ホムンクルスを捕まえる作戦はエリゼが考えた。
 なら、探し出す策は俺が考えよう。

 どうすればホムンクルスを見つけることができるか?
 そして、どのように誘導すれば、最適な状況を作り出すことができるか?

 日々、夜遅くまで策を練り……
 とあることを思いついた。

 そして翌日。

 俺は朝早くに学院に来ていた。
 まだ寝ている人がいてもおかしくない時間なので、生徒はおろか先生の姿も見当たらない。

 一応、校舎に入ることはできるので中へ。
 そのままガナスの……俺のクラスに移動した。

「それでお兄ちゃん、どうやってホムンクルスを探すんですか?」
「罠でも仕掛けるのかしら?」

 一緒についてきたエリゼとシャルロッテがそんなことを尋ねてきた。

 エリゼは、なにか手伝えることがあるかもしれない……と。
 シャルロッテは、なんだか楽しそうだから……と。

 それぞれ、そんな理由で着いてきたのだ。
 シャルロッテは、もう少しエリゼを見習った方がいいと思う。
 楽しそうだから、ってなんだよ。
 おもいきり自己本位じゃいか。

 まあ、そういう、何者にも囚われない自由奔放で、我が道を進むのは彼女らしいとも言えるが。

「罠、っていうわけじゃない。普通のトラップだと、捕まえても自壊されるかもしれないからな。それに、そんなものを学院中に設置したら、他の人が引っかかるかもしれない」

 他、色々と問題がある。

「ならどうするのかしら?」
「簡単だ、魔法で探せばいい」

 俺は意識を集中して魔法を唱える。

「サーチ<探索>」

 魔力波をぶつけて周囲の様子を探る魔法を使用した。

 普通は有効射程距離は数十メートルだ。
 しかし、俺なら学院を覆えるほどの距離まで探ることができる。

「そんな魔法を使ってどうするの?」

 シャルロッテがきょとんとした。
 その疑問は当然だ。

 この魔法は、周囲の地形などを把握するために使うもの。
 人探しを目的としたものではないため、生命反応を探知することはできない。

 ただ……

「簡単なことさ。ホムンクルスには家がない。いきなりなにもないところから現れるわけじゃないから、どこかを根城にして学院に潜んでいるんだろうな。あるいは、学院のどこかにホムンクルスを作る場所があるのか」
「あ、なるほど」

 エリゼは俺の考えていることを理解したらしく、納得顔で頷いた。
 しかしシャルロッテは未だわからないらしく、きょとんとしたままだ。

「つまり……どういうことかしら? わたくしにもわかりやすいように説明してくださいません?」
「少しは理解する努力をしないか?」
「面倒ですわ!」

 胸を張って言うことではない。

「つまり……ホムンクルスはこの学院のどこかに潜んでいる可能性が高い。普段は人がたくさんいて、その潜伏場所を見つけることは難しい。しかし、人がいない朝なら……」

 人がたくさんいる日中に探知をしても、目的のものを見つけることは難しい。
 生徒や先生の持つ魔力が壁となり、探知が乱反射してしまうからだ。

 ただ、人のいない朝なら話は別。
 より精密に。
 そして、よりわかりやすい探知が可能だ。

「なるほど……時間帯を変えて調べれば怪しいところも見つかるかもしれない、というわけなのですね?」
「正解」

 納得してもらったところで魔法の解析結果を待つ。
 ほどなくして解析が終了して情報がもたらされる。

 その結果は……

「西に200メートル……くらいか? そこに妙な反応があるな。エリゼ、ここから西に200メートルというとなにがある?」
「えっと……ちょっと学院の敷地外に近いところになりますね。地図で確認したら、今は使われていない倉庫があるみたいです」
「使われていないはずの倉庫に妙な反応……か」
「怪しいですわっ! わたくしの勘がここにホムンクルスに繋がる手がかりがあると言っていいますわ!」

 ……台詞を横取りされた。

「お兄ちゃん、行きましょう!」
「ああ」

 気を取り直して、俺達は教室を出て、そのまま校舎の外に出た。

 グラウンドを横断して学院の西へ。
 昔使われていたと思われる物資搬送用の大きな扉が設置されていた。
 手入れはされているらしく、錆びついているということはない。

 ただ、しっかりと鍵がかけられて施錠されていた。

「お兄ちゃん、どうしますか?」
「そうだな、ここは……」
「火炎槍<ファイアランス>!」

 いきなりシャルロッテが魔法をぶっぱなした。
 慌てて避ける。

 炎の槍はそのまま扉の鍵を破壊した。

「ふふんっ、わたくしにかかればこんなものですわ!」
「こんなものよ……じゃないだろ!」
「あいたっ」

 デコピンでおしおき。

「あにするのよ!?」
「俺の台詞だ! 危うく巻き込まれそうになったんだぞ」
「レンなら大丈夫でしょ。あんな魔法でどうにかなるほど弱くないじゃない」

 シャルロッテなりに俺を評価してくれているのだろうが……
 だからといって、あんな突発的な破壊活動をしないでほしい。
 心臓に悪い。

「というか、大きな音を立ててどうする。向こうに気づかれるかもしれないだろ」
「あっ……」
「なにも考えてなかったんですね」

 エリゼがため息をついて、俺も続けてため息をこぼした。

「さ、さあ行くわよ! ホムンクルスを捕まえましょうっ」

 シャルロッテはごまかすように、そんなことを言う。
 勢いでごまかせていると思っているかもしれないが、しっかりと覚えたからな。
 後でまたおしおきだ。
 今後、シャルロッテの特訓メニューだけ倍増してやろう。

 とにかくも、扉を開けて校舎の敷地外へ出た。
 少し歩くと倉庫らしき建物が見えた。
 一階建てで、簡易な作りでそれほど大きくない。

 入り口は一つ。
 窓はない。

「お兄ちゃん、あれ……!」

 倉庫の扉が開いた。
 そこから出てきたのは……
 エリゼと瓜二つの女の子だった。