いいところにクリーンヒットして、肺の空気が漏れてしまう。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「え、エリゼか……」
視線を落とすと、きらきら笑顔のエリゼが。
なにか良いことでもあったのか、とてもうれしそうだ。
「どうしたんだ? なんか、良いことでもあったのか?」
「はいっ、お兄ちゃんに会えました♪」
もしかしてもしかしなくても、ウチの妹はかわいいのではないか?
天使ではないか?
エリゼの笑顔がまぶしいくらいで、なんだか、悶絶してしまいそうだ。
「いつも会っているだろう?」
「でも、うれしかったんです」
「だとしても、家の中を走り回ったらダメだ」
「はい……すみません」
しゅん、となるエリゼ。
きちんと反省できるところは良いところだ。
「エリクサーを飲んでから体の調子がすごくよくて、それで、なんだかうれしくなって……」
「つい走り回ってしまった、と?」
「はい……」
エリゼは、今まで体を激しく動かすことを禁止されていた。
まあ、禁止するまでもなく、激しく動くとすぐにバテてしまい、それどころじゃなかったのだけど……
でも、今は違う。
エリクサーの効果なのか、エリゼはすっかり健康体になっていた。
こうして走り回ることもできる。
そのことがうれしくて……
ついつい、ハメを外してしまったのだろう。
まあ、仕方ないか。
……俺、妹に甘いのかな?
「その様子だと、エリクサーは予想以上に効いたみたいだな。どうだ、体の調子は?」
「はい、とても元気です。なんだか羽が生えたみたいで、すごく体が軽いんです」
「そっか、よかった」
「えへへ」
気がついたらエリゼの頭を撫でていた。
エリゼは嫌がることなく、むしろうれしそうにしていた。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
「ぐふっ!?」
翌朝。
目が覚めて部屋を出ると、どすんっ、となにかが突っ込んできた。
いいところにクリーンヒットして、肺の空気が漏れてしまう。
って、ものすごいデジャブ……
「エリゼ、どうしたんだ……?」
「あっ、すいません……お兄ちゃんに会えてうれしかったので、ついつい、抱きついてしまいました」
かわいいから許す。
「お兄ちゃん、今日はどうするんですか? なにをするんですか?」
「いつもの訓練だけど……そうだな。よかったら、エリゼも一緒にしてみるか?」
「いいんですか?」
「リハビリがてら、体を動かした方がいいからな。どうだ?」
「一緒したいです!」
「よし。なら、準備をして外に集合だ」
「わかりました」
動きやすい服に着替えて、外に出た。
ほどなくしてエリゼも出てきた。
まずは準備運動をして、体をほぐす。
それから、家の周りを走る。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
適度なペースを保ち、足を進める。
子供ということを考えると、かなりの速度が出ているのだけど……
エリゼはしっかりとついてきていた。
苦しそうにするわけでもなく、むしろ、楽しそうに走っている。
体を動かせることが、うれしくてうれしくて仕方ないのだろう。
それはいいんだけど……
「さあ、お兄ちゃん。次はどうしましょう!?」
ランニングを終えると、エリゼが意気揚々と尋ねてきた。
もっと体を動かしたいらしく、うずうずとした様子だ。
うーん……まさか、ここまで元気になるなんて。
病弱なところしか知らないから、こんなエリゼは新鮮だ。
エリクサーはエリゼの病を治すだけではなくて、身体能力も強化してしまったらしい。
まあ、元気な方が良いに決まっているから、問題はない。
「ちょっと休憩しよう。動くのが楽しいのはわかるけど、休憩も大事だからな」
「はい、わかりました」
地面に座ると、エリゼが隣に腰を下ろした。
そのまま、こちらの肩に頭を乗せてくる。
「えへへ」
丈夫になっただけではなくて、以前よりも甘えん坊になったような気がする。
兄離れできるのか心配だ。
……しなくてもいいか。
こんなにかわいいエリゼがどこかに行ってしまうなんて、想像するだけでもイヤだ。
ん?
俺も妹離れできそうにないのか、これ?
「あ、お兄ちゃん。りんごを食べますか? こういう時のために、持ってきておいたんです」
「ありがとう、もらうよ」
「はい。ちょっと待っててくださいね、今、切り分けて……あっ」
ぐしゃ、っとエリゼがりんごを素手で潰してしまう。
「あれ?」
「……」
「りんご、こんなに柔らかかったでしたっけ? うーん」
エリクサーの効能なのか。
元気になって、頑丈になるだけではなくて……
さらに、身体能力も大幅に上昇していた。
なんていうことでしょう。
……ウチの妹が元気になりすぎた。
すぐに家へ帰り、エリゼの治療を行う。
そして……
「すぅ……すぅ……すぅ……」
ベッドの上で、エリゼが穏やかな寝息を立てている。
顔色も良い。
エリゼを起こさないように、医者がそっと診察をして……
そして、大きく頷いた。
「もう大丈夫でしょう。さすが、エリクサー……オロゾ病は、完全に治りました」
「あぁ、エリゼ……!」
「よかった……」
父さんと母さんは、ベッドで寝るエリゼを愛しそうに見る。
それはアラムも同じで、とても優しい顔をしていた。
そんなアラムがこちらを見て、
「……あなたもそんな顔をするのね」
「え?」
俺のこと……だよな?
「俺、どんな顔をしています?」
「すごく安心して……あと、泣きそうな感じよ」
「俺が……?」
まったく自覚がない。
でも……
それだけエリゼのことを心配していたのだろうか?
「あなたは……」
「なんですか?」
「……なんでもないわ」
ふいっと、アラムは視線を逸らしてしまう。
なんだったんだ?
「まあ……」
なにはともあれ。
無事にエリゼを助けることができた。
本当に……よかった。
――――――――――
一週間後。
俺は、自室でこれからのことを考えていた。
俺の目的は、この時代に逃げた魔王と戦い、決着をつけること。
そうして、己の力を証明すること。
前世の若い頃の俺は力がなかった。
踏みにじられる側で、なにも手にすることができなかった。
だから力を求めて、強くなることに固執した。
そうしたら、世界にいてもいい、と証明されたような気になったから。
そのはずだったんだけど……
「……それでいいのか?」
力だけを追い求めて……
強さを証明することにこだわり……
その果てになにが残るのだろう?
なにも残らないのではないか?
というか、ただの自己満足では?
そんなことよりも、誰かのために役に立ちたいと思うようになっていた。
もちろん、俺は聖人君子じゃない。
世界平和を祈るなんて大層なことはできないし、誰も彼も助けるなんて無理な話。
でも……
「身近にいる大事な人くらいは……守りたい」
エリゼ。
父さんと母さん。
一応、アラムも。
俺の家族。
気がつけば、強くなるという目標よりも大事な存在になっていた。
失うなんてことは考えられない、考えたくない。
それに、これから先、さらに大事な人が増えていくかもしれない。
友達とか……前世では考えられなかったけど、恋人とか。
「俺は……ただ強くなるだけじゃなくて、そういう人達を守るために強くなりたい。うん、そうだ。強さの証明なんて、どうでもいい。本当に大事なのは、なんのために戦うか、っていうことなんだよな」
拳をぐっと握る。
うん。
心機一転。
今日から、改めてがんばっていこう。
魔王の脅威から、大事な人達を守るために。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
「ぐふっ!?」
部屋を出ると、どすんっ、となにかが突っ込んできた。
いいところにクリーンヒットして、肺の空気が漏れてしまう。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「え、エリゼか……」
視線を落とすと、きらきら笑顔のエリゼが。
なにか良いことでもあったのか、とてもうれしそうだ。
「どうしたんだ? なんか、良いことでもあったのか?」
「はいっ、お兄ちゃんに会えました♪」
もしかしてもしかしなくても、ウチの妹はかわいいのではないか?
天使ではないか?
エリゼの笑顔がまぶしいくらいで、なんだか、悶絶してしまいそうだ。
「いつも会っているだろう?」
「でも、うれしかったんです」
「だとしても、家の中を走り回ったらダメだ」
「はい……すみません」
しゅん、となるエリゼ。
きちんと反省できるところは良いところだ。
「エリクサーを飲んでから体の調子がすごくよくて、それで、なんだかうれしくなって……」
「つい走り回ってしまった、と?」
「はい……」
エリゼは、今まで体を激しく動かすことを禁止されていた。
まあ、禁止するまでもなく、激しく動くとすぐにバテてしまい、それどころじゃなかったのだけど……
でも、今は違う。
エリクサーの効果なのか、エリゼはすっかり健康体になっていた。
こうして走り回ることもできる。
そのことがうれしくて……
ついつい、ハメを外してしまったのだろう。
まあ、仕方ないか。
……俺、妹に甘いのかな?
「その様子だと、エリクサーは予想以上に効いたみたいだな。どうだ、体の調子は?」
「はい、とても元気です。なんだか羽が生えたみたいで、すごく体が軽いんです」
「そっか、よかった」
「えへへ」
気がついたらエリゼの頭を撫でていた。
エリゼは嫌がることなく、むしろうれしそうにしていた。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
「ぐふっ!?」
翌朝。
目が覚めて部屋を出ると、どすんっ、となにかが突っ込んできた。
いいところにクリーンヒットして、肺の空気が漏れてしまう。
って、ものすごいデジャブ……
「エリゼ、どうしたんだ……?」
「あっ、すいません……お兄ちゃんに会えてうれしかったので、ついつい、抱きついてしまいました」
かわいいから許す。
「お兄ちゃん、今日はどうするんですか? なにをするんですか?」
「いつもの訓練だけど……そうだな。よかったら、エリゼも一緒にしてみるか?」
「いいんですか?」
「リハビリがてら、体を動かした方がいいからな。どうだ?」
「一緒したいです!」
「よし。なら、準備をして外に集合だ」
「わかりました」
動きやすい服に着替えて、外に出た。
ほどなくしてエリゼも出てきた。
まずは準備運動をして、体をほぐす。
それから、家の周りを走る。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
適度なペースを保ち、足を進める。
子供ということを考えると、かなりの速度が出ているのだけど……
エリゼはしっかりとついてきていた。
苦しそうにするわけでもなく、むしろ、楽しそうに走っている。
体を動かせることが、うれしくてうれしくて仕方ないのだろう。
それはいいんだけど……
「さあ、お兄ちゃん。次はどうしましょう!?」
ランニングを終えると、エリゼが意気揚々と尋ねてきた。
もっと体を動かしたいらしく、うずうずとした様子だ。
うーん……まさか、ここまで元気になるなんて。
病弱なところしか知らないから、こんなエリゼは新鮮だ。
エリクサーはエリゼの病を治すだけではなくて、身体能力も強化してしまったらしい。
まあ、元気な方が良いに決まっているから、問題はない。
「ちょっと休憩しよう。動くのが楽しいのはわかるけど、休憩も大事だからな」
「はい、わかりました」
地面に座ると、エリゼが隣に腰を下ろした。
そのまま、こちらの肩に頭を乗せてくる。
「えへへ」
丈夫になっただけではなくて、以前よりも甘えん坊になったような気がする。
兄離れできるのか心配だ。
……しなくてもいいか。
こんなにかわいいエリゼがどこかに行ってしまうなんて、想像するだけでもイヤだ。
ん?
俺も妹離れできそうにないのか、これ?
「あ、お兄ちゃん。りんごを食べますか? こういう時のために、持ってきておいたんです」
「ありがとう、もらうよ」
「はい。ちょっと待っててくださいね、今、切り分けて……あっ」
ぐしゃ、っとエリゼがりんごを素手で潰してしまう。
「あれ?」
「……」
「りんご、こんなに柔らかかったでしたっけ? うーん」
エリクサーの効能なのか。
元気になって、頑丈になるだけではなくて……
さらに、身体能力も大幅に上昇していた。
なんていうことでしょう。
……ウチの妹が元気になりすぎた。