「お兄ちゃん」

 エリゼの鋭い視線。

 彼女だけじゃない。
 アラム姉さん、アリーシャ、シャルロッテ、フィア。
 みんなが俺達を……というか、俺を睨みつけていた。

「どうして、レンがこんなところにいるのかしら? そして、どうしてあんな事件に関わっていたのかしら? 私を納得させる説明をしてもらえるかしら」

 アラム姉さんが鬼のように見える。
 勝手をしたこと、相当に怒っているな。

 それは他のみんなも同じで、不機嫌そうだったり拗ねていたり、反応は似たような感じだ。

「えっと、それは……」
「下手な言い訳をしたら許さないわよ」
「……」

 アラム姉さんに先回りされてしまい、言葉を失う。

 どうする?
 どうすればいい?

 俺一人の問題ではないということは自覚した。
 一人で魔王を倒す、ということも現実的ではない。

 もっと味方を増やしていく必要がある。
 協力を求めていかなければいけない。

 みんななら、たぶん、俺の話を信じてくれると思う。
 話すつもりはないけど……
 なんなら、前世のことも含めて信じてくれそうだ。

 だけど……

 本当にそれでいいのだろうか?
 みんなを巻き込んでしまい、それでいいのだろうか?

 エリゼとアラム姉さんは大事な家族だ。
 アリーシャとシャルロッテとフィアは、大事な友達だ。
 そのみんなを巻き込む?

 失うのは怖い。
 傷ついてしまうのは怖い。

 でも、それは信じていないのと同じで……
 ああ、くそっ。
 俺はいったい、どうすればいいんだ?

「やれやれ」

 メルがため息をこぼす。

「レンは強いのに、でも、時々、ものすごく弱くなるね」
「なにを……」
「恐れるのは仕方ないよ。というか、当たり前のことさ。大事なものを失うことをなんとも思わない人なんていない。それは、極々一般的な感情なのさ」
「……なにが言いたいんだよ?」
「それくらい乗り越えてみせろ、ってね」

 メルは、ちょっといたずらっぽい顔をして、指先でちょんと俺の鼻を押す。

「恐れることは簡単だ。信じることは難しい」
「それは……」
「男なんだから、っていうのは時代錯誤な言い方かもしれないけど……それでも、男気を見せてほしいところだね? ほら、がんばれ」
「……」

 俺は、少しの間、言葉を失い……
 ややあって苦笑した。

 なんていうか……
 メルには敵わないな。

 彼女の言う通りだ。
 恐れてばかりではなにも変わらない。
 それよりも、難しいことだとしても信じないと。
 一人ではなくて、みんなで前に進む勇気を掴まないと。

「みんなに話がある」



――――――――――



 魔王という脅威。
 そして、その脅威が身近にいる可能性が高く、なにかしら企んでいる。
 その企みは世界に影響を及ぼす、破滅的なものである。

 ……そんな話をみんなにした。

 一人では限界があるという現実を知り。
 メルに促されて。
 それでも、ギリギリのところまで話すかどうか迷っていた。

 話すことにしたのは、信じることにしたからだ。

 前世は一人で全てを抱え込み、周りに興味を持たないでいた。

 今世は違う。
 抱え込むところはあるものの、でも、色々と助けてもらっている。
 一人で完結する世界なんて望んでおらず、みんなと一緒にいたいと思う。

 だから……そのために、信じることにした。

 優しくて。
 温かくて。
 頼りになるみんなのことを。

「……と、いうわけで、最近、色々と動いていたんだ」

 前世のことは、さすがに荒唐無稽なので伏せつつ……
 それ以外は全て打ち明けた。

 反応が怖い。
 みんなの顔を見ることができない。

 ついつい顔を逸らしてしまうのだけど……
 でも、勇気を振り絞り、視線を元に戻す。

 みんなは……怒っていた。