前世については、その方面の知識を持たない人からしたら荒唐無稽な話になってしまう。
下手をしたら信じてもらえないだけじゃなくて、途中で話を打ち切られてしまうかもしれない。
なので、前世については伏せて……
魔王の存在についてローラ先生に説明をした。
世界を滅ぼしかねない、魔王という存在がいること。
いくつかの事件で魔王の影を感じたこと。
そして、今回の事件も魔王が関与している可能性が高いということ。
それらを説明して……
「……俺は、ちょっとしたことがあって魔王の存在を知りました。ヤツを放置すれば、誇張表現なんかじゃなくて、世界が滅びるかもしれません。世界を救うなんてだいそれたことは言えないけど……でも、家族や友達は守りたい。だから俺は、魔王の企みを阻止して、ヤツと戦う決意をしたんです。今回の件も、それに関係しています」
「魔王……ですか」
「……やっぱり、信じられませんか?」
「そう、ね……正直なところ、信じるのは難しい話ですね。そのような存在がいるなんて話、聞いたことがありません」
ダメか。
ローラ先生ならと思ったんだけど……
「……でも」
ローラ先生は柔らかい表情に。
「ストライン君が嘘を吐いたことは、今までに一度もありませんでしたね」
「……ローラ先生……」
「男性なのに魔法が使えると学院にやってきた時も。独自の魔法理論を提唱した時も。生徒達の問題を解決する時も。あなたは、いつでも誠実であり、真面目に問題に取り組んできました。そんなストライン君が言うのだから、魔王の話も嘘ではないのでしょう」
「それじゃあ……!」
「私は、ストライン君の話を信じますよ」
そう言って、ローラ先生はにっこりと笑った。
よかった。
緊張が解けて、体の力が抜けていく。
このまま床に転がってしまいたい気分だ。
「しかし……そうなると、とても厄介な話ですね。正体不明。目的もよくわからない。テロリストのようなものですが……それ以上に難しい相手のようですね」
「たぶんだけど、魔王の目的は世界を滅ぼすことじゃないかな?」
メルが補足をするように言う。
「ほら。物語だと、こういう展開はお決まりだよね」
「世界を? なぜ、そんなことを……?」
「それはよくわからないけどね。あと、そんなありきたりな、って思っているかもしれないけど……でも、よく考えてほしい。圧倒的な力を持つ存在が、真面目に世界を滅ぼすことを考えている。これ、実はかなりやばいと思わない?」
すぐにメルの言いたいことを理解した様子で、ローラ先生は息を飲む。
魔王は確かに実在する。
圧倒的な力を持ち……
そして、一度、世界を滅ぼしかけた。
正体不明ではあるものの、その脅威は本物なのだ。
「だとしたら、なおさら厄介ですね……そのような存在、証拠もなしに、どうやって上に信じてもらえばいいのか。それに、一般に公開もできませんね。パニックを誘発してしまいます」
「姿形がわかりませんからね。もしかしたら、俺達と同じ人の姿をしているかもしれない。そう考える人が出てきたら、魔女狩りが始まるかもしれません」
「一般に情報は秘匿しつつ、しかし、上は説得しなければいけない……頭が痛くなるようなミッションですね。はぁ」
ローラ先生は、思わずという様子でため息をこぼした。
俺達の話を聞いたこと、後悔しているのだろうか?
だとしたら、話さない方がよかったのかも……
「……とはいえ、愚痴をこぼしてばかりもいられませんね」
「え」
「スティア―ト君とティアーズさんは、独自に魔王について調べていたんですよね? まずは、そちらの情報を共有してくれませんか? それで、どうにか上を説得してみます」
「あ、はい。それはもちろん」
「それと、二人は、このまま魔王に関する情報を集めてほしいです。現状、魔王について一番詳しいのは二人のようなので……ただし、危険には絶対に飛び込まないこと。危険を冒さなければいけない時は、必ず私に相談すること。なにができるかわかりませんが、戦うことくらいはできますからね。いいですね? 約束できますか?」
「えっと……はい、できます」
ちょっとぽかーんとしつつ、頷いた。
てっきり、断れるか逃げられるか、その二択だと思っていたんだけど……
ローラ先生は、真面目に俺達の話を聞いてくれた。
その上で、俺達を信じてくれた。
さらに、どうするべきか真剣に考えて、今できることを示してくれた。
なんて頼りになるのだろう。
一人で解決しようとしていた俺はバカみたいだ。
「ひとまず……さらに詳しい話は学院に戻ってからにしましょう。今は、事件の後処理をしなければいけませんから」
「えっと、俺達は……」
「後で事情聴取が何回かあると思うので、街で待機していてください。学院には私が連絡しておくので、そこは心配しなくても大丈夫ですよ」
「わかりました」
「では、また後で」
ローラ先生は軽く微笑み、部屋を後にした。
瞬間、色々な緊張が解けて、どっと疲れが襲ってくる。
「はぁあああああ……疲れた。精神的に思い切り疲れた……」
「ボクもだよ……精神年齢はボク達の方が上のはずなのに、なんでこう、妙に緊張してしまうんだろうね? 肉体年齢に引っ張られているのかな?」
「かもな。それにしても……」
さきほどの会話を思い返す。
「ローラ先生……俺達の話、信じてくれたな」
「だねえ」
「てっきり、嘘を吐いてごまかさないように、とか言われると思っていたんだが」
「そう言われても仕方ないね。魔王とか、物語の中だけの存在だからねえ」
「それでも信じてくれた」
素直に嬉しいと思う。
協力してくれると言った。
そのことも嬉しい。
ただ……
「これで……よかったのかな?」
魔王という前時代の災厄を、この時代に関わらせてしまった。
厄介な問題に巻き込んでしまった。
そんな思いがどうしても拭うことができない。
「やれやれ。レンは、色々と一人で抱え込みすぎだよ」
「そう……かな?」
「そうだよ。確かに、前世のキミは一人で魔王と戦っていたかもしれない。でも、今世でも、同じように一人で戦わないといけない、なんて縛りは必要ないじゃないか。もっとも、己の力を証明するために、っていうのが理由なら、一人で戦う必要があるかもだけどね」
「それはない」
驚くほど自然にメルの言葉を否定することができた。
確かに、前世の俺は力にこだわっていた。
魔王を討伐しようとしたのも、世界で最強であることを示すためだ。
でも、今は違う。
強さに興味がないといえば嘘になる。
でも、それ以上に大事なものができた。
家族や友達を守りたい。
みんなの笑顔を守りたい。
心の底からそう願っている。
だから……
「俺は、魔王を倒さないといけないんだ」
下手をしたら信じてもらえないだけじゃなくて、途中で話を打ち切られてしまうかもしれない。
なので、前世については伏せて……
魔王の存在についてローラ先生に説明をした。
世界を滅ぼしかねない、魔王という存在がいること。
いくつかの事件で魔王の影を感じたこと。
そして、今回の事件も魔王が関与している可能性が高いということ。
それらを説明して……
「……俺は、ちょっとしたことがあって魔王の存在を知りました。ヤツを放置すれば、誇張表現なんかじゃなくて、世界が滅びるかもしれません。世界を救うなんてだいそれたことは言えないけど……でも、家族や友達は守りたい。だから俺は、魔王の企みを阻止して、ヤツと戦う決意をしたんです。今回の件も、それに関係しています」
「魔王……ですか」
「……やっぱり、信じられませんか?」
「そう、ね……正直なところ、信じるのは難しい話ですね。そのような存在がいるなんて話、聞いたことがありません」
ダメか。
ローラ先生ならと思ったんだけど……
「……でも」
ローラ先生は柔らかい表情に。
「ストライン君が嘘を吐いたことは、今までに一度もありませんでしたね」
「……ローラ先生……」
「男性なのに魔法が使えると学院にやってきた時も。独自の魔法理論を提唱した時も。生徒達の問題を解決する時も。あなたは、いつでも誠実であり、真面目に問題に取り組んできました。そんなストライン君が言うのだから、魔王の話も嘘ではないのでしょう」
「それじゃあ……!」
「私は、ストライン君の話を信じますよ」
そう言って、ローラ先生はにっこりと笑った。
よかった。
緊張が解けて、体の力が抜けていく。
このまま床に転がってしまいたい気分だ。
「しかし……そうなると、とても厄介な話ですね。正体不明。目的もよくわからない。テロリストのようなものですが……それ以上に難しい相手のようですね」
「たぶんだけど、魔王の目的は世界を滅ぼすことじゃないかな?」
メルが補足をするように言う。
「ほら。物語だと、こういう展開はお決まりだよね」
「世界を? なぜ、そんなことを……?」
「それはよくわからないけどね。あと、そんなありきたりな、って思っているかもしれないけど……でも、よく考えてほしい。圧倒的な力を持つ存在が、真面目に世界を滅ぼすことを考えている。これ、実はかなりやばいと思わない?」
すぐにメルの言いたいことを理解した様子で、ローラ先生は息を飲む。
魔王は確かに実在する。
圧倒的な力を持ち……
そして、一度、世界を滅ぼしかけた。
正体不明ではあるものの、その脅威は本物なのだ。
「だとしたら、なおさら厄介ですね……そのような存在、証拠もなしに、どうやって上に信じてもらえばいいのか。それに、一般に公開もできませんね。パニックを誘発してしまいます」
「姿形がわかりませんからね。もしかしたら、俺達と同じ人の姿をしているかもしれない。そう考える人が出てきたら、魔女狩りが始まるかもしれません」
「一般に情報は秘匿しつつ、しかし、上は説得しなければいけない……頭が痛くなるようなミッションですね。はぁ」
ローラ先生は、思わずという様子でため息をこぼした。
俺達の話を聞いたこと、後悔しているのだろうか?
だとしたら、話さない方がよかったのかも……
「……とはいえ、愚痴をこぼしてばかりもいられませんね」
「え」
「スティア―ト君とティアーズさんは、独自に魔王について調べていたんですよね? まずは、そちらの情報を共有してくれませんか? それで、どうにか上を説得してみます」
「あ、はい。それはもちろん」
「それと、二人は、このまま魔王に関する情報を集めてほしいです。現状、魔王について一番詳しいのは二人のようなので……ただし、危険には絶対に飛び込まないこと。危険を冒さなければいけない時は、必ず私に相談すること。なにができるかわかりませんが、戦うことくらいはできますからね。いいですね? 約束できますか?」
「えっと……はい、できます」
ちょっとぽかーんとしつつ、頷いた。
てっきり、断れるか逃げられるか、その二択だと思っていたんだけど……
ローラ先生は、真面目に俺達の話を聞いてくれた。
その上で、俺達を信じてくれた。
さらに、どうするべきか真剣に考えて、今できることを示してくれた。
なんて頼りになるのだろう。
一人で解決しようとしていた俺はバカみたいだ。
「ひとまず……さらに詳しい話は学院に戻ってからにしましょう。今は、事件の後処理をしなければいけませんから」
「えっと、俺達は……」
「後で事情聴取が何回かあると思うので、街で待機していてください。学院には私が連絡しておくので、そこは心配しなくても大丈夫ですよ」
「わかりました」
「では、また後で」
ローラ先生は軽く微笑み、部屋を後にした。
瞬間、色々な緊張が解けて、どっと疲れが襲ってくる。
「はぁあああああ……疲れた。精神的に思い切り疲れた……」
「ボクもだよ……精神年齢はボク達の方が上のはずなのに、なんでこう、妙に緊張してしまうんだろうね? 肉体年齢に引っ張られているのかな?」
「かもな。それにしても……」
さきほどの会話を思い返す。
「ローラ先生……俺達の話、信じてくれたな」
「だねえ」
「てっきり、嘘を吐いてごまかさないように、とか言われると思っていたんだが」
「そう言われても仕方ないね。魔王とか、物語の中だけの存在だからねえ」
「それでも信じてくれた」
素直に嬉しいと思う。
協力してくれると言った。
そのことも嬉しい。
ただ……
「これで……よかったのかな?」
魔王という前時代の災厄を、この時代に関わらせてしまった。
厄介な問題に巻き込んでしまった。
そんな思いがどうしても拭うことができない。
「やれやれ。レンは、色々と一人で抱え込みすぎだよ」
「そう……かな?」
「そうだよ。確かに、前世のキミは一人で魔王と戦っていたかもしれない。でも、今世でも、同じように一人で戦わないといけない、なんて縛りは必要ないじゃないか。もっとも、己の力を証明するために、っていうのが理由なら、一人で戦う必要があるかもだけどね」
「それはない」
驚くほど自然にメルの言葉を否定することができた。
確かに、前世の俺は力にこだわっていた。
魔王を討伐しようとしたのも、世界で最強であることを示すためだ。
でも、今は違う。
強さに興味がないといえば嘘になる。
でも、それ以上に大事なものができた。
家族や友達を守りたい。
みんなの笑顔を守りたい。
心の底からそう願っている。
だから……
「俺は、魔王を倒さないといけないんだ」