嫌な予感は当たる。
あれからしばらくの時が流れたのだけど、クラス間の対立は収まることなく、むしろ激化していった。
今までは裏で陰口を叩く、物を隠すなどの軽いいやらがらせ程度だった。
でもここ最近は、真正面からぶつかることが多い。
本人がいるところでの嫌味。
それを受けての口喧嘩。
ひどい時は、私闘に発展する。
そんな状況が当たり前。
クラス間の対立は日常茶飯事になってしまった。
「ふぅ」
放課後。
部室に行くと、すでにエリゼとアラム姉さんとアリーシャの姿があった。
三人はとても疲れた様子で、ため息なんてこぼしている。
「どうしたんだ?」
「あ、お兄ちゃん……」
「レンなら、大体の想像がついているんじゃない?」
「クラス間の対立か……」
「正解。廊下を歩く度に、他のクラスの子に絡まれるのよね。自分達を見下しているとかバカにしているとか、口を開けばそういうことばかり」
「私達、そんなことは絶対にしていないのに……誰も話を聞いてくれなくて……」
「きちんと説明すれば、わかってくれる子もいるの。でも、そうでない子もいて……ふぅ」
「……そっか」
色々なところに問題が波及しているようだ。
魔法学院では、成績によってクラスが分けられている。
なので、以前から多少の対立は起きていたのだけど……
ただ、ここまで酷いのは見たことも聞いたこともない。
俺は、唯一の男だからなのか。
対立構造に組み込まれていないのか。
今のところ、誰かに絡まれたことはない。
ただ、一方で女子は対立を深めていく。
隠すようなことはせず、堂々と動くようになっていた。
まるで、正義は自分にあり、というような感じだ。
どうにもこうにも、嫌な流れだ。
一過性のものだと思い、ひとまず様子を見てきたのだけど……
それは間違いだったかな?
以前、エリゼが陰口を叩いていたという噂も聞いているし……
うーん、動くべきだろうか?
「ぴゃあああああっ」
突然、フィアが部室に飛び込んできた。
「ど、どうしたんだ? そんなに慌てて?」
「ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー……」
「あ、すまん。まずは息を整えてからでいいぞ」
「ひゅばー……」
フィアは死にそうな顔をしつつ、なんとか息を整えて……
それから、必死な顔で言う。
「た、大変です! シャルロッテさまがシルカードの生徒に絡まれて!」
――――――――――
「ふふんっ、このあたしがどうにかなるわけないじゃない!」
……30分後。
シャルロッテはいつものように偉そうな感じで、当たり前のような顔をして部室にいた。
ついさきほど、騒動に巻き込まれたとは思えない態度だ。
まあ、シャルロッテはいつもこんな感じか。
きっと、天変地異が起きても、いつもどおりに偉そうに胸を張っているに違いない。
「はぁあああ……よ、よかったです。シャルロッテさまに何もなくて……」
「なによ。フィアったら、このわたくしがシルカードごときに負けるとか、そんな不遜なことを考えていたのかしら?」
それ、不遜なのか?
「このわたくしを誰だと思っているの? 天下無敵! 常勝無敗! 最強頂点のシャルロッテ・ブリューナクよ! おーほっほっほ!」
お前、俺に負けてるだろ。
あと、その笑い方、悪の組織の女幹部みたいだからな。
「レンは……わたくしのことを心配してくれたのかしら?」
「特に心配してなかったけどな」
シャルロッテの魔法技術はマーセナル以上のものがあると思うし……
最近は、ずっと特訓をしているからな。
大幅に基礎魔力が上昇しているはずで……
そんなシャルロッテに敵う相手なんて、この学院では数えるほどしかいないのではないか?
いや、いないのではないか?
そんな認識なので心配はしていない。
心配するとしたら、相手の方だ。
シャルロッテがやりすぎて、治癒院送りにしてしまわないか……そこは心配だった。
「むう……なによ、心配してくれたっていいじゃない」
なぜかシャルロッテが膨れていた。
俺、なにもしてないよな……?
「ところで……エリゼ」
「はい?」
ふと、シャルロッテがエリゼの方を見た。
なにやら訝しげな顔をしているが、どうしたんだろう?
「あなた、少し前に外に出ていたかしら?」
「いえ? 私は授業が終わった後、すぐに部室に移動して……そのままですよ? 外には出ていませんけど」
「そう……?」
シャルロッテは、おかしいわね? というような顔をして、小首を傾げた。
なにが疑問なのだろう?
「どうかしたのか?」
「んー……放課後に入ってすぐ……そこそこ前のことだから、今はどうなっているかわからないのだけど……わたくし、外にエリゼがいるのを見かけたのですわ」
「えっ?」
「喉が乾いてたから、わたくしはレンと一緒に部室に行かないで、フィアと一緒に購買に向かっていたの。その途中、窓からエリゼが見えたのよ」
「えっと……それ、見間違いじゃないんですか? 私、放課後は外に出てませんけど……」
「どうなのかしら? 見たのはわたくしだけで、しかも後ろ姿だったから断定はできないんだけど……でも、あれはエリゼのような気がしたのよね」
なにやら話が妙な方向に転がり始めたな?
それにしても……シャルロッテの話は気になる。
いないはずのところでエリゼが目撃された。
つい最近、似たような話を聞いたことがある。
この前、エリゼに絡んできたシルカードのクラスの女の子の話だ。
彼女たちは、エリゼが陰口を叩いていると言っていたが……
これも本人は知らないことだ。
偶然?
……いや。
偶然の一言で片付けるのは乱暴な気がするし、なによりも危うい。
そんな判断をしてしまうと、とんでもないミスをしてしまいそうな……
「エリゼはここにいるけれど、でも、外にいるところを見かけた……これ、ドッペルゲンガーっていうやつなのかしら?」
アリーシャの言葉は、なかなかに確信を突いているような気がした。
あれからしばらくの時が流れたのだけど、クラス間の対立は収まることなく、むしろ激化していった。
今までは裏で陰口を叩く、物を隠すなどの軽いいやらがらせ程度だった。
でもここ最近は、真正面からぶつかることが多い。
本人がいるところでの嫌味。
それを受けての口喧嘩。
ひどい時は、私闘に発展する。
そんな状況が当たり前。
クラス間の対立は日常茶飯事になってしまった。
「ふぅ」
放課後。
部室に行くと、すでにエリゼとアラム姉さんとアリーシャの姿があった。
三人はとても疲れた様子で、ため息なんてこぼしている。
「どうしたんだ?」
「あ、お兄ちゃん……」
「レンなら、大体の想像がついているんじゃない?」
「クラス間の対立か……」
「正解。廊下を歩く度に、他のクラスの子に絡まれるのよね。自分達を見下しているとかバカにしているとか、口を開けばそういうことばかり」
「私達、そんなことは絶対にしていないのに……誰も話を聞いてくれなくて……」
「きちんと説明すれば、わかってくれる子もいるの。でも、そうでない子もいて……ふぅ」
「……そっか」
色々なところに問題が波及しているようだ。
魔法学院では、成績によってクラスが分けられている。
なので、以前から多少の対立は起きていたのだけど……
ただ、ここまで酷いのは見たことも聞いたこともない。
俺は、唯一の男だからなのか。
対立構造に組み込まれていないのか。
今のところ、誰かに絡まれたことはない。
ただ、一方で女子は対立を深めていく。
隠すようなことはせず、堂々と動くようになっていた。
まるで、正義は自分にあり、というような感じだ。
どうにもこうにも、嫌な流れだ。
一過性のものだと思い、ひとまず様子を見てきたのだけど……
それは間違いだったかな?
以前、エリゼが陰口を叩いていたという噂も聞いているし……
うーん、動くべきだろうか?
「ぴゃあああああっ」
突然、フィアが部室に飛び込んできた。
「ど、どうしたんだ? そんなに慌てて?」
「ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー……」
「あ、すまん。まずは息を整えてからでいいぞ」
「ひゅばー……」
フィアは死にそうな顔をしつつ、なんとか息を整えて……
それから、必死な顔で言う。
「た、大変です! シャルロッテさまがシルカードの生徒に絡まれて!」
――――――――――
「ふふんっ、このあたしがどうにかなるわけないじゃない!」
……30分後。
シャルロッテはいつものように偉そうな感じで、当たり前のような顔をして部室にいた。
ついさきほど、騒動に巻き込まれたとは思えない態度だ。
まあ、シャルロッテはいつもこんな感じか。
きっと、天変地異が起きても、いつもどおりに偉そうに胸を張っているに違いない。
「はぁあああ……よ、よかったです。シャルロッテさまに何もなくて……」
「なによ。フィアったら、このわたくしがシルカードごときに負けるとか、そんな不遜なことを考えていたのかしら?」
それ、不遜なのか?
「このわたくしを誰だと思っているの? 天下無敵! 常勝無敗! 最強頂点のシャルロッテ・ブリューナクよ! おーほっほっほ!」
お前、俺に負けてるだろ。
あと、その笑い方、悪の組織の女幹部みたいだからな。
「レンは……わたくしのことを心配してくれたのかしら?」
「特に心配してなかったけどな」
シャルロッテの魔法技術はマーセナル以上のものがあると思うし……
最近は、ずっと特訓をしているからな。
大幅に基礎魔力が上昇しているはずで……
そんなシャルロッテに敵う相手なんて、この学院では数えるほどしかいないのではないか?
いや、いないのではないか?
そんな認識なので心配はしていない。
心配するとしたら、相手の方だ。
シャルロッテがやりすぎて、治癒院送りにしてしまわないか……そこは心配だった。
「むう……なによ、心配してくれたっていいじゃない」
なぜかシャルロッテが膨れていた。
俺、なにもしてないよな……?
「ところで……エリゼ」
「はい?」
ふと、シャルロッテがエリゼの方を見た。
なにやら訝しげな顔をしているが、どうしたんだろう?
「あなた、少し前に外に出ていたかしら?」
「いえ? 私は授業が終わった後、すぐに部室に移動して……そのままですよ? 外には出ていませんけど」
「そう……?」
シャルロッテは、おかしいわね? というような顔をして、小首を傾げた。
なにが疑問なのだろう?
「どうかしたのか?」
「んー……放課後に入ってすぐ……そこそこ前のことだから、今はどうなっているかわからないのだけど……わたくし、外にエリゼがいるのを見かけたのですわ」
「えっ?」
「喉が乾いてたから、わたくしはレンと一緒に部室に行かないで、フィアと一緒に購買に向かっていたの。その途中、窓からエリゼが見えたのよ」
「えっと……それ、見間違いじゃないんですか? 私、放課後は外に出てませんけど……」
「どうなのかしら? 見たのはわたくしだけで、しかも後ろ姿だったから断定はできないんだけど……でも、あれはエリゼのような気がしたのよね」
なにやら話が妙な方向に転がり始めたな?
それにしても……シャルロッテの話は気になる。
いないはずのところでエリゼが目撃された。
つい最近、似たような話を聞いたことがある。
この前、エリゼに絡んできたシルカードのクラスの女の子の話だ。
彼女たちは、エリゼが陰口を叩いていると言っていたが……
これも本人は知らないことだ。
偶然?
……いや。
偶然の一言で片付けるのは乱暴な気がするし、なによりも危うい。
そんな判断をしてしまうと、とんでもないミスをしてしまいそうな……
「エリゼはここにいるけれど、でも、外にいるところを見かけた……これ、ドッペルゲンガーっていうやつなのかしら?」
アリーシャの言葉は、なかなかに確信を突いているような気がした。


