「……もしかしたら」

 ふと、ローラ先生がつぶやいた。

「私の推測が外れていてほしいのですが……あの黒い霧は、とても厄介な存在かもしれません」
「知っているんですか?」
「古い文献で一度読んだだけなので、断定はできませんが……あれは、外法によって生み出された存在かもしれません」
「外法?」

 聞いたことがない。
 今の世界の新しい技術だろうか?

 ただ、古い文献といったから……
 もしかしら、俺の前世よりも、さらに昔の技術?

「魔物を贄とすることで、新しい魔物を作り出す魔法のことです」
「なっ……それ、本当ですか?」

 いくら魔物とはいえ、命を弄ぶような行為が許されるわけがない。
 いや……だからこそ『外法』なのか。

 俺が知らず、表に出ていないのも納得だ。
 そんな情報、簡単に公開されるわけがない。

 基本、禁忌として封印されてきたのだろう。
 禁忌図書館を探せば、外法の情報の断片があるかもしれない。

 そんな状態だから表に出ることなく、世界の隅に埋もれるようにして……
 誰の目につくことなく、ひっそりと沈んでいたのだろう。

 ……ただ、そうなると、なぜここで外法が使われているのか、が気になる。

 俺も気づくことができないでいた。
 ならば、犯人は、どうやって外法を知った?
 そして、そんなものを利用して、なにをしようとしていた?

 誘拐された生徒達が関係していると思うが……

「って、考え事は後だな」

 ここまできたら正体を隠しておく必要はない。
 というか、戦うのに邪魔だ。

 女装を解除。
 いつもの『俺』に戻る。

「えっ!? スティア―ト……くん?」
「やっぱりお兄ちゃんです!」

 ローラ先生は驚いて、エリゼはむふーとドヤ顔。
 ちなみに、アラム姉さん達は驚いていた。

「雷撃槍<ライトニングランス>!」

 まずは様子見の一撃。
 初級魔法を……でも、それなりの魔力を込めて放つ。

 紫電が黒い霧を打つ。
 ただ、見た感じ、効果はほとんどない。
 なにも感じていない様子で、相変わらず不気味にうごめいていた。

「ローラ先生、あいつについて詳しい情報を持っていませんか?」
「たぶん、スティア―ト君よりは詳しいと思いますが……後で、じっくり話を聞かせてもらいますよ」
「あ、はい」

 やばい。
 説教、確定だ。

 でも、まあ……
 仕方ないこと。
 今は考えないことにしよう。

「外法で進化しているとはいえ、魔物であることに変わりありません。倒すことは可能ですが……」

 ローラ先生は黒い霧から視線を外すことなく、厳しい表情を作る。

「問題は、まったくの未知の魔物に進化しているということ。新しい種を作り出す、ということなので、対処法や弱点がわかりません。もちろん、敵の特徴や攻撃方法も」
「なんて厄介な……」
「まずは牽制と様子見を続けた方がいいですね」
「了解です」
「レン、私達は……」
「アラム姉さん達は後方で待機を。いざという時は援護を頼むので、ちょっと、力を温存しておいてください。失われた魔力も、少しは回復するかもしれません」
「……わかったわ」

 牢に囚われていた時間はわからないけれど、アラム姉さん達も魔力を吸われているはずだ。
 今は攻撃に参加しないで、トドメを刺す時など、とっておきの場面で協力してもらった方がいい。

「さてと……怪物退治といくか!」