「なあ、ドッペルゲンガーなんてホントにいるのか? ただの伝説じゃないのか?」

 ほら、よくあるだろう?
 夜遅くまで遊んでいると、怪しい男に子供が連れ去られるとか。
 今は使われていないトンネルは、異界に繋がっているとか。

 そういうただの伝説じゃないのか?

「もちろん、ドッペルゲンガーは根も葉もない話よ」

 アラム姉さんがきちんと説明してくれる。

「ただ、人為的にドッペルゲンガーを作り出すことは可能なのよ。レンは知らないかしら? そういう魔法があるのことを」
「うん? えっと……あぁ、そういえば、そんな魔法があったような気がする」

 あれこれと勉強をしている時に、なにかの魔法書で見かけたような覚えがある。
 ただ、他人に変身するだけ……極端に質量の違うものには変身できないという制約があり、便利なのか不便なのかわからない魔法なので、習得する気にはならなかった。
 そのまま放置して、いつしか忘れた……というわけだ。

 前世ではない魔法だったから、興味を持ったけど……
 使い道がないため、途中で興味を失った。

 第一、他人に変身するだけの能力なんて、なにに役立つというのか。
 やりようによっては悪用できるかもしれないが、魔法の犯罪利用は重罪だ。
 バレた時のリスクが高すぎる。

「あと、ちょっと違うけど人間に擬態するという魔物もいますね」

 エリゼがそう補足してくれた。

「人間に化けて相手を油断させたところで、ぱくり……と」
「えげつないな」
「まあ、その魔物は姿を真似るだけで、しゃべることはできないし、理知的な行動もできないと聞いていますから、今回の件には関係ないと思いますが……」
「ってことは……誰かが魔法でエリゼに変身して、エリゼの評判を落とすようなことをして、なおかつ、クラス間の対立を煽っている、ってことか?」
「つけくわえるなら、エリゼだけじゃないかもしれないわ。あたしたちが把握していないだけで、他にもなりすましている人がいるのかも。そうでもないと、これだけ対立が深刻化するなんて思えないもの」

 アリーシャの言うことはもっともだ。

 しかし、このまま放っておくわけにはいかないな。
 クラス間の対立が激化して、巻き込まれるのは勘弁してほしいし……

 なによりも、犯人がエリゼを利用しているというのが許せない。
 俺の大事な妹を巻き込みやがって……
 くくく、その罪、思い知らせてやるからな。

「なんだか、お兄ちゃんがかっこいい顔をしています。ときめいちゃいます」
「いい、エリゼ。あれはアホなことを考えている顔よ」

 アリーシャはいつも辛辣でした。

「とにかく……俺は、エリゼの偽物を探し出そうと思う。ついでに、この事件の収束も。みんなも手を貸してくれるとうれしいんだけど……」
「はい、私はお兄ちゃんのためにがんばるだけですよ!」
「逆に、仲間外れにされる方が嫌よ」
「ほうっておくと大変なことになりそうだから、もちろん、やるわ」
「このわたくしに任せておけば、すぐに解決してあげるわ!」
「ど、どこまでお力になれるかわかりませんが、が、ががが、がんばりますっ」

 みんな気合十分だ。
 とても頼りになる。
 この調子なら……って、あれ?

「そういや、メルがいないな?」

 あいつ、どこ行ったんだ?
 とっくに授業は終わっているのだけど……

 ……まあいいか。
 そのうちやってくるだろう。
 あいつ、猫みたいに気まぐれなところがあるからな。

「お兄ちゃん、どうするんですか?」
「まずは情報収集だな」