「メル、ちょっとそのまま足止めを頼む」
「オッケー」

 その間に、俺は思いついた策をみんなに話す。

「みんな、このまま足止めをお願いしてもいいか?」
「はい、任せてください! お兄ちゃんのためにがんばりますっ」
「それはいいけど、レンは、あいつを倒す方法があるの?」

 アラム姉さんはもっともな疑問を口にした。

 足止めに成功しても、倒せなければ意味がない。
 ただ、そのとっかかりは手に入れた。

「さっき、メルが魔法を放った時、ちらっと見えたんです。黒い霧の中心に、ルビーのような石がありました。たぶん、あれが魔物の核だと思います」
「それを壊せば……というわけね」
「でも、霧に包まれているせいで手が出せないわ」
「なので、足止めだけじゃなくて、もう一つ、お願いしたい」

 エリゼ、アラム姉さん。
 アリーシャ、シャルロッテ、フィア。
 ローラ先生。

 みんながいればなんとかなるはずだ。
 俺一人で解決するのではなくて……
 信じることで、事態を打開できるはずだ。

 そう。
 信じてみよう。
 俺の背中を預けてみよう。

「強力な光属性の攻撃をぶつければ、霧が剥がれていく。そうやって、1秒でもいいから、ヤツの核を露出させてほしい。そこを、俺が叩く」
「あら。レンが美味しいところを持っていきますの?」
「絶対に成功させるから任せてくれないか?」
「……ふふん、そこまで言うのなら仕方ありませんわね。わたくしは、レンに任せることにしますわ。そして、わたくしの役目を果たしてみせましょう。みなさんは?」

 シャルロッテがみんなを見た。

 返事はすぐだ。

「私は、もうとっくに決まっています!」
「私も。弟のことは信じているし、そのために、私もがんばるわ」
「あいつの黒い手は、あたしに任せて。全部、斬ってみせるわ」
「で、できる限り、がんばります!」
「生徒がこれだけがんばっているのだから、大人であり、教師である私は、絶対にミスはできないわね」

 決まりだ。

 外法かなんだか知らないが……
 俺達の力、ヤツに見せつけてやろう!



――――――――――



「火炎槍<ファイアランス>!」
「氷結槍<アイシクルランス!>」
「そして……雷撃槍<ライトニングランス>×5、ですわ!」

 最初に、エリゼとアラム姉さんとシャルロッテが動いた。

 初級魔法ではあるものの、それを雨のように降らせていく。
 威力よりも手数。
 それは黒い霧には有効で、無数の攻撃を浴びて明らかに怯んでいた。

「フィアさん、合わせて」
「は、はいっ」
「「光爆<ライトインパルス>!!」

 ローラ先生とフィアが、ヤツの弱点である光属性の魔法を放つ。
 鎧のようにまとっていた霧が少しずつ削れていく。

 いいぞ! ……と思うのだけど、そうそう簡単にはいかない。

 黒い霧は不気味な咆哮を響かせつつ、反撃を繰り出してきた。
 黒い手を無数に生み出して、矢のように射出してくる。

 直撃は元より、かすることも避けたい。

「させないわ!」

 アリーシャが前に出て、剣を一閃。
 鮮やかな剣技を披露して、黒い手を全て切り落としてみせた。

「やるね。なら、ボクも……!」

 メルと、援軍の女性達も防御に回る。
 それぞれに魔法を唱えて、新しく生まれた黒い手を迎撃する。

「もう少し……!」

 みんなの奮闘のおかげで、黒い霧の核が少しずつ露出してきた。
 でも、まだ足りない。

 あと少し。
 もう少しで、確実に攻撃を叩き込むことができる。

 焦りを覚えた。
 俺も攻撃に参加した方がいいのでは? と迷う。

 でも……

 当初の作戦通り、みんなに任せる。
 俺は、魔力を貯めていく。

 不安がないといえば嘘になる。
 失敗するかもしれないという恐怖がある。

 だけど、みんなを信じると決めた。
 背中を預けると信じた。

 ならば、それを最後まで貫いてみせよう。

 そして……

「お兄ちゃんっ!」

 黒い霧の核が完全に露出した。

 瞬間、俺は溜め込んでいた魔力を解放する。

「崩落之聖域<エンドアーク>!」

 対象範囲は極々一部。
 極光を持ち、ただ一点を貫く光属性の攻撃魔法。

 しかし、威力は絶大。
 上級魔法にカテゴリーされる魔法だ。

 世界を白く染めるほどの強烈な光が解き放たれて、それは黒い霧の核を正確に貫いて……