「「「むぅううううう!」」」
エリゼが頬を膨らませていた。
アラム姉さんとアリーシャが鋭い目をしていた。
シャルロッテは目を逆三角形にして……
珍しくフィアも怒っていた。
怒らせてしまった、か……
仕方ないか。
俺は、それだけ身勝手なことをしていた。
だから、みんなが怒るのは当たり前。
失望されたとしても当然。
だから……
「お兄ちゃん、水くさいです!」
「あれ?」
怒られると思っていて、その通りに怒られたのだけど……
なんとなく、怒られ方のベクトルが予想と違うような気がした。
お前なんかどうでもいい、という感じで突き放されると思っていた。
でも、そうじゃなくて……
一人で勝手をするな、という方向の怒り方だ。
……たぶん。
仕方ないだろう、人の心の機微には疎い。
聡いのならば、前世で孤独な人生を過ごしてなんていない。
「エリゼの言う通りよ。レン、どうしてそんな大事なことを今まで黙っていたの? どうして、私達に隠していたの?」
「それは……」
「まあ、レンのことだから、私達を巻き込まないようにしたんだろうけど」
「うっ」
お見通しだった。
さすがアラム姉さん。
「ねえ、レン。あたしは、レインの気持ちは嬉しいわ。あたし達のことを考えてくれている。でも、それは優しさとは少し違うわ。臆病、っていうのよ?」
「まったく! レンはおバカですわね、とんでもないおバカさんですわ。それだけのことを一人で抱え込もうとして、無茶をして、結局、ダメになりかけて……はぁあああああ。わたくし、過大評価していましたかしら?」
「えっと、その……わたし達、友達です。だから、なんでも、とは言えませんけど……でも、その、大事なことは教えてほしいです。手伝わせてほしいです」
「……みんな……」
優しさが心に染みる。
一人で抱え込んで。
巻き込んだらいけないと考えて。
なんていうか、もう……
俺、ひとりよがりがすぎていたな。
みんなの言葉を受けて、ようやく理解することができた。
例えば、アラム姉さんが俺と同じことをしていたら?
俺は怒っていただろう。
そして、寂しく思っていただろう。
それなのに俺は……ああ、もう。
ものすごく情けなくて、恥ずかしい。
穴があったら入りたい、っていうのはこういう気持ちか。
「ごめん。それと、ありがとう」
素直な気持ちを伝えると、みんなは、ようやく笑みに戻る。
「その言葉が聞きたかったわ」
「これからは、隠し事はなしですよ?」
「約束を破ったら、毎日、スイーツを奢ってもらいますわ!」
「お嬢様、それ、ただの欲望では……い、いえ、なんでもありません」
「はは……気をつけるよ」
笑うしかなくて、俺は、みんなに笑顔を返すのだった。
――――――――――
「しかし、魔王……か」
アリーシャが深刻な表情でつぶやいた。
先程までの雑談は終わり。
ここからが本題だ。
「そんな化け物が存在していたなんて、まったく知らなかったわ」
「わたくしも、聞いたことありませんわね。貴族としても活動をしていると、そういう話は、どこからか流れ込んでくるものですが……」
「えっと、その……あまりにも情報の『質』が違うのと、闇が深いから、誰も触れて来なかったのかもしれません……そ、想像ですけど!」
「ありえますわね」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。その魔王って、なにがしたいんですか?」
「え」
なにげないエリゼの質問。
ただ、俺は即答することができなかった。
「話を聞く限り、お兄ちゃんに嫌がらせをしたいというか……敵意があることは間違いないと思うんですけど。でも、ちょっと妙な感じがするんです」
「妙な感じ?」
「話に聞くようなすごい存在なら、もっと派手なことができると思うんです。でも実際は、人を操るとかして、遠回しに攻撃をしかけてくるだけ。敵なのか、敵っぽい嫌な人なのか、ちょっとよくわからない感じです」
「それは……」
……そうなんだよな。
今まで周囲で起きた事件は、たぶん、そのほとんどに魔王が関与していた。
裏で手を引いて、不幸を撒き散らそうとしていた。
ただ、やり方を見ると手ぬるい。
もっと悲惨な結果を導き出すことや。
あるいは本人が前に出て、破壊を撒き散らすことも可能なはず。
今までは、魔王は力を取り戻しておらず、直接、手を下すことはできないと考えていた。
ただ……
エリゼが言うように、そうだとしても、やや回りくどさは感じる。
なんていうか、こう……
「試されている……?」
エリゼが頬を膨らませていた。
アラム姉さんとアリーシャが鋭い目をしていた。
シャルロッテは目を逆三角形にして……
珍しくフィアも怒っていた。
怒らせてしまった、か……
仕方ないか。
俺は、それだけ身勝手なことをしていた。
だから、みんなが怒るのは当たり前。
失望されたとしても当然。
だから……
「お兄ちゃん、水くさいです!」
「あれ?」
怒られると思っていて、その通りに怒られたのだけど……
なんとなく、怒られ方のベクトルが予想と違うような気がした。
お前なんかどうでもいい、という感じで突き放されると思っていた。
でも、そうじゃなくて……
一人で勝手をするな、という方向の怒り方だ。
……たぶん。
仕方ないだろう、人の心の機微には疎い。
聡いのならば、前世で孤独な人生を過ごしてなんていない。
「エリゼの言う通りよ。レン、どうしてそんな大事なことを今まで黙っていたの? どうして、私達に隠していたの?」
「それは……」
「まあ、レンのことだから、私達を巻き込まないようにしたんだろうけど」
「うっ」
お見通しだった。
さすがアラム姉さん。
「ねえ、レン。あたしは、レインの気持ちは嬉しいわ。あたし達のことを考えてくれている。でも、それは優しさとは少し違うわ。臆病、っていうのよ?」
「まったく! レンはおバカですわね、とんでもないおバカさんですわ。それだけのことを一人で抱え込もうとして、無茶をして、結局、ダメになりかけて……はぁあああああ。わたくし、過大評価していましたかしら?」
「えっと、その……わたし達、友達です。だから、なんでも、とは言えませんけど……でも、その、大事なことは教えてほしいです。手伝わせてほしいです」
「……みんな……」
優しさが心に染みる。
一人で抱え込んで。
巻き込んだらいけないと考えて。
なんていうか、もう……
俺、ひとりよがりがすぎていたな。
みんなの言葉を受けて、ようやく理解することができた。
例えば、アラム姉さんが俺と同じことをしていたら?
俺は怒っていただろう。
そして、寂しく思っていただろう。
それなのに俺は……ああ、もう。
ものすごく情けなくて、恥ずかしい。
穴があったら入りたい、っていうのはこういう気持ちか。
「ごめん。それと、ありがとう」
素直な気持ちを伝えると、みんなは、ようやく笑みに戻る。
「その言葉が聞きたかったわ」
「これからは、隠し事はなしですよ?」
「約束を破ったら、毎日、スイーツを奢ってもらいますわ!」
「お嬢様、それ、ただの欲望では……い、いえ、なんでもありません」
「はは……気をつけるよ」
笑うしかなくて、俺は、みんなに笑顔を返すのだった。
――――――――――
「しかし、魔王……か」
アリーシャが深刻な表情でつぶやいた。
先程までの雑談は終わり。
ここからが本題だ。
「そんな化け物が存在していたなんて、まったく知らなかったわ」
「わたくしも、聞いたことありませんわね。貴族としても活動をしていると、そういう話は、どこからか流れ込んでくるものですが……」
「えっと、その……あまりにも情報の『質』が違うのと、闇が深いから、誰も触れて来なかったのかもしれません……そ、想像ですけど!」
「ありえますわね」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。その魔王って、なにがしたいんですか?」
「え」
なにげないエリゼの質問。
ただ、俺は即答することができなかった。
「話を聞く限り、お兄ちゃんに嫌がらせをしたいというか……敵意があることは間違いないと思うんですけど。でも、ちょっと妙な感じがするんです」
「妙な感じ?」
「話に聞くようなすごい存在なら、もっと派手なことができると思うんです。でも実際は、人を操るとかして、遠回しに攻撃をしかけてくるだけ。敵なのか、敵っぽい嫌な人なのか、ちょっとよくわからない感じです」
「それは……」
……そうなんだよな。
今まで周囲で起きた事件は、たぶん、そのほとんどに魔王が関与していた。
裏で手を引いて、不幸を撒き散らそうとしていた。
ただ、やり方を見ると手ぬるい。
もっと悲惨な結果を導き出すことや。
あるいは本人が前に出て、破壊を撒き散らすことも可能なはず。
今までは、魔王は力を取り戻しておらず、直接、手を下すことはできないと考えていた。
ただ……
エリゼが言うように、そうだとしても、やや回りくどさは感じる。
なんていうか、こう……
「試されている……?」