後日、フィアとシャルロッテのお願いも聞いて……
 ひとまず、リフレッシュタイムは終了した。

 再び鍛錬を重ねる日々だ。
 呪いをかけて、魔力の向上を計る。

 何事もなく日常生活を送ることができて、さらに、普通に魔法が使えるようになれば、魔力が大幅に上昇するだろう。
 それで、特訓の第一段階が終了だ。
 みんなは才能があるから、あと1~2週間くらいで第一段階が完了するかもしれない。

 そんな時……
 別の方面で問題が起きた。

「教室の不法占拠?」

 放課後。
 いつものように空き教室に集まると、アリーシャがそんなことを言い出した。

「一部の学生が空き教室を勝手に使っている、って噂になっているわ」
「そんないけない学生さんがいるんですか?」
「あたしたちのことよ」
「ふぇ?」

 エリゼが天然を炸裂させて、アリーシャがツッコミを入れた。

「どこでそんな噂を?」
「ここに来る途中にある教室の生徒と……あと、一部の教師の耳にも届いているみたい」
「うーん、それはまずいね。ボク達のやっていること、なるべく他の人に知られたくないんだよね」

 魔法使いとして、相当のレベルアップを計る。
 そんなことが可能だと知られたら、多くの生徒が詰めかけてきそうだし……
 学院も放っておかないだろう。
 騒動がさらに大きくなると、国も動くかもしれない。

 ただ、俺は前世の知識、技術を不用意に広めるつもりはない。
 みんなに対しては、一緒に魔王と戦う仲間として教えているが……
 それはあくまでも例外であって、世間に浸透させるつもりはない。

 というのも、急激な技術の発展はどこかで歪みを生むものだ。

 例えば……
 この国の魔法使い達に、俺の知る知識、技術を与えたとする。
 ただ知識が深くなるだけではなくて、当然、軍備力も強化されるだろう。
 愚かな王だとしたら、欲にかられて他国への侵略戦争を始めるかもしれない。

 そんな感じで、急激な発展や強い力を与えることは、どこかで歪みを生む可能性がある。

 だからこそ俺は、技術を秘匿している。
 魔王に関する知識も隠している。

 ローラ先生など、一部、開示したものの……
 それは、一人ではどうしようもならないと判断したからだ。

 それに、ローラ先生は賢い人だ。
 うまくやってくれるだろう。

「あ、あの……このままだと、わたし達、どうなるんでしょうか?」

 フィアが不安そうに言う。
 少し考えてから、アラム姉さんが口を開く。

「そうね……それほど大きな問題にはならないと思うわ。せいせいが、口頭での注意、というところかしら? ただ、この空き教室は使えなくなるでしょうね」
「むぅ、それは困りますわね。ここでみなさんで集まるの、わたくし的にはそれなりに気に入っていたのですが」

 シャルロッテがそんな風に考えていたなんて、ちょっと意外だった。
 なんだかんだで、仲間意識が生まれているのかもしれない。
 誤解されやすいところはあるが、根は良いヤツだからな。

「うーん、どうしたらいいのかな?」

 突如降って湧いた問題に、メルも頭を悩ませていた。
 同じく、俺も悩ませていた。

 魔法に関することなら、それなりに力になれる自信はあるが……
 こういうことは別問題だからなあ。

「えっと……別の場所を探してみる、というのはどうでしょうか?」

 エリゼがそう提案した。
 その案に、アリーシャが難しい顔をする。

「他にいいところなんてあるかしら?」
「ぱっとは思いつかないよな。
「それ。特に考えることなく、この教室を使っていたけれど……今になって考えてみると、かなり良い場所なのよね、ここ」

 人気がないし、来客もない。
 広さはそこそこ。
 学院内なので頑丈だし、話が外に漏れることもない。
 簡単な訓練ならここですることもできる。

 秘密の作業をするにはうってつけの場所なのだ。

「いっそのこと、噂とか気にせず使っちゃえばいいんじゃないかしら? 誰にわたくしの行動を止めることはできませんわ!」
「あのな……そんなことをして、噂が大きくなってみろ。いずれ先生の間でも問題視されて、ここの出入りが禁止されるぞ」
「こっそりと使い続ければよくなくて?」
「よくない」

 どうして、シャルロッテは悪い子の発想なのかなあ。
 貴族のお嬢様じゃないのかよ。
 ひねくれものの不良生徒みたいだぞ。

「……いっそのこと、部活を設立するか」

 ふと、そんなことを閃いた。

「部活……ですか? お兄ちゃん、それはどういう?」
「そのまんまの意味だよ。部活を設立して、ここを部室にしてしまうんだ。そうすれば不法占拠なんて言われないし、正当性を訴えることができるだろ? 先生にも問題視されることはないはずだ」
「な、なるほど……はい。わたしは良いアイディアだと思います!」

 最初にフィアが賛成をして……
 次にエリゼ、アラム姉さん、アリーシャ、シャルロッテというように、次々とみんなが賛成してくれた。

「よし、なら決まりだな」
「でもでも、部活といってもどんな部活を作るんですか?」

 そこが悩みどころだ。
 まさか、魔王と戦うための部活、なんてものにはできない。
 そんな名前で申請しても却下をくらうのがオチだ。

「部活は今思いついたことだから、詳細は考えてないんだよな。なにか良い案はないか?」
「うーん」

 みんな、腕を組んで考える。

「そうね……剣術部とかどうかしら?」
「アリーシャは剣が好きだからな。でも、そうなると外の活動がメインにならないか?」
「そう言われると、そうね……」

 剣術部という名前がついているのに部屋にこもっていたら、それはそれで不審に思われてしまいそうだ。

「お菓子部」
「それ、メルが食べたいだけじゃないのか?」
「貴族の作法を学ぶ貴族部」
「変な勘違いをされそうだからイヤだ」
「お兄ちゃんとらぶら部」
「意味がわかないけど、ちょっとうまいこと言うな」

 ダメだ。
 一向に話が決まらない。

 そんな時、アラム姉さんが挙手した。

「魔法研究会、っていうのはどうかしら?」
「魔法研究会……」
「ありきたりだけど、でも、そういう名前なら本来の趣旨と外れていないでしょう? 学院の趣旨にも合っているから、通りやすいと思うわ」
「確かに」

 ……うん、いいんじゃないか?

 アラム姉さんの言うことはもっともで、これ以上ないくらいの名案に思えた。
 ひねくれたものを考えるよりは、シンプルなものの方がいいだろう。

「みんなはどう思う?」

 特に反対意見はない様子で、笑顔が返ってきた。

「よしっ、それじゃあ、魔法研究会ってことでいこうか!」