「……それで、どういうことなのかしら?」

 レイドアロマの宿の一室。
 そこで俺達は正座をして、ローラ先生にジロリと睨まれていた。

 ……どうにかこうにか黒い霧を撃破することに成功した。

 その後、俺達は誘拐されていた生徒達と共に鉱山を脱出。
 国に連絡をして、生徒達を保護してもらった。

 誘拐犯の正体は不明。
 目的も不明。
 今後、国の騎士が調査にあたるだろう。

 とはいえ、魔王が関与している可能性が非常に高い。
 俺も独自に調査をしたいと思っていたのだけど……

「で?」

 ローラ先生の鋭い視線。

 調査とかそれ以前に、勝手をしたことを咎められてしまい……
 今、メルと一緒に正座をさせられて、説教を受けているところだった。

「えっと……ごめんなさい」
「なにがごめんなさい、なのかしら? まずは、きちんと説明をしてください」

 あー……
 これ、適当に謝ってごまかす、っていうのは通じないヤツだ。

 どうしよう?
 魔王について話すことはできないけど、でも、ある程度本当のことを話さないと納得してくれないだろうな。

 ただ、ローラ先生はとても賢い人だ。
 もしかしたら、ある程度のことを話したら、独自の思考で魔王の存在に気づいてしまうかもしれない。

 過去、世界を滅ぼしかけた存在。
 魔の頂点に立つ者。
 本当の意味での人間の天敵。

 そんなものの存在が公になれば、どうなるか?

 パニック。
 暴動。
 国家間の無意味な争い。

 前世で見た嫌な光景が脳裏をよぎる。

 ただ……

「……先生。これからとても真面目な話をします。でも、それはとても滑稽な話です」
「レン?」

 メルが驚いた様子でこちらを見た。

 ローラ先生にある程度の事情を話す。
 そんな俺の決意を察したのだろう。

 俺達以外の人に魔王のことを告げるのは大きなリスクが伴う。

 ただ俺は、こうも考えたんだ。
 果たして、俺達だけで魔王を止めることはできるのか? ……と。

 今回の事件。
 いつものように魔王の影がちらついたもので……
 しかし、今まで以上に狡猾で非道な内容だった。

 犯人は不明だけど……
 調査の結果、誘拐した生徒から魔力を奪い取るのが目的だろう、と推測できた。

 ただ奪い取るのではなくて、家畜のように飼い慣らして、奪い続ける。
 生かさず殺さず。
 延々と魔力を吸い取る。

 もしも俺達の介入がなければ、誘拐された生徒達は、ずっとずっと魔力を奪い取られていただろう。
 それだけの装置と化していただろう。

 そんなこと許すことはできない。
 許すことはできないのだけど……
 しかし、俺の手で止められるかというと、怪しいところだった。

 メルの助けがなかったら?
 ローラ先生の助けがなかったら?
 エリゼ達に協力してもらえなかったら?

 ……たぶん、事件を解決できていない。
 外法によって生み出された魔物を倒すことができず……
 倒すことができたとしても、街に被害が出ていただろう。

 前世では賢者と呼ばれ、もてはやされていた。
 今世では天才扱いされて、やはりもてはやされていた。

 でも、それは驕りだ。
 調子に乗っているだけだ。

 俺一人でできることなんて、たかがしれている。
 どれだけがんばったとしても、すぐに限界が訪れてしまう。

 巻き込みたくないから、って意地になって遠ざけるのではなくて。
 信じて、背中を預けることの方が大事なのだろう。きっと。

 今回の事件で、俺は、そのことを学んだ。

「メル、いいか?」
「んー……ま、いいさ。キミの判断に従うよ」
「ありがとう」
「えっと……どういうことですか?」

 俺達の様子を見て、ただ、いたずらをしたわけじゃないと気づいたのだろう。
 ローラ先生が困惑顔になる。

「今から話すことは、誓って本当のことです。嘘は欠片も吐いていません。なので、先生が信じてくれないと意味のない話です」
「……わかったわ。私は、二人の話を信じると誓います」

 やや間を置いてから、ローラ先生は静かに頷いた。

 教師として生徒を叱るのではなくて。
 人と人として、対等の会話をする。
 そんな想いが伝わってきた。

 感謝だ。
 やっぱり、この人になら協力を求めていいだろう。

「実は……」