今後、俺達がやらないといけないことは二つある。

 一つは、魔王についての調査だ。

 魔王が現代に転生していることは、ほぼほぼ確定だ。
 わりと近いところにいる可能性が高い。

 しかし、その正体は謎。

 なればこそ、今世の魔王は誰なのか?
 それを突き止めないといけない。

 それと……
 魔王の目的や、根本的な正体。
 力の源や切り札を有しているか?

 いつか訪れるであろう魔王との戦いに備えて、できる限りの情報を集めておかなければいけない。

 もう一つは、俺達のレベルアップだ。
 魔王の件について、みんなに協力してもらうことになった。
 まだ公にはできないものの、ローラ先生も動いてくれている。

 ただ……

 正直な感想を口にすると、戦力としては心もとない。
 魔王と戦うことになった時。
 あるいは、それに類する敵と戦うことになった時。
 みんなは苦戦を免れないだろう。

 アラム姉さんやシャルロッテは優秀な魔法使いだ。
 エリゼもフィアも才能はある。
 アリーシャは魔法剣という、独特な力を持つ。

 それでも。

 魔王を相手にするとなると心もとない。
 もっともっと強くなってもらわないと困る。

 なので……
 もう一つのやるべきことは、俺も含めて、味方全体のレベルアップだ。



――――――――――



「……というわけで、これから毎日、訓練をしようと思う」

 レイドアロマを後にして、学院に戻り。
 そして、放課後。

 みんなを訓練場に集めて、これからのことについて話した。

「むっ! このわたくしが力不足とか、レンの目は節穴ですの?」
「シャルロッテは強いよ。でも、魔王はもっと強い。もしも戦うことになれば、シャルロッテは、たぶん、一撃で終わると思う」
「それは侮辱ですわ!」

 ふかー!
 という猫のような感じで、シャルロッテが怒る。

 ちょっと申しわけない気持ちになってしまうのだけど……
 でも、これは事実なのだ。

 魔王と直接戦ったことのある俺だからこそ、ヤツの強さと恐怖を理解している。

「先日、鉱山で戦った外法の魔物、覚えているか?」
「ええ、もちろんですわ」
「魔王は、最低でも、あれの100倍は強い」
「……冗談ですわよね?」
「本気だ。ついでにいうと、100倍っていうのも軽く見積もっているからな」
「な……」

 俺の言葉の本気を悟り、シャルロッテが絶句した。

 嘘じゃない。
 誇張表現でもない。

 魔王の力は絶大だ。
 先日の外法の魔物の100倍……下手をしたら1000倍くらいの力を有している。
 あえて100倍としたのは、あまりに大きな数値を口にしたら怯んでしまうかもしれない、と思ったから。

 前世から、ヤツは世界を滅ぼすほどの力を持っていて……
 それだけじゃなくて、現代に転生して、それなりの時間が経っている。
 あれから、さらなる力を手に入れていたとしてもおかしくはない。

「そ、そんな化け物だったなんて……はぅ」
「あたし達、勝てるのかしら……?」
「勝てないと思う」

 ここは、きっぱりと言い切る。
 下手なことを言っても意味がないからだ。

「「「……」」」

 みんな、暗い顔になるのだけど、

「でも、それは今の話だ。これから訓練を重ねて強くなれば、きっと勝てる。魔王という脅威を乗り越えられるはずだ」
「お兄ちゃん……それは本当ですか?」
「もちろん。俺は、こういうことに関して嘘は吐かないさ」
「……ん。なら、私はお兄ちゃんを信じてがんばります! 訓練、いっぱいします!」
「私もよ。可愛い弟と妹だけに任せるなんて、そんなことできないもの」
「あたしも、やるわ。この剣がどこまで届くのか。魔王に届くのか。試してみたい、っていう気持ちがあるもの」
「わたくしより強いとか、魔王は生意気ですわ! だからこそ、わからせてやらないといけませんわね、ふふんっ!」
「お、お嬢様と一緒にがんばりたいと思います!」

 うん。
 みんな、やる気たっぷりだ。

 やっぱり辞めた、なんてことになったらどうしよう? と密かに心配していたのだけど……
 どうやらそれは杞憂だったようだ。

 もっと、みんなを信じないとな。
 まだまだ俺もダメだ。

「ところで、お兄ちゃん」
「うん?」
「魔王に関する調査の方はどうするんですか?」
「ああ、それは大丈夫。ローラ先生が、お偉いさん達を説得すると同時に、平行して調べてくれるみたいだから」
「それなら安心ですね!」
「もちろん、俺達も調査をする必要はあるけど……まずは強くならないと話にならない。これからしばらくは、毎日、訓練だ」

 毎日と聞いても、みんな、表情を崩すことはない。
 真面目で、使命感に満ちた瞳を見せてくれている。

「色々と言いたいことはあるけど……とりあえず、一つ。みんなで一緒にがんばろう! みんなの力を合わせれば、なんでもできるはずだ!」
「「「おーーーっ!!!」」」

 ……こうして俺達は、普段の授業だけではなくて、独自に訓練を始めることになった。